消耗品である3つのゴムシールを
交換するためにはデフを降ろす必要がある
Parts Data
✔このパーツの役割は?
内輪差を吸収する差動装置
正式名称はデファレンシャルギアだが、一般的にはデフと呼ばれる差動装置。クルマが曲がるときに生じる内輪差、つまり外側と内側の車輪の速度差を吸収してスムーズに曲がれるようにするのが役割。FFではフロント、FRではリアといったように駆動輪に備わっている。
✔劣化するとどんな症状が出る?
デフの劣化で多いのがサイドシールと呼ばれる、左右のドライブシャフトに繋がるフランジをシールしている部分からのオイル漏れ。これが酷くなると異音を発生させることも。
✔長持ちの秘訣は?
オイル漏れを放置しないこと
デフ自体は非常に頑丈なパーツなのでオーバーホールにまで至るケースは少ないのだが、オイル漏れを放置しておくと内部に大きなダメージを与えてしまうので、定期的にゴムシールを交換することが長持ちさせるコツ。もちろん、デフオイルも交換しておくことが大切だ。
時間の経過とともに
オイル漏れが悪化する
デファレンシャルギア(以下、デフ)は、クルマが曲がるときに生じる外側と内側のタイヤの速度差を吸収して、スムーズに曲がれるようにする役割を持っている。デフは駆動輪に備わっており、FF車ならフロント、FR車ならリア、4WDならフロントとリア、さらに前後の回転差を吸収するセンターデフが備わるクルマもある。これはフルタイム4WDと呼ばれるもので、エンジンからの出力がセンターデフから前後のデフに配分される仕組みになっている。
デフの構造自体はシンプルなもので非常に耐久性が高いが、やはりオイル漏れには注意が必要。比較的新しいうちは滲み程度で済んでいたものも、時間の経過とともに悪化して本格的なオイル漏れとなってしまうケースが多い。
漏れが発生する場所としてもっとも多いのが、左右のドライブシャフトに繋がるフランジをシールしているサイドシール部分。プロペラシャフトと接続されるミッドシール部分から漏れることもあるが、こちらの頻度は高くはない。また、通常ならばリアカバーのシール部分から漏れることはまずないが、以前に一度デフを開けているような場合は接合面の清掃が不十分でシール剤のカスが残っていたりして、そこから漏れ出すケースも考えられる。
クルマをリフトアップしてデフのサイドシールやミッドシールからの漏れを発見したらきっちりと交換しておくことが大切だ。オイル漏れに気づかずに、または放置したまま走行を続けると、油圧が低下しデフ内部のギアが焼き付きを起こしてオーバーホールが必要になる。
そのほかにも大きな異音の発生や低速のコーナリング時に振動が出るなどといった症状が出た場合にもオーバーホールが必要だ。これは、ギア同士の噛み合い具合(歯車の遊び幅)が適正ではなくなった時に発生し、オーバーホールと同時にバックラッシュの調整をしなければならない。ギアの噛み合い具合が適正ではなくなってしまうのは、デフ内部のベアリングやシム、金属ブッシュなどのわずかな摩耗が積み重なり遊び幅が大きくなってしまうことにある。ベアリングなどが摩耗するのは、オイル管理が悪いまま長期間使用することが原因だ。
オーバーホール時にはそれらの部品を交換し、適正な遊び幅に調整することが基本的な内容となっている。
このように、ゴムシールの交換だけで済むはずが、オイル漏れを放置したことでデフ内部に深刻なダメージを与えてしまうことがあるということを知っておいてほしい。それを防ぐためにも1年ごとに下回りの入念な点検を行ない、オイル漏れの有無を確認しておけば、ギアが焼き付きを起こすまでには至らないケースが多いのだ。
サイドシールを交換する場合、デフ本体を降ろさないと作業ができない車種も多い。左右のドライブシャフトに備わるサイドシール、プロペラシャフト側のミッドシールと合計3つのゴムシールを交換するには、フランジを取り外して古いシールを外し、新しいシールを取り付けてから捩れないように注意してフランジを組み付ける。こうして書いていくと簡単なようだが、実際は案外時間とコストのかかる作業なのである。
また、デフを降ろしたときには内部の状態を確認し、ベアリングなどの交換も同時に行なった方が経済的であることは確かだ。FR車の場合は、交換頻度が低いリアのドライブシャフトブーツの交換も同時に検討したい。アウディのクワトロなどの4WDシステムにはセンターデフが採用されているクルマもあり、ここにもサイドシールが使われている。オイル漏れを起こしやすいポイントなので、駐車場に停めてオイル漏れの痕跡があるようなら早めに修理工場で点検してもらおう。また、4WDモデルはトランスファーのシール交換も忘れないようにしたい。
デフマウントの状態も
チェックしておくこと
サイドシールのほかに、年式的にも交換しておくべきなのがデフマウント。これはボディ後部のサブフレームに、ムービングパーツであるデフを固定しているゴムマウントで、回転によるぶれや振動を吸収する緩衝材としての役割が持たされている。その劣化状態は、デフの後方から見てマウントのボルト穴が上下左右にズレていないか、マウントそのものが硬化して亀裂が入っていないか、などから判断する。
劣化の症状としては急加速や変速時などにリアから異音がした場合、このマウントが劣化してデフ自体が動いてしまっている可能性が高い。それだけに定期的なチェックが欠かせないのだ。
例えば、角目世代のメルセデスの場合、リアのサブフレームに圧入された2つのリアマウントと、2枚の薄いマウントでクロスメンバーを挟むように取り付けるフロントマウントの4つで構成されている。ちなみに支持ポイントは3カ所。
問題なのは圧入されているリアマウントで、この交換にはSSTが必要になる。マウントには上下の指定や裏表もあり、曲がって入ってしまうとデフが振れて非常に危険。指定の位置にキッチリと収めることができるSSTを使って確かな作業をしてくれる工場を探したい。
デフのサイドシール交換などを行なうときには、周辺の部品も含めて全体的にリフレッシュしておくと効果が大きい。セットで行なうことで工賃の節約にも繋がるのだ。
SSTを使った正しい修理方法
デフマウントにねじれが生じると
寿命が極端に短くなる
デフマウントの交換で必要になるのがSST。これを使わないと、ねじれなどが生じてせっかく交換した新品のマウントでも寿命が極端に短くなってしまうのだ。サブフレームの穴に直接圧入されているリア側の2つのマウントを外すためには、外径がマウントの外径と同じ、そして内径がフレームの穴と同じサイズという「コの字形」のカップを2つ組み合わせ中央を結んだボルトを締め込むことで、大きなカップの中へマウントが落ち込む、という方法が使用される。逆に取り付ける時は、長く伸ばした状態で新しいマウントをセットし、ボルトを縮めていけばマウントはフレームの穴に収まるという具合だ。圧入するだけならばこれで問題ないのだが、前側のマウント位置が決まっているため、リアマウントのボルト穴の位置を合わせておかないと、デフ本体を組み付ける時に苦労することになる。そこで登場するのが、下の写真で使用している長いツールというわけだ。左右のマウントにカップとボルトを通して、内側にツールを取り付ける。この状態で、長く伸びたアームの足が前側のマウント穴にピタリと合うようにボルトを回して調整すればOKだ。