日本でロータリーエンジンと言えばマツダだが、実はその元祖はNSUヴァンケル・スパイダーなのである。希少ゆえに実車を見ることがほとんどないこのクルマの魅力に迫ってみたいと思う。
ベースとなっているのは
シュポルト・プリンツ
ロータリーエンジン搭載車と言えば、マツダのコスモスポーツやサバンナを思い浮かべる人が多いと思うが、ロータリーエンジンが世界で初めて搭載されたのは、NSU社が作ったヴァンケル・スパイダーなのである。車名にもなっている「ヴァンケル」とは、ロータリーエンジンを開発したフェリックス・ヴァンケル博士の名に由来する。
このクルマのベースとなっているのは59年に登場したシュポルト・プリンツ。ベルトーネによってデザインされた流麗なラインが際立つクーペボディを持ち、空冷の直2SOHCエンジンが搭載されている。
このシュポルト・プリンツのルーフを取り去り、2人乗りのオープンに仕立てられたのがヴァンケル・スパイダーなのである。世界初のロータリーエンジンはリアに搭載され、水冷による冷却システムを採用。排気量は500㏄で最高出力は50 ps、最大トルクは7・5㎏‐mを実現している。ベースとなったシュポルト・プリンツの2気筒エンジンは最高出力30 ps、最大トルク4・3㎏‐mなので、当時としてはかなりの高性能化が図られているのが分かる。最高速度はヴァンケル・スパイダーが170㎞/h、シュポルトプリンツが120㎞/hと、走行性能においてはシュポルト・プリンツをはるかに凌ぐスペックを誇っていたのだ。
中古車の数は非常に少なく、日本で実車を見る機会はほとんどないと思われる。だが今回、この希少な66年式のヴァンケル・スパイダーを発見! 早速、そのコンディションについて見ていきたいと思う。ボディに凹みやキズなどは全くなく、塗装の状態もいい。新車から46年という時間の経過を感じさせないほど、良好なコンディションだった。前のオーナーがレストアを施し、大切に保管してきたことがうかがえる。インテリアもキレイにレストアされていて、シート、内張り、インパネ回りなども極上そのもの。赤と黒を基調にしたインテリアのカラーリングは、高性能なスパイダーらしいスポーティな雰囲気とともに、クラシックとしての味わいも残している。
走りは今でもしっかりとしていて、現代でも通用する性能を持つ。街中でも周囲のクルマの流れに合わせて無理なく走ることができ、トップを開けてオープンにすれば優雅な気分にも浸れる。限界域まで引っ張って走るようなクルマではないので、ロータリーエンジンの響きとゆったりとしたフィーリングを感じながら走りたい。エンジンはオーバーホール済みなので、消耗品さえ定期的に換えていけばこれから先もロータリーエンジンの味わいを長く堪能することができるだろう。
内外装だけでなくエンジンもレストアされている
希少なクルマゆえに心配なこと
NSU Wankel Spider
気になるギモンを解決!
Q1 レースに出ていたってホント?
A1 ドイツのラリー選手権で活躍
世界初のロータリーエンジンは自動車の未来を切り開くものだと考えられていた。その期待通り、このエンジンを搭載したヴァンケル・スパイダーは高性能を発揮し、モータースポーツにも進出。ドイツのラリー選手権でも活躍したのである。
Q2 普段使いすることは可能?
A2 エンジンの性能的には全く問題なし
機関系がきっちりと整備されているクルマなら、普段使いとして十分に通用する性能を備えている。ただ、足として使うにはちょっと贅沢な気もするので、趣味として週末に乗るというスタイルなら十分にアリ。周囲の視線を集めることもできるだろう。
Q3 パーツは手に入るの?
A3 メーカーは消滅しているが問題はない
取材したショップにパーツについて聞いてみたところ、入手が困難なものもあるが世界中を探せば手に入れられるとのこと。NSUというメーカーはアウディに吸収されてすでに消滅しているが、パーツ供給はされているのがすごい。
SPECIFICATIONS
全長 : 3580㎜
全幅 : 1520㎜
全高 : 1235㎜
ホイールベース : 2018㎜
トレッド(前) : 1270㎜
トレッド(後) : 1227㎜
車両重量 : 685㎏
エンジン方式 : 水冷1ローター
総排気量 : 500㏄
最高出力 : 50ps/5000rpm
最大トルク : 7.5㎏-m/3000rpm
トランスミッション : 4MT