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レクサスLX

2022.04.20

JAOSの新たな挑戦!LEXUS「LX600″OFF ROAD”JAOS ver.」が誕生

■JAOSのチャレンジ精神がLX600に融合

LX600に、誰もが予想し得なかった”OFFROAD”パッケージが追加された。ブラックアウトされたスピンドルグリルはLXをどこに誘うのか。街中より荒野が似合うLEXUSの登場に、JAOSのチャレンジ精神が刺激された。

五感を刺激する新たな潮流

 「私たちは今まさに変わろうとしているLEXUSの、ひとつの時代の節目に立っているのかも知れない。」

 2021年春、LEXUSに誘われ、開発中のLXの新たな挑戦についてヒアリングしていた赤星は耳を疑った。彼らは新型LXに「”OFFROAD”の名を冠したい」という。

 LXは1995年の登場以来、プレミアムブランドであるLEXUSのフラッグシップSUVとしてヒエラルキーの頂上に君臨してきた。ただ、ラダーフレームを持つ本格派クロスカントリー4WDではあったもののホイール径はオンロード向き、サイドステップも悪路に持ち込むのが憚られる形だった。第一級のオフロード性能を有していることは分かっていたが、実際に悪路に持ち込むユーザーが多いとは思われなかった。
 しかし開発陣は本気だった。オフロード用に18インチのホイールを用意し、前後のアクスルデフロックも標準で装備させるという。今や伝家の宝刀「クロールコントロール」さえあれば岩場から砂の上、雪の上に至るまで地の果てまで走れると言われているのに、その先の超・極悪路でしか使わない本格装備を付けるという。これは、単なるイメージ戦略ではない。
 実はこれに先立ちトヨタ自動車の豊田章男社長からLEXUSの開発陣に伝えられていたメッセージがあった。「自動車業界が大変革期を迎える中、LEXUSは社会的使命にお応えするだけでなく、価値観が多様化するお客さま一人一人の幸せに寄り添いたい。そして何より五感を刺激し、ワクワクする体験を提供するクルマ造りを続けて行くブランドにしたい」。
 新型LXではその答えのひとつを”OFFROAD”に見いだしたのだ。いや、LXが世界一の「信頼性」「耐久性」「悪路走破性」を秘めた本格派クロスカントリー4WDであるならば、オフロードへの帰結はむしろ必然。
 これまではLEXUS車のカスタマイズが市民権を得ることはなかった。ましてやオフロード仕様へのカスタマイズなど皆無と言えた。でも時代は変わる。ここで背伸びをしてでも、LEXUSとアウトドアが融合していくその先の未来を覗きたい。そして共に創りたい!
 社に戻った赤星は皆に計った。「新型LXが街から野に出ようとしている。そこは我々のフィールドだ。前例はない。開発期間も半年を切っている。でもチャレンジしてみないか?」。「世界に打って出ましょう!」社内の反応は早かった。そして開発部の能戸も手を挙げた。「モータースポーツにチャレンジしましょう!」。JAOSはLXの新たな挑戦に共感したのだ。

●LEXUSをどのようにカスタマイズするのか?

 では何を造り、どう見せるか? 新型LXを前に赤星は悩んだ。脳裏にはチーフエンジニア横尾貴己氏の言葉が浮かんでくる。「LEXUSはLEXUSです。今までのLXはランクルのLEXUS版でした。それを僕らの時代から”LEXUSのLX”として声を大にして伝えたい」。
 ならば我々もランドクルーザーと同じアプローチをするわけには行かない。ではLEXUSとは何物なのか? 実用車として設計されたランドクルーザーと何が違うのか? 新型LXのコンセプトは「世界中のどんな道でも楽に、上質に」というものだ。唯一無二とも言えるオフロード性能を持ちながら、誰もが気負うことなくストレスフリーかつ上質に運転できるクルマだという。そのために掲げたのが「原点回帰」。どれだけ素晴らしい先進技術を搭載しても素性がよくなければLEXUSが目指す走りは実現しない。そこでエンジンをダウンサイズ化、搭載位置を移動することで低重心化とマスの集中を図り、伝統のフレーム構造にこだわりながら多数のボディパネルをアルミニウムに置換、車高調整システムすら軽量化し、200㎏に及ぶ贅肉をそぎ落とした。一方で変えていないものもある。悪路走破性と居住性を両立させる黄金比ともいえるホイールベースは初代からの値を維持、対地アングルも現行モデル同等を確保した。

 なるほど。世界一と言われるランドクルーザーの信頼性や耐久性、悪路走破性といった素性をしっかり受け継いでいる。ではその先に、LEXUSはどんな世界を見せようというのか?
 豊田章男氏は問いかけている。「近い将来、自動運転やインフラの向上によりクルマ社会は高度化し、今より安全で便利な移動が可能になる。果たしてそれだけで人は幸せだろうか?」と。このような時代だからこそ、移動がもたらす時間的価値を、人が豊かに生きるために必要な叙情的価値を大切にすべきなのだ。それがLEXUSに求められる価値だと気付いた時、赤星の心にストンと落ちるものがあった。そして今なぜLEXUSがカスタマイズを容認するようになったのか、その答えも見えて来た。「多様性を認め合う」という豊田章男社長の価値観がLEXUSにも波及したのだろう。今のトヨタはEV化ですら多様性を大切にし、古いクルマをも大切にしようとしている。

 ではどのような製品をつくるのか? JAOSにとってクルマでの移動とはすなわち「自然に向かって走ること」である。その先に待ち受ける「冒険の扉を開ける行為」と言ってもいい。ドライブやキャンプといったクルマの楽しみ方のひとつにカスタマイズがあり、 JAOSは常にユーザーがその世界に踏み出す最初の一歩を大切にしてきた。少し大きなタイヤを履きたくなったり、そのパーツを装着することで非日常の世界に出かけたくなるような、そんなカスタマイズを目指そう! もちろん、LXのパーツとして世界に出しても恥ずかしくないクオリティが必要だ。そして、徹底して軽量化にこだわった開発陣の想いも大切にさせていただこう。

 こうしてJAOSの開発部はにわかに忙しくなった。新素材の検討や実験も繰り返した。デザインを担当した内田はスケッチを何枚書いたかわからないという。だがJAOSが得たものは想像以上に大きかった。LEXUSが目指す持続可能な世界の実現に向け、社員も意識レベルを上げ、プレゼンと評価を繰り返しながら試作品製作に明け暮れた。たかがパーツ開発、されどパーツ開発。赤星は言う。「今回の協業でJAOS自身もまたひとつ大きな扉の向こうに踏み出せたかな、と思っています」。

2022年1月12日の新型LXの記者発表に合わせて「LX600″OFF ROAD”JAOS ver.」のリリースも発表。翌々日から開催された東京オートサロン2022に現車を展示、「東京国際カスタムカーコンテスト2022」にて、ドレスアップカー部門・優秀賞を受賞した。

横尾貴己氏(レクサスインターナショナル製品企画チーフエンジニア)を始め、トヨタ自動車の関係者がJAOSブースを訪れた。

■最高級SUV車の誕生に相応しいカスタマイズ

積み重ねた経験値と職人技で価値を加える

「今回のプロジェクトは、JAOSが独自に企画・開発したアフターパーツというスタンスです。ディーラーでも取り扱っていただく予定ですが、OEMと違って我々の裁量が大きく、あらゆる可能性を追求することができた半面、それ故の難しさもありました」と語るのはデザインを担当した企画宣伝部の内田悦哉だ。
「JAOSらしい味付けはマスト。でもLEXUSの改造がどこまで許容されるのか。未知のユーザーを相手に考えねばなりません。フェンダーひとつとってもデザインで相当揉みました。そして揉めました(笑)。スマート過ぎれば付けているのか分からない。ラギッド過ぎれば敬遠されてしまうかもしれません」。デザインはエアロや造形の担当者も加えてコンペ風に煮詰めていった。幅についても記載変更のリミットを越えるべきかどうか激論を戦わしたが「そこはデザインの自由度とグローバル市場への進出を見越してガラパゴスの殻を破っておきたかった」と内田。
 新しい素材にも挑戦した。カーボンニュートラルやSDGsが叫ばれる中、植物由来の繊維を使ったプラスチックやリサイクルカーボンも検討、実証実験も行った。結果的には軽量かつ高剛性のCFRPの採用を決めたが、経験値は増えた。もちろんアフターパーツの中で最高峰と言われるカーボンファイバーの織柄をデザイン的に利用したかった面もあるが、実用パーツのメーカーとして軽さと強度にもこだわりたかったのだ。これなら開発部の能戸知徳が目指すモータースポーツで使っても恥ずかしくはない。同様に、オフロードで頼りになる18インチホイールの開発も視野に入れている。いずれにせよJAOSは、今後新型LXを使ってラフロードのモータースポーツに挑戦する。その先には最低でも3年、いや5年のプロジェクトが待ち受けている。「このクルマとの付き合いは長くなるよ」赤星の言葉に皆が気を引き締めた。
先代LXよりやや細くなった新型LXのタイヤサイズ。JAOSでは経験則に照らし合わせ、カスタマイズユーザーが希望するであろう2サイズ太い285幅のATタイヤへと交換。幅に余裕を持たせたオーバーフェンダーと伝統のマッドガードを組みあわせてJAOSスタイルに仕立てた。前後のスキッドプレートも含め新規パーツを全て軽量かつ高剛性なCFRP製とし、車体の重量増加を最小限に抑えている。TOYO TIRESのオープカントリーA/T IIIはサイドウ ォールまで回りこんだブロックターンが印象的。国内未発売のモデルだ。

OVER FENDAR type-R

エクステリアパーツメーカーが新たな車種に対して商品検討を行う際、一般的にデザインの肝となるのはフロントパーツである。それはJAOSでも例外ではない。例えばフロントにメタルパーツを装着するか、オロードバンパーを装着するか……などによって全体の完成イメージを想定し、その他のパーツが選定されるのだ。ところが今回、新型LX用パーツを検討するにあたっては、フロントパーツと同等以上に重要視されたのはサイドパーツであるフェンダーだったという。そこで、存在感のある片側出幅20㎜の「オーバーフェンダー」が設定された。また、これまでJAOSのフェンダー用パーツは、プレーンな「type-S」とダミーボルトを配した「type-X」の2タイプであったが、オーバーフェンダーならではのボリュームを活かすダクト形状を用いた「type-R」を新たに設定。特に、フロントやリヤのスキ ッドプロテクター同様にリアルカーボンを採用している新型LX用オーバーフェンダーでは、ダクトの形状で織りなす精緻なカーボン柄によって様々な表情を楽しむことができる。配色的にも、ボリュームのあるサイドビ ューを引き締める効果的なアクセントとなるのだ。

●20㎜に込めた思い

JAOSには、数多くの車種用をラインアップした「フェンダーガーニッシュ」という製品がある。同品は出幅を軽微な変更に留まる9㎜以内に抑えながら、それを超えた存在感があることで定評を得ている。しかし、フロントをシンプルなパーツデザインとしただけに、サイドビューでは逆にパーツの存在感を際立たせたい。また、対象モデルがLXなだけにグローバル市場での展開も考慮すると、やはり明確なボリュームを持たせたい。そこで、しっかりとした出幅(20㎜)を持った「オーバーフェンダー」を設定することになった。そのため、同品は装着によって車幅が一定以上変わるので構造変更が必要になるが、この魅力的なサイドボリュームを得るためにはぜひ乗り越えていただきたいハードルである。

SKID PROTECTOR

FRONT SKID PROTECTOR

REAR SKID PROTECTOR & TAIL-CUTTER

 新型LX用パーツ開発にあたり、デザインスケッチが何パターンも起こされたのだが、その決定には難航を極めたという。「“JAOSスタイル”を構築するにはいくつかのパターンがあるのですが、新型LXのフロントビューが持つ存在感の前ではどれもしっくりこなかったのです」とはデザインを担当した内田。そこで導き出された結論は「デザインはシンプルに仕上げ、本物の素材感をアピールする」というコンセプト。そして白羽の矢を立てられたのがCFRP製品だった。
 アフターパーツにおいて「カーボン製品」というと、強化材をガラス繊維から炭素繊維に代えただけのハンドレイアップ成形品が一般的だが、新型LXのためにJAOSが採用したのはインフュージョン成形。軽量かつ高剛性な成形品が期待できる注目の成形法だ。実際、製品を手に取ってみると目視による予想よりも一回り軽く、さらにほとんどたわまない剛性感に驚くはずだ。
 シンプルな形状ながら本物が持つ存在感を最大限にアピールする前後のプロテクターは、新型LXの持つリアリティをさらに一段階引き上げるに違いない。
新型LXのリヤバンパーは、蓋となっている下部のセンター部分を取り外すこで内蔵したヒッチメンバーを使用する。JAOSリヤスキッドプロテクターも、同様にセンター部分を取り外せる構造とすることでヒッチメンバーを使用可能とした。
※インフュージョンとは
主要エクステリアパーツは、インフュージョン成形(真空成形)によって作られている。真空圧により樹脂を型に隙間なく行き渡らせるので、軽量さと強度を実現することができる。型に繊維を押しつけているため、従来のドライカーボンと異なり、ウェットカーボンのような艶のある仕上がりを手に入れている。

TRIBE CROSS

マットガンメタリック

チタニウムゴールド

今回、LEXUSからJAOSへ新型LXのカスタマイズをオファーされた際、掲げられたテーマは “OFF ROAD” だったという。そこで、数あるホイールラインアップの中からJAOSが選択したのは「JAOS TRIBE CROSS」だった。
 「JAOS TRIBEシリーズ」と言えば、同社のラリーレイドプロジェクト「TEAM JAOS」のマシン用に、国内外トップシェアを誇るアルミホイールメーカー「ENKEI(エンケイ株式会社)」と共同開発を行っているMAT PROCESS製ホイールだ。その最新モデルが「JAOS TRIBE CROSS」。つまり、これまで確立してきた「プレミアムSUV」としての存在意義に “OFFROAD” という新たな価値観の追加を目指している新型LXのコンセプトに見事に合致する。そこで、「Wフランジ」「フィン状リブ」「フレアスポーク」などのこだわりはそのままに、同車用として20inch化されたのだ。また、特筆すべきは上記で紹介している同社のオーバーフェンダーに、ぴったりとマッチするインセットサイズも最初から設定されているところ。この辺りはエクステリアパーツとホイールを同時開発できるJAOSならではの妙技と言っても良いだろう。

外的衝撃からリムフランジを守る「Wフランジリム」、リムの補強と回転によって排土性を促す「フィン状リブ」、スマートさと力強さを両立する末広がりな断面形状の「フレアスポーク」など、過酷なラリー参戦から得たノウハウがフィードバックされている。

■JAOSの精神を新型LXに注ぐ

LX600の新たな可能性

コンペティションとは“競争”“競技”“競技会”のこと。1980年代から4WD&SUV市場にサスペンションなどを投入し、独自の地位を確立してきたJAOSが、2015年に参戦した「アジアクロスカントリーラリーAXCR)」は、まさに国際的なコンペティションである。これ以降、JAOSは“TEAM JAOS”として連続参戦してきた。2020年から2021年については、コロナ禍でラリー自体が中止にな ってしまったが、粛々と参戦準備を進め、チームのドライバーを努める能戸知徳がアメリカへ渡り、オフロードレースに参戦しキャリアを積むなど、チームとしてできること、JAOSとしての戦い方を模索してきた。
 そして2022年。相変わらずコロナの状況に一喜一憂する日々が続いており、ラリーを始めとしたモータースポーツの開催も、見通しが立たない状況が続いている。そんな中にあって、果たしてJAOSが想い描くコンペティションへの展望はどのようなものか?
 そのカギを握るのが、LEXUS LX 600である。先で紹介したとおり、すでにアフターマーケットをターゲットにしたカスタマイズプランは進行している。これまでハイラックスを競技車両として使用し、そのノウハウを市販パーツ開発に落とし込んできた実績からしても、LX600をモータースポーツに使用する可能性は十分にある。「パーツの開発というと、そこで“点” として終わっています。一方、モータースポーツの中で中・長期的に関わっていけば、その中で見えてくる状況もあると思います」。
 JAOSの赤星大二郎代表は言う。ハイラックスがそうであるように、 LX600もまた、JAOSを代表するカスタマイズカーになる予感が……。「まだ私自身、十分に乗り込んではいないのではっきりは言えませんが、 LEXUS LX伝統のボディオンフレーム構造とリヤのリジッドサスペンションゆえの、ベース車としての高い耐久性、信頼性を考えれば、競技車両としても活躍できるはずです」。
 ドライバーの能戸知徳もLX600には大きな期待を寄せる。強い意志と明確な哲学で4WD& SUV界を牽引してきたJAOSの今後の動向から目が離せない。
ー NEW ADVENTURE Vol.05 ー