1970年にジムニーが誕生して、今年で55年。ついにその初めての5ドア仕様が国内デビューすることになった!ジムニーの5ドア待望論については、それこそSJ系、JA系の時代から渦巻いていた。SJ時代にはロングホイールベースのピックアップトラック「SJ40T」が1982年8月から1年間だけ国内販売されていて、“これは5ドアロングモデルへの布石か?”などとウワサが飛び交っていたし、JA時代にも普通車ワゴン登録のJA51をベースにしたロング・ピックアップトラックが、輸出専用モデルながら存在した。こちらも“ロング・ワゴン”の登場を期待させるに十分なものだった。
ところが、そのたび肩すかしを食ってきたのはご存じのとおり。周りを見渡すと、ワークホースのランドクルーザー70でさえ5ドアモデルを追加、あのJeepラングラーも5ドアの“アンリミテッド”を追加し、圧倒的なセールスを記録していた。もちろん、ジムニーは軽自動車登録での5ドアは車両寸法上、不可能だろう。しかし普通車登録となるシエラなら、話しは超現実的となる。
そして5ドア・ジムニーはようやく実現される。2023年1月に開催されたインドの『Auto Expo 2023』で発表され、同5月からインドをはじめとした各国で発売も開始されることになったのだ。“これならすぐさま日本でも発売されるはず!”とユーザーはこのニュースに沸騰したが、しかしフタを開けてみると、国内正式リリースまで、実に2年の時を経てしまった……。確かに、日本ではジムニー&ジムニーシエラが大ヒット車になり納車が追いつかず、5ドア発表のタイミングが難しかったこともあるのだろう。いったい、いつになったら5ドアは国内リリースされるのか?
待ちきれなかった四駆業界はインドから輸入というカタチで5ドア・ジムニーを手に入れ、いち早くカスタムを実施。この1月に開催されたのオートサロンでも多数のインド仕様の5ドアが展示されていたのは、ご存じのとおりだ。
しかし、いよいよメーカーから5ドアジムニーの国内リリースが、正式にアナウンスされた!
生産はインドのグルガオン工場で行なわれ、日本に持ち込まれる。車名は『ジムニーノマド』。古くからのヨンクファンなら懐かしいと思うだろう、ノマドとは“遊牧民”という意味で、初代エスクードの5ドア仕様につけられたサブネームだ。ちなみに型式名は『JC74W』となる。車両登録はもちろん、シエラと同じ普通車・5ナンバー。ボディ全長とホイールベースはシエラより340㎜延長されたが、全長は3890㎜で、コンパクトな扱いやすさは、ほぼそのままだ。ちなみに4000㎜以下に全長を抑えたのは、インドの税制も理由のひとつ。当然、全長の延長と5ドア化はリアシートの利便性や積載性の向上につながるもので、これこそが3ドアにはない、5ドアの魅力になるはずだ。
さらにメーカーからの資料を読み込んでみても、パワートレーン、ボディディメンション、サスペンションなど4WD車としてのパフォーマンス、燃費、ランニングコストなどライフスタイルに与える影響も、シエラと比べてみて、まったくネガなところがない。むしろATの各構成要素の高強度化、ボディマウントブッシュの強化、バネレートや減衰力などサスペンションスペックの大幅な見直し、リヤプロペラシャフトの強化など、各部の耐久性・信頼性アップは、ジムニーファンにとっては喜ばしいところだろう。
そんなわけで、あとは車両価格(未発表)が気になるが、スズキの同クラスSUV『フロンクス』が250〜280万円前後。とすると、同程度になるのではないか?とも思われるが、さて……。
今回の“ジムニーノマド”のデビュー。古くからのジムニーマニアからは「こんなのジムニーじゃないよ!」なんて声もあるかもしれない。Jeepの時もマニアが5ドアのアンリミテッドに対し否定的な意見を発した。しかし一方、これまで多くのユーザーが待ち望んでいた“夢のクルマ”でもあるのは確か。ちなみに、すでにシエラをオーダーして納車待ちしている方ならノマドへのオーダー変更も可能、との情報も。人気モノになるのは確実だろう。
見てさわって乗ればよりその魅力に気付く
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いよいよ日本でもリリースされることになった5ドア「ジムニーノマド」。早速その詳細を紹介していこう。
そのベースとなったのは、軽ジムニーではなく、普通車のジムニーシエラ。プラットフォームはシエラのラダーフレームのセンターフレームを延長、さらにその延長部分にクロスメンバーを追加している。これによりホイールベースはシエラより340㎜延長され、2590㎜になった。
ちなみにこのホイールベース、かつて“ベストバランス・ランドクルーザー”と称されたミドルホイールベースのランクル70(73/74)系と同等。トレッドとのバランスは明らかにシエラより優れており、走りのブラッシュアップが期待できるはずだ。
ボディサイズはシエラと全幅・全高は変わりなく、全長のみホイールベースと同じ340㎜長い。それでももちろん、5ナンバー枠に収まるサイズで、ジムニーシリーズならではの機動性や扱いやすさを踏襲している。
オフローダーとして気になる対地スペックは、最低地上高210㎜、アプローチアングル36度、ディパーチャーアングル47度で、シエラもノマドも同じ数値。ホイールベース延長で気になるランプブレークオーバーアングルは、シエラが28度、ノマドが25度とわずか3度の違い。これが“大きい”か、“変わらない”かはユーザー次第だが、オフロード性能が大きく損なわれていないのは確かだろう。ちなみにノマドの最小回転半径は5.7mで、シエラの4.9mより大きくなっているのは仕方ないところだが、小回りの効きは十分だと思う。なお、車両重量は約100kg増とのこと。
こうしたボディスペックの変更がもたらす最大のメリットは居住性や積載性といったインテリアのスケールアップだ。前席の居住性やスペースには大きな変更はないが、まず前席ドアがコンパクトになったのがポイント。乗降性に変化なく、ドアが大きすぎて横のクルマにドアパンチ…なんてこともなくなった。リヤシートはシエラよりスペースが広く、しかもシート自体が大型化・クッションも厚くなって座り心地を改善。さらに1段階だけだがリクライニング機構も装備。スペースを確保したいがゆえ、あえて2人掛け(つまりノマドは乗車定員4名)としている。
また荷室寸法も4名乗車時の床面長がシエラより350㎜延長。後席は5対5分割可倒式だが、荷室容量の増加とともに、ユーティリティも高まっている。ただ、後席の折り畳みは背もたれを前に倒すだけなので、荷室には段差ができる……。フラットにしたい方には純正オプション品やきっと対応品が出てくるアフターパーツの使用をオススメしたい。
メカニズムや安全装備の面では、ジムニーシエラのものが基本踏襲される。1.5ℓガソリンエンジン(K15B型)搭載、トランスミッションは5速MTと4速ATを設定、そしてHi&Loレンジ付きパートタイム式4WDには“ブレーキLSDトラクションコントロール”などハイテクデバイスも組み合わせられる。
サスペンションも変わらず、前後3リンク・コイルリジッド。ただしボディマウントブッシュの強化やバネレートや減衰力などサスペンションスペックの見直しのほか、フロントのディスクブレーキがソリッド式からベンチレーテッド式に変更されているのは、大きなトピックといえるだろう。
シルエット含め全方位に向上したノマド
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外観は、基本的にはシエラの全長を伸ばしたカタチだが、ジムニーシリーズの上級車種ということで、フロントにはメッキグリルを採用。フロントの両サイドドアはシエラより約100㎜短いが、乗降性は良好。さらに隣のクルマへのドアパンチの心配もかなり少なくなった。もちろんリヤ両サイドドア、クォーターウィンドウの追加がシエラとの決定的な違いだ。なお、リヤコンビランプにはリヤフォグランプも。
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最低地上高:210㎜
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全長:3890㎜
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ボディサイズは全幅や全高についてはシエラと同じで、5ドア化によって全長を340㎜ストレッチしたカタチとなる。対地3アングルについてもアプローチ&ディパーチャーアングルはシエラと同じ数値で、ランプブレークオーバーアングルのみ3度、数値を下げた。最低地上高は210㎜と、これはランクル70よりも大きい数字で、そのことからも走破性が高いのは間違いない。なお、車両重量は約100㎏増加しているとか。
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上級モデルに位置付けられるいジムニーノマドだけに、安全装備についてはシエラ同様、スズキの先進安全技術がフル装備されている。単眼カメラとレーザーレーダーでクルマや歩行者を捉え、自動ブレーキによって衝突を回避、あるいは衝突被害の軽減を図るデュアルセンサーブレーキをメインに、誤発進抑制機能(AT車)、車線逸脱警報機能などが充実。
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ジムニーノマドの型式は「JC74W」。LJ→SJ→JA→JBと経てきたジムニーの車両形式だが、5ドアとなって“JC”を採用した。“74W”はシエラと同じ表記で“W”は乗用車登録を意味するもの。
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カラーラインナップは2トーン2色、モノトーン4色の全6色構成。2トーンはノマド専用色であるレッド、既存モデルでも人気の高いアイボリーをブラックルーフと組み合わせた。モノトーンはホワイト、ブラック、ジャングルグリーン、専用色のブルーを揃える。
居住性と快適性の高まりによってファミリー層にもアピールするジムニーを
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インパネ回りのデザインや雰囲気はシエラそのままで、とくに変更を与えられていない印象(詳細はまた別の機会にも検証してみよう)。もちろん水平基調のデザイン、見やすい立方体メータークラスターなど、本格四駆としての実用性が追求されている。一方でジムニーの上級モデルらしく、本革巻きステアリングホイールといった高級感のある装備も奢られている。
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センタースイッチ群も変更なし。後席用パワーウィンドウ用スイッチはコンソールボックスに。
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フロント両席のドアはシエラよりも小振りとなったが、乗降性が悪くなることはない。フロントシートはこれも特に変更なし。一方でボディ&フレーム・ストレッチの恩恵を大きくうけたリヤシートは、足もとを広くとりながら、シート自体のクッションを厚くして乗り心地をアップ。1段階のみだがリクライニングも可能。さらにリヤ両サイドドアの開き方やシート形状を工夫して、乗降時のヒザ当たりや足抜けに配慮。後席への乗降性や、チャイルドシートなどの操作を快適に行なえる。
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もちろんラゲッジスペースを広く使えるようになったのも5ドア化の恩恵だ。フル乗車時の荷室床面長はシエラの140㎜から、実に350㎜も増えた590㎜となった。リヤシートは5対5の分割可倒式で利便性は高いが、折り畳むと床面がフラットにはならない。ここはフラットにできる純正アクセサリーが用意されるそうなので、要チェック。
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鉄板むき出しだったリヤウィンドウ回りにはクォータートリムを追加して快適性を向上。荷室のアクセサリーソケットはシエラと同様だが、荷室ランプも追加。
1.5ℓ直4DOHCガソリンのK15B型
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ワートレインについてはシエラと変更なし。搭載エンジンは1.5ℓ直4DOHCガソリンのK15B型で、スペックは75kW(102ps)&130N・m(13.3kg-m)。トランスミッションは5速MTと4速ATを用意しているが、制御変更やギア比などに変更があるかどうかは今のところ正式インフォメーションはなし。ファイナル比についても詳細は不明。ただし重量増のため、ATの構成各パーツは高強度されているとのこと。
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ホイールベースの延長によって、リヤのプロペラシャフトもノマド専用のものに。延長されただけでなく直径も拡大されて、耐久性を向上。
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リヤサイドドアのアンダー部にはスプラッシュガードも配置。後輪からの泥・水の跳ね上げをボディやサイドシルガードに付着するのを防止。乗降時の衣服の汚れを防ぐ配慮なのだ。
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ジムニーはもともと、ATミッションだけでなくマニュアルミッションも用意する、今どき珍しいクルマだ。もちろんSUV色が強まったノマドでも、しっかり5速MTを設定。ジムニーファンはご安心を!
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5ドアの登場で、ファミリー層にもアピールすることになりそうなジムニーノマド。リヤシートへの乗降やチャイルドシートの設置しやすさ、子どもの乗せ降ろしのしやすさ、手持ちの荷物の載せ降ろしなど、利便性の向上は枚挙にいとまない。実車ではリヤ両サイドドアの開き量、乗降性への工夫もチェックして欲しい。
■ラダーフレーム
3リンク・リジッドアクスル式コイルスプリング
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フロント
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リア
誕生以来、ラダーフレーム構造にこだわってきたジムニー。現行のJB64&74登場時に、前後クロスメンバーの追加や新設計のXメンバー採用などで、最強のフレーム剛性を得ていたが、今回のノマド=JC74ではそれをベースにセンターフレームを加えて延長。さらにそのセンターフレームにはクロスメンバーも施し、高いフレーム剛性をそのまま維持した。5ドアだからといって、ジムニー本来のオフロード性能や耐久性・信頼性は譲れない、開発陣の想いが貫かれた設計だ。
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前後3リンク・コイルリジッドのサスペンション形式に変更はないが、ボディの大型化と重量増によって、各部のセッティングは大きく見直されている。コイルスプリングはバネ定数を調整し、ショックアブソーバーは減衰特性を最適化。さらにフロントのスタビライザー径も太くなった。ちなみにフロントのディスクブレーキもソリッド式から排熱効果の高いベンチレーテッド式に変更。
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タイヤサイズは195/80R15でシエラと同様、ホイールもシエラ(JCグレード)と同じもの。ちなみにタイヤ銘柄はブリヂストン・デューラーH/L852。いわゆるM+S仕様のオンロードタイヤだが、メイド・イン・インドのようだった。
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パートタイム4WD
エンジン&トランスミッション同様、4WDシステムについても特に変更はないようだ。2H/4H/4Lによるオーソドックスなパートタイム式副変速機を装備し、切替もトランスファレバーで行なう。ちなみに2Hと4Hの切替操作は直進時、時速100㎞以下で走行中ならOK。4Lへの切替は停止して行なう。
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今どきの4WD・SUVでは一般的なヒルディセントコントロール(急な下り坂でのブレーキ自動制御)やヒルホールドコントロール(坂道発進時の後退を防ぐ)は、もちろんノマドにも標準装備。さらにシエラの上級車(JCグレード)に標準のクルーズコントロールも装備されている。