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S123 W123

2022.06.28

【Mercedes-Benzミディアムクラス】のんびり、ゆったり、それがW123の醍醐味

 昨今、ドイツ車に限らず、ネオクラシックやクラシックの人気が上昇傾向にある。実はネオクラシック系のメルセデスは、普段から普通に乗れるだけの性能を備えている。では、その醍醐味とは何なのか。W123/S123ことミディアムクラスをのんびりとドライブしながら探っていきたい。

セダンの代わりに成り得るワゴンはミディアムクラスにしか存在しなかった

 現在のメルセデスのラインナップを確認すると、バブル時代のトヨタかと思うほど幅広い車種を用意している。RRの2BOXにFFの2BOX、クロスオーバーに4ドアクーペ、さらにはシューティングブレイクなど、その充実したボディラインナップに今さらながら驚きを隠せずにはいられない。
 そんな現在の状況とは大きく異なっていたのが80年代。メルセデスのボディバリエーションの王道といえばセダンであった。華やかなクーペやオープンボディも古くから存在し、それらもメルセデスを象徴するクルマであったが、本流はあくまでセダン。これを元にボディバリエーションを増やすというのが通例だった。
 ところが、セダンから最も派生しやすいと思われるワゴンボディは実に少なく、90年代にCクラスにステーションワゴンが追加されるまで、ミディアムクラス(またはEクラス)にしか用意されていなかった。クロカン4駆のGクラスは登場していたが、これは特殊な存在だったため、セダンの代わりとしても使えるステーションワゴンはSクラスユーザーもコンパクトなメルセデスユーザーも、ミディアムクラスのワゴンという選択肢しかなかったのだ。
 それゆえ、S123とS124は特別な印象を持つモデルであったし、セダン以上に高級なイメージがあった。その傾向は現在の中古車市場でも同じで、ワゴンモデルの方が圧倒的に高い相場を形成している。

カジュアルベンツの筆頭と言えるのが、このS123。ゆったりとした乗り味を楽しみながら、実用性も高いのが魅力。サーフィンを楽しむユーザーからも厚い支持を集めている。
大きな純正ステアリングは遊びも大きく感じやすい。よって、ステアリングの遊び調整は定期的に必要になる。ATは前期型が3段でそれ以外は4段の機械式となる。
正規輸入車である300DTと300TDTは、全て収納式のサードシートが収まる。エマージェンシー的なシートだが、この時代に7人乗りの乗用車はかなり貴重な存在だったのだ。
高圧縮に耐えるべく、堅牢なスチールブロックで設計された5気筒ディーゼルターボエンジン。耐久性が高く燃費も良好。経済性に優れるユニットだが、ディーゼル規制の対象になっている。一方ガソリンエンジンの280TEは都市部でも問題なく乗り続けることが可能。この280TE、ディーゼルから載せ替えられたものと並行車の2種類が存在する。
撮影車両は前後のシートを合成皮革に張り替え済み。まだ仕上げ途中の85年式300TDTで、価格などは未定。
直線基調のボディラインとメッキモールがクラシカルな雰囲気を高めている。低いトランクリッドによって後方視界はよく、運転しやすい。メルセデスでありながら原色系のソリッドカラーが似合うのはW123の特権。
 
 ネオクラ系メルセデスの筆頭といえば、やはりW123だと思う。70年代に登場したクラシカルなスタイルは、メルセデスにありがちなアクの強さが消えて、カジュアルにもフォーマルにも乗りこなすことができる。とくにセダンは100万円前後から狙える物件が存在するため、最も手の届きやすいネオクラシック・メルセデスなのだ。ボディカラーもオレンジやライトブルーなど、原色系のソリッドが豊富に用意されているので、カジュアルに乗りこなす向きには最適な選択になる。
 現在、W123の主流は、190Eと同じ比較的新しい設計の230Eと、古典的なDOHC8バルブユニットの280Eがほとんど。どちらもタフなエンジン&ミッションだが、整備状態の悪いものは燃費が悪い。まずはO2センサーが正常に働いているか否かを確認したい。また、ボールナット形式のステアリングは遊びが大きく出やすい。230Eはその調整が簡単だが、280Eは構造上面倒で特殊工具が必要な場合もある。そのため、ステアリングの遊び調整を行なっていない個体が多いのは280Eである。
 お次はワゴン。今回W123の専門店であるピースから借り出したのは、懐かしの300TDTである。残念ながら、排気ガス規制によりその区域内での継続車検などができないため、流通量が極端に減少してしまった。一時期、このディーゼル規制をクリアするため、280Eのエンジンに載せ替えるというアプローチが流行したため、中古車市場では280TE、300TD&300TDTといったグレードが主流である。中古車相場は上昇傾向にあり、200万円台の物件はかなり少なめで、300万円以上が増加中。これは絶対数が少ないために起きている現象で、程度が良いから価格が上昇しているとは限らないので注意したい。またすでに希少であるため、購入前に何台も見比べることができないが、この手のモデルはとにかく慌てず、コンディションを重視して選ぶことが失敗を避けるコツだ。ちなみに、ワゴンモデルであるS123は、現在需要が供給を上回っている状況で、販売車両が出ると多くの問い合わせが全国から来るそうだ。
 さて、話をピースから借り出した300TDTに戻す。それにしても久々に乗ったS123の5気筒のディーゼルターボユニットは、懐かしくもあり、古めかしくもあり、最近流行のクリーンディーゼルとは全く違う乗り味だ。発進からアクセルペダルを強く深く踏み込み、徐々に力を抜いていくという古典的なディーゼルの乗り方が求められる。ガラガラ音も振動も大きいが、3ℓの5気筒ディーゼルは豊かな低速トルクをATのトルコンがさらに増大させるため、低回転域では実に粘りのある走りを披露する。中回転域付近でやっとターボが利き始め、まったりとした加速を示しながら頭打ちとなる。高回転域が無いに等しいのはディーゼル本来の特徴だ。
 正直なところ高級感は感じられないが、古典的なディーゼル特有の走りと優れた燃費は今も大きな魅力だ。高速巡航では、常に深めのアクセル操作が必要になるが、これに疲れたら標準装備のクルーズコントロールを使えばよい。のんびり、ゆったりとドライブする、そんな楽しみ方が最も似合うメルセデスだと思う。排気ガス規制の対象区域外であったら、積極的に選びたくなるのが300TDTというグレードだ。
 一方、ガソリンエンジンの280TE。動力性能は現代でも全く遜色ない。パワーも十分で、静かで快適だ。現代のクルマと比較して古さを感じる部分は、エアコンの利きが弱めなこと。これはディーゼル、セダンモデルも含めてだが、猛暑の渋滞では、利きの弱さと同時に水温も気になるところ。これらの弱点は、夏前にエアコンガスの補充を行なうことと、冷却系の入念な点検をすることでトラブルに遭う確率をゼロに近づけることができる。
 W123のみならず、その後継モデルであるW124も十分ネオクラ世代に突入している。W123のようなクラシカルな印象はやや薄いので、中途半端な状態で乗るとただの古いベンツという印象を与えかねない。名車たるW124に今乗るなら、良い状態で乗ることだ。そうすることで、ネオクラ系メルセデスの醍醐味を十分に味わうことができる。

ネオクラシック系ワゴン&セダン
メカニズムはどう違う?

油圧レベライザー付きリアサスはS123から

重い荷物を積んでも車体を水平に保つ、油圧レベライザー付きのリアサス。S124でもお馴染みのこの機構、S123から装着されている。油圧ポンプやホースの交換など、整備費用が嵩むため、現在はこれを使用していない個体も多い。W123で特徴的なアイテムであるボディ同色のホイールキャップは、廉価グレードの標準アイテム。280TEや300TDTはアルミホイールが標準となる。