BMW M3 (E46)
その緻密な回転フィールは
高級機械式時計の如く
量産車という制限の中で極限までチューニングされたパワーユニットを搭載する2ドアスポーツ。これこそE46M3の最大の美点と言える。これより速いクルマはいくらでもある。これよりスムーズなエンジンフィールを誇るエンジンだって、数え上げれば相当にある。
E46クーペをベースとする、という制約もあって、M3は極めて高度な領域にまで開発のレベルを引き上げた。だからこそ、これだけのマシンができ上がったのだ。
それはクオリティを追求する一方で、性能向上のために犠牲にした部分も全くないわけではなかった。
それゆえ、エンジンは直列6気筒としては回転フィール自体はそれほど滑らかなものではない。E36M3の方がスムーズネスという点では、ワンランク上だ。それでもE46M3のエンジンフィールには独特の魅力がある。それは非常に緻密さを感じさせるということだ。まるで燃焼の1回1回を伝えるかのように、S54B32ユニットの回転フィールには微細な振動が存在する。絹のような滑らかさはない代わりに、高級機械式時計の秒針の如く、一瞬一瞬を刻み込むかのように微細な感触を伝えてくる。それが何とも心地良く、ドライビングする者を高揚させるのだ。
BMWは、独自に最適なマグネシウム合金まで開発してシリンダーブロックの軽量化に努める一方で、このM3にだけは最後まで鋳鉄ブロックを使い続けた。量産車といっても生産台数が少ないから、コストの点で新しいブロックを開発できないのではない。8200回転まで使い切るようなハードな走り方をしても耐え得るよう、熱膨張が少なく強度も高い鋳鉄ブロックを採用しているのである。そんなことでも、このS54B32ユニットが特別なエンジンだということが分かるだろう。
M社はE36M3から搭載されたS50系ユニットの限界に挑んだのだ。例えば日本屈指の排気系メーカーをしても「あれ以上のモノはちょっとできない」と言わしめたEXマニホールド。そこにはF1で磨き上げたテクノロジーが注ぎ込まれているのだから、当然と言えば当然だが、量産車でそんなレベルを達成しているのは、このM3とM5/M6くらいのものだ。
その排気系からは低回転域では乾いた低音が響くが、4000rpmからは割れた高音を奏で始める。そして5000から8000rpmの間は、本当にパワフルでエキサイティングだ。M3とて厳しい排ガス規制をクリアしなければならないから、いかにも空燃比の薄そうな、トルク感のやや薄い感触は仕方のないところだろう。
そんなレーシングテイストを感じさせる一方で、ストリートにおける高級クーペとしての価値も高めている。インテリアは、高級車としても通じる趣を感じさせる。エンジンと足回りを熟成し、速さに磨きをかけるだけでなく、今日のレベルで高級感とスポーティさを両立しているのがE46M3の凄いところだ。
セミATのSMGもこのE46M3で第二世代となり、変速のスムーズさとスピード、信頼性が格段に向上した。それでもストリートスピードでスムーズなシフトアップを実現するには、シフト時に微妙なアクセルワークが要求される(かえってMTより難しい)のだが、このSMGⅡによってM3はスポーツドライビングをより身近なものにした。それだけでなく、極めて上質で高性能なクーペを日常の足としたいユーザーの希望をかなえたのだ。しかもM3CSLを見れば分かるように、極限的な速さを求める人にも満足できる2ペダルMTの先進的なマシンになった。熟成極まった感のあるクルマだけに、販売終了間際まで高い人気を誇ったのも当然のことだ。