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【 ドイツ車世代別メンテ/中年世代 (新車から11年〜20年) / vol.03 エンジンヘッドの メンテナンス 】

走行距離が増えてくると補機類だけではなく、エンジン本体のメンテナンスも必要になってくる。とくに中年世代のドイツ車でオイル漏れがひどいクルマは、ヘッド回りのメンテナンスをしておかないと重大トラブルに繋がることがある。

 

各部の調整や加工を施し
正確に組み直すことが本当のオーバーホール

Parts Data

✔このパーツの役割は?

エンジンを正常に動かすためのシール

 ヘッドガスケットはエンジンのシリンダーブロックとヘッドの間にあるガスケットのことで、オイルや冷却水の流れを抑えている。バルブステムシールはバルブに付着したオイルが燃焼室まで下がってこないようにするためのゴムシール。どちらも定期的に交換する必要がある。

✔劣化するとどんな症状が出る?

 ヘッドガスケットが劣化するとオイル漏れや水漏れが発生。冷却水にオイルが混入することもある。バルブステムシールの劣化はオイル下がりを引き起こし、マフラーから白煙が大量に出る。

✔長持ちの秘訣は?

冷却系のメンテをきっちりと

 ヘッドガスケットもバルブステムシールも消耗品なので定期的な交換が必要になるが、冷却水を2年に1回は全量交換しておくことや適正な油温を保つために冷却系のメンテをきっちりとやっておくことで、良い状態を保つことができる。それでも10万kmを目安に交換しておきたい。

 

走行10万キロくらいが
ヘッド回りのメンテの時期

 中年世代のドイツ車では走行10万㎞オーバーのクルマが多い。もちろんドイツ車のエンジンはタフなので10万㎞くらいでダメになってしまうことはないが、それはきっちりとメンテナンスがされていることが前提となる。
 エンジン本体のメンテナンスとしてはタペットカバーパッキンの交換くらいで、周辺に備わる補機類の交換に比べると手を入れる機会は少ない。だが、走行距離が増えてくるとヘッド回りのメンテナンスが必要になってくるのだ。
 症状として多いのはヘッドガスケットからのオイル漏れ。シリンダーブロックとヘッドの間にあるガスケットが経年劣化によりグザグザに腐ってしまい、そこからオイルが漏れ出してしまう。ラジエターのサブタンクにある冷却水にオイルが混入して茶色に変色している場合は、ヘッドガスケットが劣化している証拠だ。
 ヘッドガスケットは直列エンジンほど劣化しやすい傾向にあり、6気筒なら1番か6番といったように両端からオイルが漏れることが多い。オイル漏れがひどくなり、高温になったエキゾーストマニホールドに付着すると煙を発生させることもあるから、早めに対処しなければならない。エンジン内部においても油圧が低下して各部の負担も大きくなる。
 ヘッドガスケットを交換するときにはヘッドのみを降ろして、劣化したガスケットを換える。ヘッドガスケットの交換がオーバーホールだと思われがちだが、それは違う。ヘッドガスケットのみの交換は単なる消耗品の交換でしかないのだ。
 ヘッド回りのメンテナンスポイントとしてもう一つ重要なのが、バルブステムシールの交換。原因はオイル下がりで、マフラーから白煙が大量に出ていたり、点火プラグをチェックしてみてオイルで湿っているようであればオイル下がりが発生している可能性が高い。
 バルブステムシールは、バルブに付着したオイルが燃焼室に下がってこないようにするためのゴムシールで、走行10万㎞くらいで交換する必要がある。これを放置しておくと燃焼室にスラッジが溜まりエンジンに大きなダメージを与えるだけでなく、高価な触媒を壊す原因にもなるのだ。ただし、バルブステムシールを新品にしてもバルブガイドの磨耗により歪みが発生していたら、シールを交換するだけでは意味がない。バルブの開閉が正確にできない状態では、吸入・圧縮・爆発・排気を効率良く行なうことはできないからだ。入念に点検をしてバルブガイドを交換しておく必要がある。

エンジンのシリンダーとヘッドの間にあるヘッドガスケット。劣化するとオイル漏れや水漏れを引き起こす。直列エンジンに多い症状だ。
ヘッドガスケットの劣化を放置しておくと、冷却水にオイルが混入してしまいラジエターのサブタンク内の水が茶色に変色してしまうことも。
この小さなゴムパーツがバルブステムシール。これが劣化するとバルブに付着したオイルが燃焼室まで下がってきてしまう。
バルブステムシールだけではなく、バルブガイドの歪みによってオイル下がりが発生することもあるので状態によっては新品に交換される。
 

長く乗るならヘッドの
オーバーホールは必須

 ヘッドガスケットの交換のみというのは、先にも述べた通りオーバーホールとは言わない。80年代以降に設計されたエンジンは、オイル管理さえキッチリ行なっていれば、カムが減るということはほとんどなくなった。オイルのクオリティ向上とともに、エンジン自体の耐久性も飛躍的に向上しているからだ。エンジンヘッド回りの修理は、バルブステムシールの硬化やバルブガイドの摩耗、ヘッドガスケット抜けといったものがほとんどで、オイル漏れが絡んだものが中心になっている。以前のタイミングベルト使用エンジンでは、コマ飛びなどが原因でバルブとピストンが干渉したためにオーバーホールを行なうということもあったが、それも今は減少傾向にあるようだ。
 では、オーバーホールの本当の意味とは何か。明確な基準はないのだが、やはりバルブ回りの加工や面研、バルブタイミングの調整、そして入念な洗浄を行なうことにある。
 ヘッドガスケット周辺からオイル漏れが激しかったエンジンは、ヘッドの面研作業で歪みを取ることで、ガスケットが本来のパフォーマンスを発揮できオイル漏れを起こすことはほとんどなくなる。同時に張力が必ず低下するヘッドボルトにも新品を奢れば、オイル漏れが発生する確率をさらに低下させることが可能だ。
 オイル下がりには、バルブステムシールやバルブガイドの交換だけではなく、バルブシートカットも行なうことで隙間の発生しない確実なバルブ開閉を実現できる。ヘッド面研加工と同時にバルブシートカットを行なうのが、総合的に判断すると賢い選択といえるだろう。
 バルブ回りが正常に作動するようになったら、それを動かすバルブタイミングを取り直す必要がある。バルブタイミング調整とは、文字通り、バルブの開閉タイミングを決めること。吸気だけを例に取れば、ピストンが下がっている時に吸気バルブを開けなければ、効率良く混合気を吸い込むことはできない。ピストンが下がる負圧が、吸気の最大要因となるためだ。
 この善し悪しを決めるのがバルブタイミングで、チェーンでもベルトであっても伸びが生じるために徐々にずれてきてしまうのだ。オーバーホール時には、正規のタイミングに調整することが必須なのである。また樹脂製のガイドレールが磨耗していることもあるので、このタイミングで新品に交換しておくと安心。ガイドレールが破損してしまうトラブルも発生しているので注意したい。
 ヘッドのみとはいえ、エンジンのオーバーホールというのはメカニックの経験と技術が重要になる。部品の組み方やちょっとした調整にもノウハウがあるのだ。決して安い費用ではない作業なので、信頼できるメカニックに依頼するようにしたい。

長期使用によりエンジンヘッドには歪みが生じていることが多い。面研することでヘッドを平らにすればオイル漏れ防止にも繋がる。
ヘッドのオーバーホール時には張力が必ず低下するヘッドボルトも新品に交換するのが基本。これもオイル漏れの抑制に繋がる。
バルブタイミングが狂っているクルマも多いので、ヘッドのオーバーホールのタイミングで調整しておくのが望ましい。
左が新品のチェーンガイドレールで右が劣化したもの。磨耗しているのが写真からも分かる。こうした部分も点検しておきたい。
 

ヘッドオーバーホール時にやっておきたい
バルブのシートカットと擦り合わせ

確実な性能回復を
実現するために有効な手段

ヘッドのオーバーホールをするときにぜひやっておきたいのがバルブのシートカット加工。具体的にどんな作業をするのかというと、例えば純正でバルブの縁が2段の場合、機密性を高めるために3段に加工するといった具合。もちろん、このバルブの縁の角度に合わせてヘッド側も削る。これによりバルブの当たり面の密着度が増し、高い圧縮力を生み出すことが可能になる。そして、キレイに洗浄したバルブに、専用のコンパウンドを付けてバルブシートと擦り合わせを行なう。光明丹(朱肉のようなもの)をバルブシートに塗り、それが均等に傘部分に付着していれば、バルブの開閉が完全にできている証になる。

加工したバルブに合わせてヘッド側も削って加工を施す。これにより当たり面の密着度が増す。
光明丹が均等に傘部分に付着していれば、バルブの開閉が完全にできている証。
左が純正のバルブで右が加工後。縁の部分が3段に加工されているのが分かる。