TOP > 記事 > 【激レア独車 06/BMW ISETTA 300 1960y Part.2】あっと驚く斬新なフロントドアを持つバブルカー。隠れた細部の魅力をチェック!!

【激レア独車 06/BMW ISETTA 300 1960y Part.2】あっと驚く斬新なフロントドアを持つバブルカー。隠れた細部の魅力をチェック!!

✔BMW流のアレンジ
✔伝統の足回りのルーツがイセッタに!?
✔当時からパーツのクォリティが高い

改良を加えて進化した
BMW版のイセッタ

 イタリアのイソ社によって作られたイセッタだが、ライセンス取得に伴い、車両製作に必要な工作機械までも譲渡されBMWイセッタが生産された。その数は16万台以上で、販売台数が落ち込んでいたBMWとしては、まさに救世主的な存在だったのである。そのBMWが作ったイセッタは、同社らしい改良が加えられている。元々は2ストローク単気筒だったエンジンを、BMW製の4ストローク単気筒に換装。もっと詳しく見ていくとファンが付いた強制空冷式になっており、トランスミッションごと車軸と並行に搭載している。このエンジンの換装によって、静粛性を格段に高めることに成功したのだ。ちなみに、最高速度は300が85㎞/h、600が100㎞/hとなっている。エクステリアではヘッドライトの位置や、新たにウインカーが取り付けられたことがイソ社製のイセッタとは異なる部分だ。卵型のボディ、ステアリングやメーターごと開くドア、デファレンシャルギアを持たないリアアクスルなどはイソ社製と共通となっている。
 インテリアは非常にシンプルなもので余計なものは一切付いていないが、運転席側にはフロントガラスの結露を防止するデフロスターが装備されている。クーラーなどの快適装備は付いていないが、デフロスターからの熱風がヒーター代わりといったところか。ミッションは4速MTで、今回の取材車の場合は右側にシフトノブが備えられている。運転自体に特別なコツなどはなく、マニュアルミションを搭載するクルマに乗れる人なら心配はない。もちろん50年前のクルマなので多少の慣れは必要だが、ちょっと走れば普通に乗りこなすことができるはずだ。
 足回りはフロントがスイングアーム、リアがリーフスプリングとなっており、油圧式のショックアブソーバーが組み合わせられている。ちなみにボディと排気量を拡大した600では、リアサスペンションに三角形のトレーリングアーム式を採用。これはイセッタ以降に採用されたBMW伝統の足回りであるセミトレーリングアームのルーツなのだ。BMW史上もっとも小さなクルマに、セミトレーリングアームのルーツがあるとはちょっと驚きである。
 このイセッタというモデルは、じつはBMWだけでなく、スペイン、ベルギー、フランスのヴェラム・イセッタ、ブラジルのローミ・イセッタなど様々な国で生産されている。もちろん本家であるイソ・イセッタもあるわけだが、中古車として一般的に残っているのはBMWイセッタが圧倒的に多い。その理由としては販売台数が多かったことも大きいが、BMWイセッタに使われている部品のクォリティが高かったことも強く影響している。やはり、きっちりと作り込むドイツ車らしさが、BMWイセッタにも残されているのだ。 

レストアのベース車両でも
程度を重視して選ぶこと

イソ社製のイセッタ同様、動力はチェーンを介して後輪へと伝わる。このチェーンケースが劣化してオイル漏れを起こすことがあるので注意。
 
 BMWイセッタの維持で気になるのがパーツの供給状況だろう。メンテナンスをしたくても、パーツが揃わなければ直すことができないからとても重要な問題だ。だが、心配は要らない。日本だけでなく世界中で愛好家が多いBMWイセッタなので、消耗品など機関系のパーツについては問題なく入手できるのだ。ただし、パーツ代は高め。ベースとなるクルマを買って少しずつレストアしていくのも楽しいが、高いパーツ代ゆえに費用が高くつくケースも考えられる。やはりレストアのベース車両は、なるべくコンディションの良いクルマを選ぶことをお勧めする。海外のルートでパーツを探していくと、リビルト品も入手可能。ただし、パーツによっては部品精度が悪いものがあり、加工しないと装着できないものがあるようだ。
 メンテナンスのポイントとして挙げられるのが燃料供給システムであるキャブレター。これはメッサーシュミットと同じBING製を搭載しているが、よく見るとフロントチャンバーの位置が左右逆になっている。トラブルとして多いのが金属製のフロートに、磨耗による穴が空いてしまい、そこから燃料が漏れ出してしまう。燃料タンクのサビが進行している場合もあるので、一度チェックしておくといいだろう。シートの後ろには燃料を送り出すためのコックが備わっているのだが、コックの下にある燃料ラインが詰まってしまうこともある。こうなるとエンストやアイドリング不調の原因になるので注意しておきたい。
 オイル漏れも多い。例えばトランスミッションやチェーンケースなどが代表的なポイントで、ゴムパッキンやガスケットの劣化が原因だ。オイルがどこから漏れているのかを把握しておかないと、焼きつきなどを引き起こす可能性が高くなるので注意が必要。年式的に見て、にじみ程度の漏れが発生していることが多いと思われるが、オイル漏れはひどくなる前に対策しておくことが大切だ。また、BMWイセッタにはエンジンオイルフィルターが存在しないので、オイルはマメに交換してキレイな状態を保っておきたい。シンプルな構造ゆえに、メンテナンスすべきポイントが少ない。これは維持におけるイセッタのメリットだと言える。
 

サイドウインドーがスライド式に変更されている 

 BMWイセッタは56年11月にマイナーチェンジを実施している。主な変更点は大きくサイドに回り込んだリアウインドーを一般的な形状に変更して、サイドウインドーをスライド式にしたこと。これまでは、開閉できるのが三角窓のみだったため室内の換気性能が低かったのだが、この変更により快適な室内空間を実現したのである。デザインを優先するだけではなく、実用的なモデルチェンジによって魅力を高めたのだ。

Detail Check

パーツや各部の作りに至るまで細かく見てみる!

BMWならではのアレンジにより
走行性能と快適性能が向上!

BMW製のエンジンに換装

BMWイセッタのエンジンは、2輪車のR25モーターサイクルに積まれていた自社製エンジンをフィン付きの強制空冷式に改造して搭載したもの。

デフロスターを装備している

インテリアは非常にシンプルで、快適装備と言われるものはほとんどないが、フロントガラスの結露を防止するデフロスターは装備されている。

Restore & Maintenance

レストア&メンテナンスのポイント

エンジン回りを中心に
きっちりとした整備を

簡素な装備となるイセッタは一般的なクルマに比べて手を入れるべき箇所が少ない。それゆえメンテナンスの中心となってくるのがエンジン回りだ。燃料系を中心にきっちりと整備しておきたい。

インテリアには燃料を送り出すためのコックがあり、その下にある燃料ラインが詰まってしまうことがある。エンジン不調の原因になるので注意が必要だ。
メッサーシュミットと同じBING製のキャブレターを搭載。金属製フロートの磨耗により燃料が漏れ出してしまうことがある。
 
 

イセッタとしては4輪タイプがスタンダード

今回取材したイセッタはイギリス向けの3輪仕様だったが、イセッタとしては4輪仕様の左ハンドルがスタンダードとなる。そこでここでは、4輪仕様のイセッタに注目してその魅力について解説していきたいと思う。

BMWミュージアムに展示されている4輪タイプのイセッタ250。子供たちからの人気も抜群だ。

 今回取材したのは60年式のイセッタ300。右ハンドルの3輪仕様は主にイギリス向けに販売されたモデルである。その理由について簡単に説明すると、税制的に有利だったというのが主なものだ。では、4輪はというと、実はイセッタとしてはこちらのほうがスタンダードであり、基本となっているのはあくまでも4輪仕様なのである。デファレンシャルギアを省略していることから、リアのトレッドが500㎜しかなく、フロントは1200㎜となっている。この前後のトレッドが大きく異なるという構造はイソ社製のイセッタと共通であり、サスペンションも同じものを採用している。
 その後マイナーチェンジを経てエンジンのパワーアップ、エクステリアの変更などを行ないながら進化を続けてきたイセッタ。57年にはボディを大幅に拡大した600が登場。その名の通り排気量を582㏄に拡大した4輪仕様で、ボディサイドにドアが追加されているのが特長だ。これらの変更により乗車定員は4名となり、さらにデファレンシャルギアを採用したことにより、250や300のようにリアのトレッドが狭く3輪車のようだったデザインから、自動車らしいものへと進化。後に700というモデルも登場しており、これは現代の乗用車のようなスタイルだったが、そのベースとなっていたのが600のシャシーだったのである。