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【 GERMAN SPECIAL CARS!! vol.14 至福の時間を特別なクルマで。/時を経ても感じられるAMGの情熱と理念。AMG E60× E63AMG 】

独立したチューナーとして出発したAMGだが、その高い技術力によってメルセデスとの関係を深めていく。新旧のAMGを見ながら、そのキャラクターを辿っていこう。

 

1995y AMG E60 (W124)

AMGの技術力を広く知らしめた300E6.0-4Vの後継として登場した、500Eをベースとする6ℓモデル。名機M119ユニットをAMGの高い技術力で限界までボアアップしたハイレベルな完成度を持つコンプリートカーだ。

今見ても飽きない直線基調のボディラインと、高性能の証ともいえるオーバーフェンダー。500E乗りの憧れとして絶大な人気を誇る。

フロント、サイド、リアにAMG専用のエアロパーツを装着しているが、全体的には落ち着いた雰囲気。高い剛性を持つW124のボディに、ショックアブソーバーやスクエア形状のマフラーなどのAMG専用品を装着して強化している。足回りはフロントがストラット、リアがマルチリンクとなっている。

ステアリングにもカーボンが装着され、ブラック系でまとめられた室内は特別な雰囲気。デザインはシンプルで、派手さではなく作りにこだわった仕上げがなされている。シートはレカロCSE。電動調整機能が付き、高いホールド性を持つ。
ウッドではなく、カーボンを装着するセンターパネル。ATはダイレクトなフィーリングが魅力の機械式4速。
 

メカニカルチューンで仕上げた至高の名機

 メルセデスの名機とも言われるM119型のV8DOHC。AMGはこれをベースに過給機を使わずメカニカルチューンを施す。専用のクランクシャフトやピストンで排気量を6ℓに拡大し、カムシャフトやコンピュータなどのチューンによって最高出力も高めている。その回転のスムーズさとシャープさは、ノーマルのM119よりも確実に洗練されており、優雅でありながらパワフルで鋭い反応を見せる。スペックだけを見れば現代のAMGには敵わないけれど、そのフィーリングは別格だ。

CAR DATA 95年式 AMG E60

Specifications

全長…4750㎜
全幅…1795㎜
全高…1400㎜
ホイールベース…2800㎜
トレッド(前)…1540㎜
トレッド(後)…1530㎜
車両重量…1750㎏
エンジン方式…V8DOHC
総排気量…5956㏄
最高出力…381ps/5500rpm
最大トルク…59.2㎏-m/3750rpm
トランスミッション…機械式4速AT

主な専用装備

■AMGフロントスポイラー
■AMGサイド&リアスカート
■AMG18インチアルミホイール
■AMGエキゾーストシステム
■AMG強化ブレーキシステム
■AMG専用サスペンション
■AMG300km/hスケールメーター
■ブラックバーズアイウッドパネル

 

2010y E63 AMG (W212)

W212(前期)をベースにしたE63は09年にデビュー。パワーユニットは滑らかで官能的なフィーリングのV8DOHC6.2ℓユニット。最高出力はEクラスのボディには十分過ぎる524psを発揮する快速セダンである。

NAのV8DOHC6.2ℓを搭載。エクステリアはフロントスポイラー、サイド&リアスカート、トランクスポイラーなどのAMGの専用装備で覆われている。
足回りはフロントがコイル、リアはエアスプリングとなる電子制御サスペンションでスポーツ走行とコンフォートな乗り心地を両立している。5本スポークアルミホイールの奥には、500馬力オーバーを受け止める強力なブレーキが見える。

現代のAMGらしい高級感と快適装備が満載されたインテリア。ミッションは7Gトロニックのトルクコンバーターの代わりに湿式多板クラッチを使用したAMGスピードシフトMCT。ホールド性の高いスポーツシートのほかメーターも専用品となる。
 

年式によってNAとツインターボがある

 この時代のAMGの主力ユニットとなっていた6.2ℓのV8DOHCは、AMG初となる自社製のパワーユニットである。モータースポーツで培った可変バルブコントロールシステムや、シリンダー内の吸気効率を高める直立型吸気ポートなどを採用している。NAならではの高回転まで伸びやかに回っていくパワーフィールは全域でスムーズ。11年6月には最新の直噴システムを搭載してツインターボ化。排気量は5.5ℓに縮小されているが、最高出力は変わらず524psを得ている。

CAR DATA 10年式E63 AMG

Specifications

全長…4895㎜
全幅…1870㎜
全高…1440㎜
ホイールベース…2875㎜
トレッド(前)…1625㎜
トレッド(後)…1595㎜
車両重量…1920㎏
エンジン方式…V8DOHC
総排気量…6208㏄
最高出力…524ps/6800rpm
最大トルク…64.2㎏-m/5200rpm
トランスミッション…電子制御式7速AT

主な専用装備

■AMGフロントスポイラー
■AMGサイド&リアスカート
■AMGトランクスポイラー
■AMG18インチアルミホイール
■AMGエキゾーストシステム
■AMG強化ブレーキシステム
■AMG専用サスペンション
■AMG専用インテリア

AMG E60× E63AMG

時代によってチューニングは異なるが
AMGの情熱と理念は不変である

 メルセデス・ベンツの本社のあるドイツ・シュツットガルトの中心地からクルマで40分、アファルターバッハのAMGファクトリーでは、50人のマイスターたちが丹精込めてAMGメルセデスのエンジンを組み上げている。
 今でこそメルセデス・ベンツのカタログモデルとしてラインナップされるAMGだが、その起源はレースを闘うために生まれた技術集団だった。かつてメルセデス・ベンツのテスト部門に在籍していたひとりの男、ハンス・ヴェルナー・アウフレヒトは、自らの理想を具現化すべく、1967年にAMGを設立。「AMG」とは、彼と創設パートナーを組んだエルハルト・メルヒャー、そして発足当時の本拠地グローザスバッハの頭文字であるA、M、Gを並べたもの。
「私は何よりもレースが好きだった。とにかく速いクルマを作りたかったし、何よりレースに勝ちたかった。もちろん、メルセデスでね」とは、アウフレヒトの言葉だ。
 71年、AMGワークスとして初めて参戦したスパ・フランコルシャン24時間レースで、AMGは300SEL6.3改6.8を駆って、総合2位、クラス優勝を遂げる。以後、AMGはヨーロッパ・ツーリングカー選手権等のレースで好成績を収め続けていく。同時に、彼らのもとには評判を聞きつけた顧客が集まるようになった。そしてアウフレヒトは、レースを闘うことで培ったノウハウを惜しみなく客のクルマに注ぎ込んだのだ。
 そして88年、AMGはメルセデス・ベンツとパートナーシップを結んでDTM(ドイツ・ツーリングカー選手権)に参戦する。92年にはクラウス・ルドヴィックがチャンピオンを獲得し、AMGはメルセデス・ベンツのレース部門としての確固たる地位を築き上げた。93年には、メルセデス・ベンツとの正式なジョイントベンチャーとしてC36をデビューさせ、AMGモデルはそれまでのオートクチュール的な存在から、メルセデス・ベンツの「最上級グレード」な存在へと姿を変えることになる。その一方でAMGは「顧客一人一人の要望に沿って手作りで仕立て上げる」という昔ながらのスタイルもしっかりと残している。

現代の技術を駆使した
AMG史上初の自社製63ユニット

 そして2006年、AMGは史上初めて自社製エンジンを開発した。通称「63」と呼ばれる、自然吸気V型8気筒DOHCエンジンだが、このM156型エンジンの総排気量は6208㏄である。しかし、AMGは6.3ℓと言ってはばからない。なぜか? AMGが71年に初めてレースに参戦したスパ・フランコルシャン24時間レースで成功を収め、AMGの名を世に広めることになった300SEL6.8のベースエンジンが6.3ℓだったからに他ならない。まさに、ヘリテージ以外の何ものでもないが、こうしたこだわりに、今なおAMGの情熱と理念を感じ取ることができる。時代が変わり、販売台数が飛躍的に向上したとしても、自らの出自を忘れないところに彼らの強さがあるのだと思う。
 その後、AMGはM156エンジンをベースに、アルミニウムのクランクケース、マグネシウムのインテーク、鍛造ピストン、ドライサンプ方式を採用したM159エンジンを開発。最高出力571ps/66.3㎏-mを発揮するそれは、SLS AMGに搭載された。
 なお、次世代AMGに搭載されるのは、2010年に登場したM157ユニット。排気量は5.5ℓとダウンサイジングされてはいるが、最新の直噴システム、水冷インタークーラ付きツインターボチャージャー、オイルポンプのオンデマンド制御、オルタネータのインテリジェント制御などの技術が導入されて、さらなる高効率化が図られ、欧州排ガス規制EU5をクリアしている。585ps/91.8㎏-m(2013年以降のS63AMG)というM156エンジンを上回る出力を発揮しながらも、大幅な低燃費性、CO2排出量の削減による環境適応性を高いレベルで両立させている現代のAMGエンジンなのだ。
 AMGがゼロから開発したM156エンジンの前には、5.5ℓ+スーパーチャージャーのM113エンジン(いわゆる55ユニット)が採用されていたが、さらにひとつ前のM119ユニットを忘れてはいけない。メルセデスのV8エンジンとしては初めてDOHCヘッドが採用された5ℓNAユニットだ。このエンジンは、ボアを3.5㎜拡大して100㎜(厳密には99.985㎜)に、ストロークを9.5㎜伸ばして94.5㎜とされ、5956㏄の排気量から、381ps/59.2㎏-mのパワーを得ている。ご存知、AMG E60に搭載されたエンジンだ。
 では、実際にドライブした時にどのエンジンが楽しいのか? 技術的な詳細はさておき、「小排気量エンジンが最新技術とターボチャージャーにより達成した500馬力オーバー」と、「6ℓという大排気量エンジンが必然的に達成した300馬力オーバー」は、数値がたとえ同じだったとしても、実際にドライブしてみれば、パワー感とトルク感は明らかに異なることがわかるはずだ。その違いは、誤解を恐れずに言わせてもらうのなら、ヘビー級ボクサーと、ヘビー級並みのパンチ力を持ったミドル級ボクサーの違いと言えばいいだろうか。
 もしあなたが「ヘビー級の戦い」を好むのであるのならば、ターボ搭載車ではなく、往年の大排気量エンジン搭載モデルを選ぶのがいいかもしれない。もちろんそれらのモデルには、現行最新モデルに比して、決してよくない燃費やパーツ代が高いというマイナス面があるかもしれない。しかし、往年の大排気量AMGは、しゃかりき感とは無縁の、ある種貴族趣味的な、最高の「贅沢品」となるはずだからだ。

 

AMGのエンジンは
今でも手作業で組んでいるの?

熟練のマイスターでも1日2基が限界

 独立チューナーだった時代には、機械加工からエアロパーツの取り付けまで、完全なハンドメイドによって行なわれていたAMGのアファルテンバッハ工場。では、現代のAMGはどうなのかというと、エンジンだけは手組みによる組み立てが行なわれている。例えば、6208㏄のV8、M156の場合、熟練したマイスターでも組み上げるのは1日に2機が限界だという。部品一点一点の状態を見極め、クリアランスをキッチリと測りながら正確に組み付ける。こうして完成したエンジンには、組み上げたマイスターによるサイン入りのプレートが取り付けられるのだ。完成したエンジンの検査体制も非常に厳しい。排気管が真っ赤になるほどエンジンを回してベンチテストする風景は有名だ。やはり、AMGのエンジンは特別なのである。

一人のマイスターが責任を持って手組みしているAMGのエンジン。完成後の検査も厳しい。