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【GERMANCARS特別コラム】ちょっとマニアックなエンジンの話 その1

クルマが走る上で絶対に欠かせない動力源であるエンジン。そのメンテナンス特集の序章として、知っているようで正しく理解していない部分も少なくない、ガソリン4サイクル内燃機関について、その作用を再確認しておこう。複雑なようでシンプルな仕事を、簡単そうで実は非常に緻密にこなしている、エンジンの真の姿が見える。

「良い混合気」「良い圧縮」「強い点火」がエンジンをいつまでも快調に保つ

 中学校の授業を思い出すようだが、4サイクルエンジンの仕事は吸気→圧縮→燃焼→排気の繰り返し。燃焼室上部のバルブから気化したガソリンを含む混合気を吸い込んで、圧縮したものにスパークプラグで点火し燃焼する時の膨張力を使ってパワーを得ている。基本原理は案外シンプル。しかし金属製のシリンダー内部では、部分的には最高2000℃にも達する激しい爆発が何万回と連続しているわけで、非常に大胆な発想のメカニズムであるとも言える。

 このエンジンを快調に機能させるために欠かせないのが、良い混合気、良い圧縮、そして強い点火の3つ。燃焼の状況に合わせた比率の混合気を送り込み、キッチリと圧縮して、最適なタイミングで強いスパークを飛ばすことで完全燃焼させる。エンジンを快調に作動させるためにはこのことが絶対に不可欠で、そのために様々な制御方法が開発されてきた。

 例えば点火タイミングを進角させる装置は、遠心力を利用したガバナ式から負圧を利用した真空式、そしてコンピュータによる電子制御式へと進化した。キャブレターによって作り出されていた混合気は、機械式インジェクション、そして電子制御式の燃料噴射システムと進化し、現在ではシリンダーの内部に直接噴射する直噴式が主流になっている。エンジンの進化とは、エンジンそのものよりも、それをコントロールする部分にあると言ってもいいだろう。効率的にエネルギーを取り出せるようになったことで、燃費も大きく向上している。

 そんなエンジンはトラブルにおいても、制御系に端を発することが多い。点火タイミングのズレによるノッキング、燃料が希薄になることによる燃焼温度の異常上昇、そして冷却系統の不具合によるオーバーヒートと、エンジンが快調に回るために必要な要素に問題が発生した結果、重大な故障として現れるケースが多いのだ。これはエンジンが機能するために非常に多くの周辺部品が関係していることを意味していて、メンテナンスにおいてもエンジン単体ではなく、制御系や冷却系まで含めたエンジン回り全体にキッチリと手を入れておくことが重要になる。そうしなくては、トラブルのリスクを軽減してエンジン本体を守ることはできないわけだ。

 もちろんエンジン本体のメカニカルなトラブルも極めて長い時間運転し続ければ発生するが、定期的なオイル交換で潤滑性能さえ保っておけば、そう簡単に壊れるものではない。100年以上熟成された基本的にシンプルなメカニズムであるだけに、繊細ながら非常にタフ。十分な耐久性を備えているのがガソリンエンジンなのである。

堅牢なシリンダーの内部でガソリンを爆発・燃焼させるという大胆な仕事を、非常に緻密に繊細にコントロールしているのが内燃機関である。

今さら聞けないエンジンの基本用語解説

□バルブタイミング

吸気と排気のバルブを開閉するタイミングのこと。クランクシャフトが2回転する間に全行程を終了する4サイクルエンジンの場合、吸気バルブの開くタイミングは最初の回転の上死点の少し手前(ATDC)で、下死点の少し後(ABDC)で閉じることになる。排気バルブは2回転目の下死点の少し手前(BBDC)から開き、上死点の少し後(BTDC)に閉じる。このBTDCとATDCの間が、吸気バルブと排気バルブが同時に開いているバルブオーバーラップのタイミングである。

□ディスビの進角

エンジンが高速で回転している時も、点火プラグ周辺で発生した燃焼がシリンダー内全体に広がるまでの時間を短縮することはできないため、アイドリング中と比べるとより早いタイミングで点火スパークを飛ばしてやる必要がある。この作業がディスビの進角と言われるもの。かつてはインマニの負圧からアクセルの開度を感知して進角させていたが、現在ではセンサーとコンピュータによって点火時期をコントロールしているため、特別な進角装置は必要なくなった。

□オープンデッキ

シリンダーの上側部分を見ると、周囲のブロックと一体ではなく、ちょうど島のように分離した構造のエンジンのこと。コンピュータによる強度計算を取り入れ、金型による高精度な成型により現在では主流となっている方式。軽量でコンパクトに作ることが可能だが、ブロックの肉厚に余裕がないため耐久性やチューニングに対する余裕があるとは言えない。反対に周囲のブロックと繋がっている構造のことをクローズドデッキと呼ぶ。メルセデスでは角目世代がこれだった。

□クロスフロー

シリンダーヘッドの片側から吸気して、反対側へ排気する構造のエンジンのこと。逆に吸気と排気を同じ方向から行なうエンジンをターンフロー式と呼ぶが、高温になるエキゾーストマニフォールドの熱で吸気が暖められてしまうこと、吸気バルブと排気バルブを同時に開くことで排気の慣性を利用して吸気効率を高めるバルブオーバーラップの時間を取りにくいことなどで、現在ではほぼすべてがクロスフロー式となっている。