リセットメンテがよく分かる詳細解説
想像以上に大きい振動を
支えるゴムマウント
クルマに使われるゴムマウントは緩衝材であり、振動などを抑える役割を担っている。その中で代表的なものがエンジンマウントだ。ボンネットを開けた状態でアクセルを吹かすと、回転が上がるのとともにエンジンが大きく傾くのが分かる。想像以上に振動や反動が大きなこのエンジンを、しっかりと支えているのがエンジンマウントなのである。
現在は内部に液体を封入したタイプが主流で、そもそもはディーゼルエンジンの振動対策として開発されたもの。だが、80年代後半から幅広く使用されるようになり、現在も改良されながら使われ続けている。古めのメルセデスではエンジンの振動を抑えるためのエンジンダンパーが備わっていたが、エンジンマウントの進化により使われなくなった。
このマウントはゴムだけのものと比べるとやはり大きく、潰れに対するクリアランスも大きく取ってあるが、劣化が進むと振動を吸収できなくなり、ダッシュボードからのビビリ音が発生したり、ステアリングやシフトノブなどに伝わる振動が大きくなる。これではせっかくのドイツ車であっても高級感を失ってしまう。機関面においてもアイドリング時などに車体が震えることにより、接点の接触不良やコンピュータ、リレー系のトラブルを引き起こす。エンジンが大きく揺れるようになれば、コーナリング時におけるクルマの動きにも支障をきたしてしまう。
さらに、極限まで潰れると金属部分が支持フレームに当たってゴンゴンと異音が出ることもある。新品と比べてみるとよく分かるのだが、交換をせずに放置しておくと、明らかにゴムの部分の高さが違うというところまで潰れてしまうのだ。ということは、それだけ他のクルマよりエンジンの位置が大きく下がってしまうということになる。
エンジンが下がると、そこに繋がっているホース類、例えばラジエターホースなどが引っ張られ、サイドタンクのホース接続部分が折れる原因になる。オイルパンが下がるので下回りをぶつけるリスクは高くなるし、プロペラシャフトの角度も変化してくるので回転バランスの狂いやオイルシールにも悪影響が出る。このように、クルマにとってエンジンが下がってしまうのは、万病の元とも言える悪い状況なのだ。
漏れたオイルが付着すると
マウントの寿命を縮める
では、なぜエンジンマウントが劣化するのかというと、これには2つの原因が考えられる。
まずはゴムパーツの宿命でもある経年劣化。エンジンマウントは走行中やアイドリング時の振動を抑えるだけでなく、駐車中でもエンジンを支えているので常に負担がかかっている。さらにゴムパーツは炭素分子を含む有機物なので酸化してしまう。その元となる酸素は大気中にたくさんあるわけで、何もしなくても劣化が進んでしまうのだ。また、ほとんどの化学変化は熱によって促進されるので、気温やエンジン回りの温度が上昇すれば劣化は進みやすくなる。ガレージで長く眠っていた低走行の極上車であっても、エンジンマウントの劣化は静かに進行しているのだ。もし、極上車を購入して急に走行距離が延びるような状態になれば、硬化していたエンジンマウントにいきなり大仕事をさせることになり、亀裂が入ってしまいオイルが漏れ出してしまうこともある。これは足回りのブッシュ類にも言えることなのだが、エンジンマウントは走行距離ではなく、経過時間で交換すべき消耗品だと言えるのである。
もう一つが、エンジンやATFなどのオイル漏れによる劣化。同じゴムパーツであっても、使われる箇所によって適したゴムを使っている。エンジンオイルやATFなど、想定していないオイルがエンジンマウントに付着すれば、急速に劣化が進んでしまう。オイル漏れを一掃しておくことが、エンジンマウントの寿命を延ばすことにも繋がるということを覚えておきたい。
メンテナンスが不足しているクルマの場合、このどちらの原因にも当てはまる。先にも述べたようにエンジンマウントが劣化すると、その他の部分に与える影響が大きいので、きっちりとメンテナンスしておくことが重要だ。
エンジンマウントの交換サイクルは、履歴が分かれば走行5万㎞くらいが目安で、時間にすると6~7年といったところ。また、エンジンマウントを交換するときは、ミッションマウントも同時に交換しておいたほうが効率的だ。これは文字通り、ミッションの振動や動きを抑制しているゴムマウントなので、エンジンマウントと同様に劣化が進んでいく。決して高い部品ではないので、万病の元となる振動を抑えるためにも手を入れておきたい。
緩衝系パーツとしてもう一つ紹介しておきたいのがディスクジョイント。これはゴムの板のような部品で、AT内部から発生する大きな振動を抑える役割を持っている。プロペラシャフトの前後にボルト留めされており、合計2つ備わっているゴムマウントだ。
劣化の症状としては、ATをDレンジに入れたときに下回りからゴツンという大きな振動が出るようになる。ゴムが劣化してボルト留めの部分にすき間が生じてくると大きなバックラッシュが発生するようになり、最終的には走行中の振動にも繋がってしまうのだ。ここも消耗品なので定期的に交換しておこう。
Parts Data
このパーツの役割は?
振動を抑制するための緩衝材
クルマに使われているゴムマウントは緩衝材としての役割を持たされている。エンジンマウントはエンジンを下から支え、エンジンから発生する振動を抑えている。ミッションマウントも同様だ。プロペラシャフトの前後に備わるディスクジョイントも緩衝系パーツの一つである。
壊れるとどんな症状が出る?
エンジンマウントやミッションマウントが劣化して潰れてくると振動が大きくなり、エンジンが下がってしまうことで各部の負担が増え、二次的なトラブルが発生してしまうことがある。
長持ちの秘訣は?
オイル漏れを一掃しておくことが大事
漏れたオイルがゴムマウントに付着すると寿命が極端に短くなるので、きっちりとオイル漏れを一掃しておくことが大事。また、エンジンをかけなければゴムマウントの寿命が長くなると思いがちだが、駐車中でも常にエンジンなどの重さを支えているため、劣化は進む。
部品代はどれくらい?
●エンジンマウント→約1~3万円
●ミッションマウント→約1~2万円
エンジンマウントは走行距離ではなく
経過時間で交換すべき消耗品
OEM?or社外品?
失敗しないパーツの選び方
オイルが入っていない粗悪品には注意が必要
OEMや社外品がインターネットで手軽に買えるようになり、様々なメーカーのパーツを入手できるようになった。だが、その一方でパーツ選びの失敗も増えてきている。以前なら修理工場のメカニックの経験と知識をもとにパーツショップや問屋から部品を調達していたので、粗悪品を掴むことは少なかった。仮に粗悪品があったとしても工場のほうで対処できたのだが、ユーザーが部品を持ち込むとなると工場側は保証ができないわけだから、失敗するケースも増えてくる。エンジンマウントにおいても、オイル封入式であるにも関わらず、その内部にはオイルが入っておらず寿命も極端に短いというケースがあった。できるだけ安く買うために比較検討することは大事だが、価格だけでなく部品の知識を持つことも、これからのメンテナンスにおいては重要になってくる。
ハミ出し情報
インターネットなどでパーツを探していると、強化タイプのエンジンマウントを見かけることがある。強化というと耐久性が高いと思ってしまうが、一般的な使用においてはあまりお勧めできない。サーキット専用車であればエンジンの揺れを抑制できるためその効果を体感できるが、実用車として使うのには向いていない。