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デジタル世代ドイツ車のトラブル傾向 Mercedes-Benz & BMW

クルマ作りが全く異なるデジタル世代とアナログ世代。維持の面から両者を比較した場合どんな違いがあるのか。それぞれのトラブル傾向やメンテナンスの方向性を見ながら、維持におけるメリットとデメリットを明らかにしていこう。

Mercedes-Benz 編 

 トラブルとしては、電子ユニットやセンサー系のトラブルが非常に多い傾向にある。もちろん全てが電気というわけではないので機械的なトラブルもあるのだが、頻度としては電気系のトラブルが目立っているのだ。センサー系で言えば、エンジン不調の原因になるクランクセンサーやエアマスセンサーが代表的なポイント。突然エンストしたり、アイドリングが不調になったときはこれらが不良であることが多い。コンピュータ診断機のエラーコードとして出ない場合もあるため、症状から原因を探っていく必要がある。

 警告灯の点灯によるトラブルも増えている。例えばBAS&ESPが点灯した場合、ブレーキペダルスイッチの不良が考えられる。これはブレーキが踏まれているかを検知するものだ。何度経験しても警告灯が点灯すると慌ててしまうが、こうした小さなスイッチが原因であることも少なくないのである。

 電子ユニット自体がダメになってしまうケースも多い。CANバスの搭載によってエアコンやパワーウインドースイッチなどがコントローラーの役目を持つようになっため、アナログ世代のように単なるスイッチではないのがデジタル世代の特徴。デジタル系ドイツ車の頭脳とも言えるECU、フロントセクションを制御するフロントSAM、リアセクションを担当するリアSAMなど、コントローラーからの信号を受け取るユニットにもトラブルが多く発生しているのだ。いずれも交換すれば直ってしまうため作業自体は簡単なのだが、部分的な修理ができなくなってしまったのが、アナログ世代との大きな違いである。

 電子制御化によってATのトラブルも増えた。変速不良やエマージェンシーモードに入ってしまうなどの症状が出た場合、コンダクタープレートと呼ばれる基板部分が壊れている可能性が高い。基板単体での交換ができるのでオーバーホールまでには至らないが、出先で起きるとやっかいなトラブルの一つである。もちろん機械的な不良もあって、内部のクラッチディスクが剥離してしまい変速不良を起こすことがある。そうなるとオーバーホールが必要になるが、ATは消耗品であることから、いずれ修理が必要になる部分だと割り切って修理するしかない。定期的なATF交換と丁寧な操作が寿命を延ばすコツだ。

 エンジン関係ではタペットカバーパッキンなどのオイル漏れが目立ってきた。放置されているケースも多いがなるべく早く対処しておきたいところ。こうした消耗品の数は増加傾向にある。V型エンジンがメインになるためパッキンは二つ必要になり、点火プラグの数もアナログ世代に比べれば倍以上になることもある。ただし、数が増えても全体的な信頼性は高く各パーツの寿命も延びているので、デジタルが不利とは言い切れない部分もある。

各部がユニット化されているのがデジタル世代のドイツ車の特徴。基本的に分解して直すことができないため、電子ユニットにトラブルが起きるとASSY交換となる。

機械的なトラブルもあるが頻度としてはセンサーや電子ユニットの不良が多い

クランクセンサー

エンジン不調の原因として多いのがクランクセンサーの不良。エンストやアイドリング不調が起きたらこれが怪しい。

ブレーキペダルスイッチ

BAS&ESPの警告灯が点灯したときの原因として考えられるのがこのスイッチ。ブレーキが踏まれたことを認識するためのものだ。

エアマスセンサー

エンジンが吹けない、息継ぎをするなどの症状が出たらエアマスセンサーが不良であることが多い。とても高価なパーツだ。

ECU(コンピュータ)

デジタル系メルセデスの頭脳であるECU。交換すると非常に高価だが、車種によってはリペアで修理することもできる。

ATの変速不良

電子制御式5速ATに多く発生したコンダクタープレート不良。基板部分のみを単体で交換することが可能だ。

アクセルペダルセンサー

アクセルが踏まれたことを感知するセンサー。ここにトラブルが起きると加速不良などを引き起こす。W220に多いトラブルである。

BMW編

 デジタル系BMWで多発しているのもセンサーやユニット不良。年々完成度が高まり、大きなトラブルが減っているBMWであるが、電気的な部分はやはり弱い。とくに多かったのがステアリングアングルセンサーの不良。警告灯が点灯したり、ステアリングを切り戻してもウインカーが解除できないなどの症状が出る。このトラブルが発生した場合、約7万円もするステアリングコラムを丸ごと交換するしかなかったのだが、トラブルが多発したためかメーカーからセンサー部分を単体で交換できるリペアキットが出ている。しかし、症状によってはセンサー交換だけでは直らないこともあるので注意しておきたい。カムシャフトセンサーやクランクセンサーの不良によるエンジン不調は定番。もし未交換なら高いパーツではないので予防的に換えておくと安心だろう。

 電子ユニットではジェネラルモジュールの不良によって、ドアロックが解除できないなどのトラブルが発生している。ABSユニットの不良は症状。診断機ではセンサー不良と出るが、実際はユニットがダメになっていることがほとんどだ。ハイテク装備を多く搭載するBMWだけに、ほかの電子ユニットの信頼性も気になるところである。

ステアリングアングルセンサー

ステアリングアングルセンサーの不良は多い。以前はコラムのASSY交換だったが、最近ではリペアキットが出ている。

カムシャフトセンサー

エンジン不調の定番がカムシャフトセンサー。これが不良になると診断機にエラーコードが出るが、エンストなどの症状が出たら早めに交換したい。

ジェネラルモジュール

GMと呼ばれるジェネラルモジュールはドアロックなどを制御している。ドアロックが作動しなかったり、解除できなくなったらコレが怪しい。

デジタル世代のメンテナンストピック

 電子制御化によって電気的な不良が増えたのがデジタル世代のドイツ車の特徴だが、消耗品については全体的に耐久性が向上していると言える。

 例えば、BMWの水回り。アナログ時代からの定番メンテと言えばウォーターポンプやサーモスタットの不良だった。E30こと2代目3シリーズのウォーターポンプは、走行4万㎞ごとの交換が必要なくらいシビアなものだったのだ。部品の形状もE30とE36では大きく異なるくらい改良が加えられている。しかし、E90型3シリーズではトラブルは大きく減少し、交換サイクルも長めになっているのである。各パーツの組み付け精度が上がったことがその要因の一つだと考えられる。

 ゴムパーツの耐久性も高くなっている。クルマの進化とともに使われる素材や、衝撃の逃がし方も変わってきているのだ。アナログ世代のメルセデスで言えば、ボディやサスペンションを頑丈に作って、ゴムパーツによって衝撃を逃がす設計になっているため、ゴムパーツにかかる負担が大きい傾向にある。だがデジタル世代は、ボディやサスペンションにかかる衝撃をうまくいなす設計になっているのだ。そのためゴムブッシュにかかる負担はアナログ世代よりも小さくなり、素材も見直すことで高い耐久性を実現しているのである。アナログ世代に比べ華奢になったという見方もあるが、衝撃吸収と軽量化を両立した現代的な作りであると言えるだろう。

 消耗品一つを見てもデジタルとアナログ世代では全く違う。メンテナンスにおいても、その違いを認識しておくことが大切なのである。