TOP > 記事 > よみがえる黄金世代の鼓動「王者降臨」高級サルーンのあるべき姿を 妥協なく作り上げた 戦後メルセデスの傑作【Mercedes-Benz 600】

よみがえる黄金世代の鼓動「王者降臨」高級サルーンのあるべき姿を 妥協なく作り上げた 戦後メルセデスの傑作【Mercedes-Benz 600】

戦後のメルセデスを象徴するフルサイズサルーンが600。メルセデスは、このモデルの成功によってブランド価値を大きく高めることに成功する。世界のVIP中のVIPが愛用した600の真価とは?

メルセデスとして初の新V8ユニットを搭載する

戦後の復興の象徴として300SLを生み出したメルセデス・ベンツだったが、お家芸の超高級サルーンという分野では戦勝国のイギリス勢にまだまだ遅れを取った印象が強かった。

 そこでメルセデスとしては初となるV8の新エンジンを開発し、威信をかけて誕生させたのがこの600。念入りな作りとは対照的に、非常にシンプルなデザインを採用していたのも、本質的な良さに対する自信の表れと言えるだろう。

 メルセデス・ベンツ600というのがシリーズ名で、実はW100という型式のカタログモデルとしてラインナップされている。ショートホイールベース(3200ミリ!)のリムジーネ、ロングホイールベース(3900ミリ!!)のプルマン、そしてプルマンベースのオープンパレード仕様のランドレッドの3モデルで、全車重は2470〜2690kg。そして全長5540ミリまたは6240ミリの巨体だった。

 生産台数を調べてみると、リムジーネは2190台という記録があるので、こちらはアラブの石油富豪や世界的な企業の社用車としても登録されていたようだ。けれどもプルマンの428台という総生産台数からは、ほぼすべてのプルマンの納車先が民間ではなかったのだろうと想像できる。

 それだけ特別なメルセデスであり、世界中のVIPの中でもさらにスーパーなVIPに愛されたモデルだったのである。

非常にシンプルな上品な佇まいのエクステリア。基本的にはこのデザインのまま、18年間という長期間に渡って生産され続けた600。トラディショナルな美しさを感じるスタイリングである。ヘッドライトは縦目のデザインだが、補助灯を内蔵した独自のタイプが与えられている。

巨大なサージタンクが目を引く6.3ℓリッターのV8ユニット。ギッチリと詰まった補機類に、このクルマのキャラクターが表現されている。エアサスペンションのコンプレッサーもエンジンルームに搭載され、当時の最先端技術が余すことなく盛り込まれている。最高出力250ps/51㎏-mのパワーを発揮。

戦後、世界の要人輸送を担ってきたメルセデスのフラッグシップ。1963年から1981年まで生産された。70cm長いロング仕様のプルマンや、車体後半部分をオープントップとしたものなど、様々なバリエーションがある。メルセデス・ベンツ600は日本のみならず、世界の国々にとっても、信用とステイタスの証として、最高級のおもてなしに相応しいクルマとして君臨し続けた。

サルーンでありながらも異色のスーパーカーだった

1963年から81秊まで生産されたメルセデス・ベンツ600は、6332㏄のV8エンジンを搭載し、250ps/㎏-mのパワーを発揮。さらにサスペンションにはエアスプリングを装備し、パワステアリングは当然として、サイドウインドーや後席のパーテーション、トランクの開閉まで油圧を使って作動するパワー機構を搭載していた。

 こうして書き並べると一般的な高級車の装備と思うかもしれないが、これが1960年台のクルマに搭載されていたことを忘れないで欲しい。当時の日本車にはパワーステアリングもエアコンもない時代である。同じ自動車であるのに、全く違う乗り物だったといえるのではないだろうか。

 現代の高級車と比べても遜色のない装備を、コンピュータなどない時代に実現していたのだから、当時のメルセデスは間違いなく世界のトップを走っていたのである。

 日本ではコンパクトクラスでも家が買える価格だった当時、天文学的な数字であったろうこのクルマに自分の定位置を持っていたのは、どんな人だったのだろうか。色々と想像も膨らむが、それにしても優しく色気のあるスタイルに、最先端の装備、そして「高級サルーンとはこうあるべき」という設計の意図がビシビシと伝わってくる。

 走行性能においても、巨体でありながら最高速度は210㎞/h。1960年代当時のスーパーカーであるジャガーEタイプの最高速度が241㎞/hであることを考えれば、十分すぎるほどのスペックと言える。メルセデス・ベンツ600が、異色のスーパーカーであったことに間違いはない。 

大きなホーンリングの付いたステアリングが時代を感じさせるインパネ回り。見た目はクラシカルだが、運転してみると驚くほど快適で、現代のクルマのようにキッチリと狙ったラインを走れる正確なハンドリングを持つ。ウッドパネルなど使用している素材はすべて一流品である。

ゆったりと大きなシートは、夢心地にさせてくれるほど絶品。運転するのではなく、後席で過ごすべきクルマであることが伝わってくる。写真はリムジーネで、仕様により5/6人乗り、プルマンでは補助シートが備わる7/8人乗りもある。あらゆる部分の素材が、重厚で肉厚なのが印象的。古き良き時代の高級車だ。

最高速度220km/hまで刻印されたスピードメーター。パワーウインドーは油圧によって作動するため作動音がほとんどなく滑らかな動きが特徴的。フィーリングにこだわったメルセデスの設計意図が伝わってくる。

エアサスペンションを装備しエンジンルームに巨大なコンプレッサーを搭載。さらにパワーウインドー、パワーシート、パワードアロック、スライディングルーフ、リアシートバックのスライド、トランクの開閉まで、あらゆる装備には油圧が使用され、そのスイッチだけでもこれだけの点数が使用されている(写真上)。