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【 ドイツ車世代別メンテ / 高齢世代 (新車から21年以上) / vol.02 エンジンの 完全復活 フルオーバーホール 】

長年使用してきたエンジンは、摩擦による磨耗や汚れの蓄積などによって少しずつ元気を失ってくる。パワーがなくなったとか、異音が出るようになったとか、気になる症状が発生したら全体的な点検が必要。オーバーホールの時期かもしれない。

 

オーバーホールは均一のサービスではなく
完全なフルオーダーである

Parts Data

✔この作業の内容は?

エンジンを分解して修理する

 エンジンを分解して再使用可能な部品と交換が必要な部分に分類、使えるパーツは入念に洗浄して再び組み上げる作業。エンジンの下側、シリンダー部分も作業するためにはエンジンを車体から脱着する必要があるため、作業は大掛かりなものとなり費用も何倍も必要に。

✔壊れるとどんな症状が出る?

 オイルが漏れていないのに減りが早くなるというのが代表的な症状。その他、パワーがダウンしたり異音や振動が気になることもある。マフラーから白や青い煙が大量に出ることも。

✔長持ちの秘訣は?

とにかくオイル管理が大切

 エンジンを長くよい状態に保つためには、とにかくオイル管理が一番大切。指定の粘度を保って定期的に交換しておきたい。量にも注意が必要だ。また最適な運転温度であることも非常に重要なので、冷却系のメンテナンスは早めにしっかりと。高過ぎても低過ぎても磨耗する。

 

上側だけか下側もするかで
費用も手間も大きく違う

 内部で気化したガソリンを爆発させて、一分間に何千回転もの運動を常に続けているエンジン。クルマの構成部品の中で、最も過酷な環境にある部分と言ってもいいだろう。もちろん設計段階では数十万キロの耐久性を基準に作られてはいるものの、実際の使用環境では渋滞によるアイドリング状態の連続や、劣化したオイルの使用、燃料の品質、オーバーヒートなど、様々な要素に影響される。本当のエンジンの耐久性は、こういったマイナス要素の引き算によって決定されるのである。
 ということは、どんなに大切に愛を注がれてきたクルマであっても30~40万キロ、残念ながらそうではなかったクルマでは10万キロ台でも、本格的なエンジンのオーバーホールを検討するタイミングを迎えることになる。では具体的にどのような症状が発生した場合にオーバーホールが必要になるのかだろうか。
 まず、エンジンヘッド内部にあるバルブの軸(ステム)部分からオイルが吸気系統に入り込まないように取り付けられているオイルシールの劣化がある。このステムシールが硬化してしまうと、オイルが上から燃焼室内に入り込む「オイル下がり」が発生する。また、常にバルブを押し下げているカムシャフトが磨耗してカム山が削れてしまったり、バルブの傘の部分にデポジットと呼ばれる汚れが蓄積されて吸・排気がスムーズに行なえない状態になったりする。ステムシールについては中年世代のコーナーでも紹介したように、ヘッドをバラすことなく交換が可能だが、こういった症状が複合的に発生しているエンジンではヘッドを下ろしてのオーバーホールが必要になる。ヘッドのみで大丈夫という場合は、外したヘッドの下側を面研して平らにし、新しいヘッドガスケットとボルトを使用して組み付ければOK。「ヘッドオーバーホール済み」というクルマは、この状態のことを指す。
 一方、上下二段構造となっているエンジンの下側、シリンダー側にもダメージが発生していると、オーバーホールの作業は何倍もの手間と費用が必要になる。この代表的なケースは、ピストンの周囲に取り付けられているリングが磨耗してシリンダーの密閉性が低下している、クランクシャフトを支えているメタルベアリングが磨耗してシャフトにガタが発生しているなど。酷いケースとなると油膜が切れてピストンが焼き付いて動かなくなってしまったり、コンロッドが外れてピストンがブロックを突き破っているエンジンというのも見たことがあるが、こんな場合はオーバーホールというよりリビルトエンジンへの載せ換えというのが一般的な修理方法となる。

長いバルブのステムをスムーズに動かすためのバルブガイド。ヘッドのオーバーホール時には打ち換える必要がある場合も多い。
カムシャフト側から見たバルブのステム部分と茶色のステムシール。これが硬化するとオイルが燃焼室内に下がって燃えてしまう。
バルブの汚れをキレイに落として非常に微妙な当たりを調整した状態。これで本来のエンジン性能を発揮できるようになったわけだ。
カムシャフトを組み付ける時には、バルブタイミングの微妙な調整が大切。カムチェーンもある程度は伸びるため、経験が必要な部分である。
 

それぞれがすべて異なる
オーバーホールの内容

 このように深刻な状態にあるエンジンを再生する作業がオーバーホールだが、その定義は定まっていない。「全日本オーバーホール協会」のような団体が、明確な基準を定めてくれれば安心できるのだろうが、残念ながらそうではないのだ。要はエンジンを開けて、使える部品と使えない部品を判断して、交換するべき部分を交換し再使用する部分は入念に洗浄して組み上げるという作業なので、どこまでを交換するかは担当するメカニックの判断に委ねられる。新品のような完璧を求めるのか、あと数万キロ走れれば十分なのか、そういったユーザーのニーズによる部分も大きいとは思うが、かかる費用も作業内容も様々で、オーバーホールは一つ一つがまるで別物。同じクルマであっても、作業するメカニックによって交換内容は異なるものになる。ユーザーの中には「オーバーホール」という均一のサービスを購入するような気分になっている人も少なくないようだが、完全なオーダーメイドのシステムなのだ。だからオーバーホールをする時には、事前にそのクルマとの今後の付き合い方をハッキリと決めて、どこまでを求めるのかメカニックに明確に伝えるべき。作業中もエンジンを開けなければ分からない細部の状態をメカニックと共有して、どうせなら交換しておいた方がいいという部分は追加するくらいのつもりでいたい。そういった意味でも、気心の知れた信頼できるメカニックでなければ、このような大仕事を任せることはできないだろう。
 またユーザー側としても、「オーバーホール」に過度の期待を持ってはいけない。特別にオーダーをしなければ、ウォーターポンプやベルトテンショナーなどの周辺部品やエンジンのハーネス類などは再使用されるのが当たり前。ヘッドをオーバーホールすればコイルが新品になっていると思っている人もいるようだが、現状で問題なく機能している部品についてはあくまで交換はオプションであると認識しておこう。エンジンルームが何もかも新品のピカピカ状態に仕上がるというのは、オーバーホールではなくレストアである。
 そうは言っても、熟練したメカニックによってキッチリとバランス取りされ組み上げられたエンジンは、工場で大量生産された新車を上回るフィーリングに仕上がるのが普通。ハンドメイドのチューニングエンジンと同等の手間隙をかけて組むのだから、それも納得が行く。軽自動車が一台買えるくらいの出費となる贅沢な整備だが、いつまでも乗り続けたいと思う特別な一台であれば、エンジンに不調が出た時は中古エンジンへの乗せ替えではなく、フルオーダーのオーバーホールで完璧なコンディションに仕上げて欲しいものだ。

キレイに洗浄され、新品のような見た目に仕上がったピストン。ここまでやってこそ、オーバーホールの意味があるわけだ。
シリンダーライナー表面の状態を指で調べる。ココにキズが多いと、ボーリングしてオーバーサイズのピストンを入れることになる。
外したパーツはシリンダーごとに順番に並べられ、コンディションが細かくチェックされる。再使用可能かどうかの見極めが一番大切。
クランクシャフトを支えているメタルベアリング。キズの入り具合でも、潜んでいるエンジン内部の問題を発見できることがある。