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【 ドイツ車世代別メンテ / 高齢世代 (新車から21年以上) / vol.08 異音とオイル漏れに注意!! ステアリングギアボックスとパワステポンプ 】

ステアリングを切ったときの異音が発生する場合、操舵系に不具合が起きている可能性が高い。ステアリングギアボックスやパワステポンプがその代表的な部分で、高齢世代のドイツ車ではトラブルが発生する事例が増えている。

 

ステアリングギアボックスのタイプによって
対処方法は大きく異なる

Parts Data

✔このパーツの役割は?

ハンドルの動きをタイヤに伝える

 ステアリングギアボックスとはハンドルの動きを水平方向に変換してタイヤの向きを変えるもので、パワステポンプによる油圧によってその動作がラクに行なえるようになっている。この油圧式ではリサーキュレーティングボール式とラック&ピニオン式の2タイプがある。

✔劣化するとどんな症状が出る?

 ステアリングを切ったときに異音が出たり、ギアボックスやラックの油圧ラインからオイルが漏れ出すことが多い。パワステポンプでも同様の症状が発生するため同時に点検するのが基本。

✔長持ちの秘訣は?

オイル漏れを放置しないこと

 操舵系を長持ちさせるにはオイル漏れを放置しないことが大事。ゴムホースの交換だけで済むはずが、オイル漏れを放置したことでギアボックスやポンプにダメージを与えてしまうこともある。また、据え切りをなるべく避けることで、ポンプへの負担も軽減することができる。

 

オーバーホールが可能な
ボール&ナット式

 ステアリング関連のパーツで不具合が多いのが、油圧ライン、ステアリングギアボックス、パワステポンプ。ここでは、この3つのポイントで発生するトラブルの症状と解決方法について解説していきたい。
 まずは油圧ラインからのオイル漏れ。パワステのリザーバタンクに備わるホースからのオイル漏れは定番で、多くのクルマで発生しているトラブルだ。リザーバタンクのキャップから漏れ出すこともあり、キャップの回りがオイルでベトベトになっているケースも少なくない。ゴムホースバンドで固定されているホースであっても、その部分を増し締めしたところでオイル漏れは止まらないため、定期的に交換していくしかない。耐久性に優れたステンメッシュ製のホースに交換するという手もあるが、全体的に見直さないと弱い部分にオイル漏れが発生するケースが多いので、ステンメッシュを使うときはフィッティングの部分も含めてよく検討する必要がある。
 ステアリングギアボックスには、リサーキュレーティングボール式とラック&ピニオン式の2つがある。最近では、電動式のステアリングも登場しているが、高齢世代のドイツ車に使われているのはこの2タイプである。
 まずは、リサーキュレーティングボール式。これはボール&ナット式とも言われるギアボックスで、高齢世代のメルセデス・ベンツやBMWなどの一部に装着されている。作りそのものは非常に頑丈なのだが、ゴムシールの劣化によってオイル漏れが発生することが多い。そのまま放置しておくと油圧の低下を招いてしまうから、その前にギアボックスをオーバーホールしておく必要がある。
 その内容としては、内部をバラして洗浄後、ボールベアリングとゴムシール類の交換を行ない、組み付け後に遊びの調整をして完成となる。この遊びの調整がリサーキュレーティングボール式では重要で、フィーリングにも大きな影響を与える部分。遊びの量をあまりに減らそうとするとギアにも悪影響を与えてしまうので、整備マニュアルを基本に調整をすることが重要だ。また、リサーキュレーティングボール式はギアの磨耗よりもボールベアリングの磨耗のほうが早いので、これを交換することは非常に効果的だと言える。
 現在も主流となっているラック&ピニオン式のステアリングギアボックスは、高齢世代のドイツ車においても多くのクルマに採用されている。ラック&ピニオン式はリサーキュレーティングボール式に比べて部品点数が少ないことと、ボールベアリングを介さずにステアリングの動きが直接ギアへと伝わるためクイックな挙動になるのが特長だ。
 ラック&ピニオン式で多いのはやはりオイル漏れだが、ステアリングを切ったときに異音が発生するケースも多い。しかし、修理方法としてはリサーキュレーティングボール式のようにオーバーホールするのではなく、新品またはリビルト品に交換するのが一般的。もちろん、オーバーホールができないというわけではないのだが、ギア同士が直接噛み合っているラック&ピニオン式では、ラックギアとピニオンギアの両方を交換するとなると費用も高額になる。そのため、ラック&ピニオン式はリビルト交換が主流で、オーバーホールを行なっているところは少ないというのがその理由だ。
 リビルト品は約10万円以上なので、予算によっては中古品を使うというチョイスもあるが、品質を見極めるのが難しいので長期使用には向いていない。トラブルが再発するリスクも高いので、それを理解したうえで次の車検までといったように期間限定的な使い方をしたほうがいいだろう。
 また、ステアリングラックのブーツが切れているクルマも多いので、オイル交換などのついでに点検しておくといい。このブーツが切れたままだと車検でも不合格となる。

見た目にも頑丈そうなリサーキュレーティングボール式のギアボックス。ゴムシールの劣化によりオイル漏れを起こすことが多い。
リサーキュレーティングボール式はオーバーホールが可能。遊びの量を調整し直すのも、オーバーホールの重要な部分である。
油圧ラインが装着されているのが分かるラック&ピニオン式のステアリングラック。ホースからのオイル漏れも多く発生している。
ラック&ピニオン式のステアリングラックは、オーバーホールではなく内部の部品を新品にしたリビルト品に交換する手法が主流になっている。
ステアリングラックに備わるジャバラ状のブーツ。これが切れているクルマが多く、そのままだと車検でも不合格となってしまう。
 

パワステポンプは
内部部品の磨耗に注意!

 そして最後がパワステポンプ。文字通り油圧を生み出す部分で、メーカーからオーバーホールキットがリリースされているため、多くのモデルでオーバーホールが可能だ。
 パワステポンプもオイル漏れやステアリングを切ったときに「ウィーン」という異音が出ることが多い。オーバーホールの内容はギアボックスなどと同様で分解・洗浄・点検が基本であり、ゴムシールやパッキン類を新品に交換する。点検すべき重要なポイントは、ポンプ内部のローターに組み込まれたベーンと呼ばれる小さな金属部品。これが摩耗すると、メインシャフトにガタが生じてやがてその周辺に大きなダメージを与えてしまう。
 つまり、ゴムシールやパッキン類を新品に交換しただけでは、パワステポンプのオーバーホールとしては不完全なのだ。ベーンの状態をひとつひとつ丁寧に点検し、摩耗がひどいものは交換しなければならない。また、ベーンは方向性を持つパーツであり、組み方を間違えるとポンプのトラブルに繋がる。
 そもそもパワステポンプがダメになる原因は、ステアリングの据え切りやフルロックさせてしまうことでダメージを与えてしまうことが多い。狭い駐車場などでは仕方ないが、なるべく据え切りは避け、フルロック寸前で少しステアリングを戻してやることでパワステポンプの負担を軽減することができる。

パワステポンプは多くのクルマでオーバーホールが可能。分解して内部を洗浄し、消耗パーツを交換するのが基本だ。
オイル漏れの原因になりやすいのが、指で差している部分に備わるOリング。オーバーホールキットが用意されているクルマが多い。
ポンプ内部のローターに組み込まれた小さなベーン。これも磨耗するのでひとつひとつ点検して交換しておく必要がある。
 

フルード不足による
DIYメンテの重要ポイント

エンジンが暖まると異音は消えるが
放置するのは危険

ステアリングを切ったときに発生する異音の原因としてはステアリングギアボックスやパワステポンプの不良が多いというのは本文で解説した通りだが、もうひとつの事例を紹介しておこう。エンジンを始動させて間もないとき、つまり暖機される前にステアリングを切ったときに「ウィーン」という音が発生し、エンジンが暖まった後に消えるといった症状の場合、パワステフルードが不足していることがある。もしそういった状況になったらリザーバタンクをチェックして、フルードが足りていなければ補充しておこう。また、フルードが足りないということは、どこかで漏れている可能性が高いので早めに修理工場で点検してもらうこと。これを放置すると、高価なステアリングギアボックスやパワステポンプに与えるダメージも大きくなり、当然費用も嵩んでしまうので注意しよう。

エンジンがまだ冷えている状態でステアリングを切ったときに異音が発生し、暖まると消える場合はパワステフルードが不足していることが多い。どこかから漏れている可能性も高いので早めに点検する必要がある
作動油であるパワステフルードとフィルターは定期的に交換しておくこと。