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【 GERMAN SPECIAL CARS!! vol.10 至福の時間を特別なクルマで。/ 実用性とMの走りを両立したスーパーサルーン 】

初代のM5(E28)が登場したのは84年こと。88年にベースとなる5シリーズがE28からE34へとモデルチェンジを果たすと、M5もE34ボディへと生まれ変わる。

 

Profile of BMW M5

 その頃日本では派手なエアロパーツを装着したコンプリートカーが目立っていたが、それに比べるとエクステリアは控えめな印象。落ち着いた印象のエアロパーツ、グリルやトランクリッドに備わるMのエンブレム、冷却フィンが付いたホイールなどが専用品になっているくらいで一見するとノーマルとほとんど変わらないスタイル。インテリアも油温計が追加されたメーター、ステアリング、シート、シフトノブが専用品となる程度だ。
 ノーマルと大きく異なるのはやはり心臓部であるエンジンで、初代のE28型M5に搭載された3.5ℓのDOHCユニットのボアをそのままに、ストロークを2㎜アップしたS38ユニットを搭載。クランクシャフト、コンロッド、ピストンなどが一新され、M社のエンジニアの職人技とも言える各部のバランス取りによって最高出力315psを実現している。手作業で組み立てられたエンジンは、当時1日25台が限界だったというから、それだけ特別なクルマだったということだ。こうした丁寧な作りと名車M1に搭載されたM88ユニットの流れを汲むDOHCユニットであることは、多くのBMWファンの心を熱くさせていた。
 93年には排気量を3.8ℓへと拡大。ボア×ストロークを94.6×90.0とし、最高出力は25 psアップの340psに。当時ライバルとされていたメルセデス・ベンツ初代Eクラス(W124)よりも重い車重を、このパワフルなエンジンによってグイグイと引っ張っていき、その気になれば200㎞/hオーバーも難なくこなしてしまうほどのパワーユニットへと進化したのである。
 ここで紹介しているのがその後期型で、フロントバンパーにエアインテークが備わり、アルミホイールのデザインが一新されているが、エクステリアで大きな変更点はない。
 サスペンションも前期型と変わらずフロントがストラット、リアがセミトレーリングというBMW伝統のレイアウトだが、EDC(エレクトニック・ダンパー・コントロール)を装備しているのがトピック。
 これは7シリーズにも搭載された可変式のダンパーで、S(スポーツ)とP(プログラム)の2種類の減衰力を電子制御によって任意に変更することができるのだ。操作はいたって簡単で、メーター横にあるスイッチを上下に切り替えるだけ。Sモードでは、ご想像通りスポーティな味付けとなる。
 このような電子デバイスによって、普段使いではコンフォートな走り、休日はスポーツ走行といったクルマ好きにとっては堪らない魅力を両立したスーパーサルーンがM5というクルマなのだ。これをマニュアルで操るというところも、クルマ好きには堪らない魅力となるだろう。
 ド派手なコンプリートカーは当時を彩ったクルマであることに間違いはないが、レーシングユニットの血筋を持つエンジンを搭載したM5もまた、90年代を代表する名車だと言える。中古車としても希少な存在だ

スペックから想像すると全体的なデザインは控えめな印象だが、重厚感のあるスタイルがドイツ車らしい。サスペンションやブレーキは専用品となっている。EDC(エレクトニック・ダンパー・コントロール)を装備しているのがトピック。早くから電子制御化に取り組んでいた当時のBMWらしい装備である。
ステアリングは「M」のロゴが入ったスポーティな3本スポークを採用。カラーはブラック基調で、精悍な雰囲気を醸し出している。マニュアルミッションは5速タイプ。
シートのサイドサポートはレザーとなっており、サポート性の高い形状。中央部分に滑りにくいファブリックを配すなど、走りに適した構造になっている。5シリーズだけあって後席もゆとりのあるスペースを確保している。
 
シートの調整は電動式。微妙な調整ができるので、本気で走りたい時には重宝する機能。シートポジションは3パターンまでメモリー可能だ。
初期のM5は、アルミホイールの上にフィン状のキャップが被せられている。これは、内部に風を送ることで、ブレーキの過熱を防ぐためのものだ。

Specifications

全長…4720㎜
全幅…1750㎜
全高…1390㎜
ホイールベース…2765㎜
トレッド(前)…1475㎜
トレッド(後)…1490㎜
車両重量…1680㎏
エンジン方式…直6DOHC
総排気量…3535㏄
最高出力…315ps/6900rpm
最大トルク…36.7㎏-m/4750rpm
トランスミッション…5速MT

 

BMW M5 S38B36

設計の段階から全てが特別品であり
その中身はMの高い工作精度で仕立てられる

BMWの伝統となった直6レイアウト。理論上、全く回転にともなうアンバランスがなく、机上の理論どおりにはいかない実際のエンジンでも、直6ならではの優位性がある。そしてさらにNA(自然吸気)であることは、ドライバビリティやスポーティなクルマにおいて絶対に欠くことのできない要素。それを高次元で両立し、直6でのデメリットも解消してしまう凄さがこのエンジンには詰まっている。

 BMWの代名詞ともなったストレートシックス。すなわち、直列6気筒エンジンのことを指すのだが、BMWが現在も直6レイアウトを使い続けるには理由がある。エンジンの回転に伴うアンバランスがないことが構造上の優位性になっていることがまずひとつ。それがBMWの哲学、そして求める性能要件に合致しているからだ。他社がV型エンジンに移行しても、BMWは信念を貫き通す。目指すべき性能の答えが直6にあるのなら、それ以外のチョイスはなく、より性能を高めるための手段を考える。
 また、どんなに素性の良い直6エンジンでも、6気筒という気筒数の中で実現できる排気量にしては全長が長く、車両への搭載性が芳しくない。もちろんこういったデメリットも熟知した上で、ハンドリングやスタイリングへの影響を最小限に搭載する術を持っているのだ。
 そんな素性の良い直6をベースに、M社が仕立てたS38B36ユニット。このエンジンを製造していた頃、M社は1日25台という手作業に近い状態で、とにかく作りが丁寧。鋳造パーツにありがちな、バリなどは一切無く、パーツとパーツの合わせ面は、全てキレイに研磨されている。さらに、エンジンを速く回すことを考えて作られているため、ステムガイドクリアランスは、ノーマルエンジンよりも広く、耐久性と高性能化の両立を図るため、インテーク・エキゾーストの各バルブの素材には、インコネルとラジウムを採用。シリンダーヘッドの内側にはリブがあり、この形状によってブロックを強化。ちなみにこの技術はマクラーレンF1の、M70にも採用されていたものだ。重量バランスもM30(ノーマルのE34搭載エンジン)よりシビア。滑らかな回転を実現するため、各部のクリアランスも大きく取るなど、とにかく工作精度が非常に高い。これらはパワーを出す上で必要なことだが、どこを見てもここまで徹底しているところが、当時のM社によるチューニングの凄さなのである。

Engine Spec

エンジン形式…直6DOHC
総排気量…3535cc
内径×行程…93.4mm×86.0mm
圧縮比…10.0
最高出力…315ps/6900rpm
最大トルク…36.7kg-m/4750rpm
パワーウェイトレシオ…5.4kg/ps