- 時間が経過しても色褪せない魅力を持つドイツの名車たち。そのストーリーを辿る。今回は未だ多くのファンを魅了するW124こと初代Eクラスの中でも希少なカブリオレに会いに行ってきた。
Mercedes-Benz E320 cabriolet 1994y
初代Eクラスクーペをベースに電動開閉式のソフトトップを持つカブリオレ。トップは室内のボタン操作で開閉できるオートマチックで、これにはSLクラスで培った油圧シリンダーの技術が盛り込まれている。自動ロールバーも装着するなど安全性も考慮されている。セダンとは違った優雅な雰囲気を感じさせる。
高いボディ剛性を持つ
4シーターオープン
1985年に4ドアセダンのみでデビューしたミディアムクラス(W124)は、87年にクーペ(C124)、88年にステーションワゴン(S124)とモデルバリエーションを追加したが、カブリオレモデルであるA124が登場するのはW124が中後期モデルを迎えた93年のこと。320CEカブリオレの名称でデビューし、翌94年にはフェイスリフトを受けてE320カブリオレとなる。A124はデビューが遅かったために、わずか3年しか生産されなかったレアなモデルと言える。
A124のシャシーはクーペのC124と同じで、サルーンに比べて全長&ホイールベースが85㎜短い。とは言っても、ただ単にクーペをオープンにコンバートしたという設計ではなく、ボディ剛性を確保するために、1000点もの新設計パーツが採用された。だから、高速道路の繋ぎ目を乗り越えても、車道から段差のあるコンビニの駐車場に入る際も、ボディはミシリともいわないどころか、クーペよりボディ剛性が高いのでは? と思えてしまうほどのガッチリ感がある。
また、A124はオープンカーでありながらも、リアシートにはハイバックレストを装備し、大人2人がゆったりと乗れるスペースが用意されている。また、ソフトトップ・クローズド時はクーペ並みの静粛性を発揮してくれるし、ヘッドクリアランスも余裕のある作りとされているから、実用的な4人乗りオープンカーといっていい。
A124のオープンカーとしての資質は非常に高く、今でこそ当たり前になったけれど、運転席に座ったまま、ボタンとレバー操作のみで簡単にソフトトップの開閉が可能。だから、信号待ちをしていて、赤から青に変わる間に気軽に開閉ができてしまう。しかも、リアには熱線入りのガラスを装備しながらも、ソフトトップをオープンにした状態ではトランクリッドと同じ高さのフラットなフラップの中に収納されるから、オープン時にはスッキリとしたボディスタイルを堪能できる。
この電動トップ、R129型SLと同じ機構が採用されている。唯一異なるのは、R129の電動トップが完全なフルオートであるのに対し、A124の電動トップは前側のロックが手動とされている点だ。
時速110㎞くらいまでならば、サイドウインドーを上げれていれば風の巻き込みも気にならない。また、強烈なヒーターとシートヒーターも搭載されているから、冬でも気軽にオープンエアを楽しむことができるのだ。
DOHCの直列6気筒3199㏄のエンジンは225ps/32.1㎏‐mのパワーを発揮する
ご存知の方もいると思うが、実はこのA124の320CEカブリオレ、2シーターオープンスポーツのSL320よりも車格が上なのである。A124は、70年代初頭に途絶えてしまった優雅なメルセデスの4シーター・オープンモデルであるW111型280SEカブリオレの末裔との位置付けとなる。その証拠には、SL320が980万円(94年モデル)という新車価格だったのに対し、320CEカブリオレは1120万円(93年モデル)のプライスタグを付けていたのだ。なんと、140万円の差である。
とはいえ、当時はバブルの余韻がまだ残っていたにもかかわらず、1000万円以上の価格を付けたEクラスを求めるユーザーはそう多くはなかったから、販売台数も非常に少なく、希少なクルマと言っていい。
E320カブリオレが搭載するエンジンはDOHCの直列6気筒のM1049ユニット。3199㏄の排気量から225ps/32・1㎏‐mのパワーを発揮する。このエンジン、直6らしいスムーズさとトルクの発生の仕方や吹け上がりのフィーリングが最高に素晴らしい。すごく滑らかなのに、踏めば踏んだだけスッと出る手応えがある。しかも暴力的ではなく、ジェントル。まさに、メルセデス最後の直列6気筒として、有終の美を飾る傑作エンジンといっていいだろう。
トランスミッションは、カブリオレとクーペだけが採用する5速AT。しかも今の電子制御式とは違う、メルセデス伝統の機械式ATだ。シフトショックの少なさと、シフトスケジュールのきめ細かさを実現したATは、シルキーなエンジンとの相性も抜群で、このパワートレインの組み合わせを味わうためだけにA124に乗ってもいいと思わせてくれるほどだ。
ミッションはクーペ同様の機械式5速。これは4速ATがベースとなっており、5速ギアと電気的にシフトチェンジを促すソレノイドバルブが追加されている。
走行距離は4.9万km。良いコンディションを保っている希少なカブリオレだと言える。
オープンカーでも遊びの匂いがしない
上品なイメージ漂うカブリオレ
W124らしい地を這うような高い安定性が感じられる走り。良い意での曖昧さを持つハンドリングも味わい深い。W124シリーズの中でもカブリオレは希少な存在だけに、自動車趣味を存分に堪能できる個性がある。
20年以上の時を経て
より味わい深い印象に
私事で恐縮だが、以前、W124に完全にハマっていた時代があった。2台のセダンと1台のステーションワゴンを所有しながら、次はクーペを加えたいとは考えたが、さすがにカブリオレには食指が動かなかった。タマ数が少なく、かつ高プライスということもあったけれど、何より、E320カブリオレにどんなスタイルで乗ったらいいのか、どんなシチュエーションでオープンにしたらいいのかというイメージがイマイチ湧かなかったからだ。
通常のオープンカーには遊びグルマというイメージがあるのに、A124にはそれがない。フォーマルとは言わないが、カタいイメージが先行して、遊びの匂いがしないのだ。だから、リゾート地でオープンにするのはいいとして、街中でオープンにしたら、かなり浮いた感じになってしまうのではないかと不安になる。つまり、E320カブリオレは乗り手を選ぶ。上品なイメージ漂うA124を乗りこなすには、乗り手がそれ以上に品良くスマートでなくては、クルマのオーラに負けてしまいそうなのだ。
ただ、新車から20年以上経った今となっては、新車時に感じたそんなオーラもある程度、落ちついてきた感はある。もちろん、純粋な遊びグルマとしてA124を選ぶ人はいないだろうし、もっと言えば、強い思い入れのある人の琴線にしか触れないはず。希少性の高さは誰もが認めるところだから、今あえてA124に乗るというのも趣味としては素敵なことだと思う。
Mercedes-Benz E320 cabriolet
●主要諸元
全長 : 4655 mm
全幅 : 1740 mm
全高 : 1390 mm
ホイールベース : 2715 mm
ト レッド 前/後 : 1505/1500 mm
車両重量 : 1810 kg
エンジン方式 : 直6DOHC
総排気量 : 3199 cc
ボア×ストローク : 89.9×84.0 mm
最高出力 : 225/5500 ps/rpm
最大トルク : 32.3/3750 kg-m/rpm
タイヤサイズ(前後) : 195/65R15
新車時価格 : 990万円