TOP > 記事 > 【走りの本能を刺激するスペシャルカーの世界 Vol.02/E63 AMG】量産時代のAMGの中で最高傑作とも言えるNAのV8ユニット
AMG W211

2022.02.03

【走りの本能を刺激するスペシャルカーの世界 Vol.02/E63 AMG】量産時代のAMGの中で最高傑作とも言えるNAのV8ユニット

W211のトップグレードとして君臨するE63AMG。細部を煮詰めた後期型+AMGの手によるメカチューンという、 ただ速いだけではなくフィーリング面でも深い味わいを持ったAMGである。

E63 AMG

AMG専用のエアロパーツを装着し、エレガントかつスポーティな雰囲気となっている。リアにはマフラーエンド左右に2本ずつ備わる。トランクにはAMG専用のスポイラーが装着される。どこから見てもスペシャル感が伝わってくるデザインとなっている。
 

スーパーチャージャーから
NAの6.2ℓに進化

 W210に用意されたAMGモデル「E55」のネーミングをそのまま引き継ぎ、新ボディとなったこのモデル。搭載されるエンジンは5438ccの排気量も同じSOHCのV8だが、バンクの中央にはスーパーチャージャーが据え付けられエンジンの見た目は大きく異なっている。そのパワーも71.4kg-mの強力なトルクをわずか2650回転から発生し続けるというスペシャルなもので、運転してみれば速さの違いは一瞬で理解できるもの。
 スペック面ではケタ違いに進化した新E55だが、ボディや足回りなどのセッティングに煮詰めが不十分な部分があり、とくに初期モデルでは飛ばすのに不安を感じるという声も少なくなかった。またスーパーチャージャーの発する音や振動などが高級感をスポイルするというユーザーも多く、全体的な評価としては決して高くはないようだ。
 確かに1500万円級の新車価格を考えればこういった意見が出るのも納得できるが、現在では400万円以下にまで値落ちが進んでいる。割安に手に入れてこのパンチのある強烈なトルク感を楽しむには、絶好の機会だと思うのだ。ユーザーの年齢層という部分でも、50〜60代が中心となるであろう新車より下がってくるはず。落ち着きよりも刺激を求めるAMGユーザーにとっては、たまらないフィーリングであるはずだ。
 そして、E63である。かつて独立したハウスチューナーだった時代、AMGはベースユニットのボアを限界までボーリングし、排気量を拡大することで最大限のパワーを叩き出してきた。そんな「排気量で勝負!」という時代を思い出すような6208ccものスケールを持つV8を積み込んだ、シリーズ最強のW211がE63AMGだ。
 このモデルが登場したのは、搭載エンジンをDOHCへと一新した06年途中のマイナーチェンジの時。それまでスーパーチャージャーによる加給によって高められていたパワーは強烈ではあったものの、大人のスポーツサルーンというAMGのイメージとは一致しない部分があった。そこで最上級のV8としてAMGのファクトリーで開発されたのがこのユニット。かつてのようにベースエンジンを削って作り出されるものではないが、専用パーツを手仕事で丁寧に組み上げ、一台一台ベンチテストを行なってから搭載されている。メカチューンによってそのエンジンの限界性能に挑む、かつてのチューニング魂を彷彿とさせるような、AMGの神髄を感じるものなのだ。
 実際に走ってみても、その気持ち良さは古き良き時代を思い出すようなもの。W124のE60と同等とまでは言えないが、俊敏なピックアップの内にも重厚さのあるフィーリングは、間違いなく名機と言えるものだろう。そして時代と共に強化された圧倒的なパワーも強烈だ。単に速いだけでなく、感性に響く速さを持った希少な一台なのである。

バンクの中央に可変吸気システムを備えたインテークを搭載し、見た目にもスペシャル感満点となったエンジンルーム。量産化時代に入ってからのAMGユニットとしては間違いなく最高傑作だと言える。
これまで通り左ハンドルのみの設定となるE63。太いグリップのステアリングや専用メーターなどが気分を盛り上げてくれる。ステアリングの裏にはハドルシフトが付く。
シートも通常モデルと比べかなりスポーティに差別化されたものになっている。
同じW211のAMGでも、E55とE63ではブレーキに大きな違いがある。まずE55ではブレンボ製の8ポッドがフロントに使用されていたが、これはパッドが4枚に別れているタイプ。その一方でディスクは完全な一体型だった。一方、E63となってからはフロントキャリパーは6ポッドの2パッド式となったものの、ローターはベルハット部分が別構造のフローティング式に強化されている。これは熱で歪まなく、ペダルのタッチも向上するスポーティなもの。色々と変更されているところがまた面白い。