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Bクラス

2021.03.05

Bクラスに乗って想うMercedes-Benzの底力

 こだわりの手作り高級車から世界有数のグローバルブランドへと転身を果たしたメルセデス・ベンツ。これまでとは大きく異なるクルマ作りを試行錯誤しながら自力で確立し、今ではコンパクトカーであっても誰にも文句は言わせないクオリティとリーズナブルな価格を両立させるまでに進化した。これこそが、メルセデスの誇りと底力ではないだろうか。ここでは中古車価格もリーズナブルな先代型Bクラスを見ながら解説していこう。

マニアックなファンにとってもこれは最良のストーリーである

 今ではちょっと信じがたい気もするけれど、ほんの35年ほど前までメルセデス・ベンツの乗用車ラインナップには大小2サイズのサルーンと、クーペにSLという、4つのボディしか存在しなかった。そのブランドこそ世界中に知れ渡ってはいたが、ごく少量生産の高級車メーカーに過ぎなかったのだ。ここ日本においても、例えば1980年のメルセデス・ベンツ新車登録台数はたった3887台なので、どれだけ特殊な存在であったかが分かる。
 しかし変革の大きな波が自動車産業に襲いかかり、個性とこだわりだけでは生き残れない時代が到来すると、メルセデス・ベンツの変化のスピードは速かった。生産方式を改め、次々とプラットフォームを利用した派生モデルを生み出し、コンパクトからSUVやミニバンまでのフルラインナップを完成させたのだ。
 身勝手なメルセデスのファンという立場からすると、変わらず昔のように贅沢なクルマを作り続けて欲しかった、という声もあるだろう。でも、もしそんなことを続けていれば、経営破綻してどこかの傘下企業になっていたかもしれない。世界的な競争力を持つトップブランドとしての存在があるからこそ、半世紀も前に製造したモデルのボルト一本まで揃えてみせるという、他のメーカーには絶対に真似のできない部品供給体制を保てているわけで、これは古い世代のメルセデスに趣味として乗り続ける人達にとっても最善のストーリーであったことは間違いないのだ。
 メルセデス・ベンツというブランドの信頼感、幅広い車種ラインナップ、そして身近になったプライスで、新世代のメルセデスは売れに売れた。日本でも1999年から2001年までの3年間、新車販売は5万台を超える数をキープし続ける。これはバブル期の頂点だった1990年の3万8985台を軽く上回る数である。それに比例するように、様々な問題点も露わになる。
 新しい構造、素材、システムを一気に採用したことによる予想外のトラブルが頻発し、ユーザーの間には信頼性に対する疑問の声が広がるようになった。そしてクルマにとって最も重要であるブレーキシステムへの二度のリコール。市場のメルセデス・ベンツへの信頼は大きく揺らぐ。かつて「最も値落ちしない」と言われた中古車の価格は大きく下がり、さらにユーザーの不満をあおることになってしまう。
 それから数年、確かW221型Sクラスからだったと思う。過去と決別するかのようにシャープなラインとなったデザインだけでなく、クルマとしての完成度が目に見えて向上した。高級車として相応しい質感と信頼性を取り戻したのだ。そして第2世代のBクラスに乗ると、その仕上がりの高さに驚いてしまう。スポーティなハンドリングでありながら、深く落ち着いた乗り心地。初代のように二層構造のフロアではなくなったが、ボディ剛性が極めて高い感触も伝わってくる。円形の空調吹き出し口やスイッチ類を動かした時のタッチも、非常に高級感あるものになった。楽しげなデザインや使いやすさに価格設定も含めて、これなら文句の付けようがない。新車時は納車待ちが出るほど高い人気を誇ったのだ。
 そんな中でメルセデス・ベンツの力量を感じるのが、わずか数年でここまで高いレベルに仕上げてしまった様々な改善を、すべて自力でやってしまうこと。例えば、近年信頼性を高めて再び販売が伸びているシトロエンの場合。最もネックとなっていた「AL4」と呼ばれる共同開発のオートマチックトランスミッションに変わり、日本のアイシン精機から供給を受ける6速タイプを採用した。これを積んでいるか否かによって中古車価格に大きな開きが出るほど、信頼性に違いがあると市場は認識しているようだ。結果としてフランス車ながら日本とのハーフになって初めて評価されているわけだが、メルセデスの場合はもちろんATも自ら開発してウンターテゥルクハイム(Untertuerkheim)の自社工場で生産する純血のドイツ車である。
 昔気質な職人集団だったメルセデス・ベンツが、ここまで来る道のりには様々なドラマがあったに違いない。抵抗する勢力もあっただろう。しかし大きな変革と苦難を乗り越えて、初めて柔軟な発想を持ついい組織になるのではないだろうか。そしてその結果、現在では国際的な競争力を持った素晴らしく魅力的なクルマが生み出されている。
 多くの技術に対する特許を持つことが証明するように、自動車という製品に対してダイムラーAGが持っているパフォーマンスは間違いなく世界一。メルセデス・ベンツはいつの時代も自動車の価値基準である。それがボディがコンパクトなBクラスやAクラスであっても、最も確かな選択に違いないのである。

エンジンは直噴1.6ℓの4気筒DOHCにターボチャージャーを搭載。非常に細かく制御されている。
フロアの高さは通常のクルマと同様に低くなり足元スペースは広々。しかし高いサイドシルが物語るように、ボディの剛性は以前より増している。
十分なスペースを確保したラゲッジルーム。多彩なアレンジができるのも魅力。
インパネ回りはモダン&シックな雰囲気でまとめられている。電動パワステに不自然な感触はなく、ペダル配置も上々。シフトノブはコラムに備わる。
セーフティパッケージオプションで停止状態まで車間距離を強制アシストするディストロニック・プラスを装着可能。価格は税込み15万円と意欲的だ。
シートはファブリックとハーフレザーの他、オプションで写真のフルレザーやパワーシートも選ぶことが可能。リアシートは豊富なアレンジが可能だ。
1970年代、W123時代を想わせる空調の吹き出し口は、適度な重みのある操作感で高級感あるもの。以前に比べると大きく進化した。
Profile / 2012 Mercedes-Benz A180

Aクラスのダブルフロア式プラットフォームを利用して誕生した初代モデルから、第二世代へとチェンジしたBクラス。ボディは通常のフロア高とすることで居住性を高めつつ、コンピュータ解析により安全性を大幅に強化。高張力鋼板と超高張力鋼板も多用されている。パワートレーンは直噴ブルーテックテクノロジーの1.6ℓにターボを組み合わせ、1.5tに迫るボディを軽快に走らせる。ミッションはデュアルクラッチの7速タイプで、ECOスタートストップ機能と組み合わせられ高い燃費性能も実現。リアサスペンションもマルチリンク式へと進化した。豊富なオプションの他、カラーバリエーションも旧型より大幅に充実し、自分好みの仕様に仕上げる楽しさも。新しいコンパクトの扉を開く1台である。

 

Specifications          B180ブルーエフィエンシー

全長×全幅×全高(mm)     4365×1785×1540
ホイールベース(mm)       2700

車両重量(kg)            1450

エンジン方式          直4DOHC+ターボ

総排気量(cc)           1595

ボア×ストローク(mm)     83.0×73.7

最高出力(ps/rpm)       122/5000

最大トルク(kg-m/rpm)    20.4/1250〜4000

変速機             電子制御7速AT

トランクスペース(ℓ)      486〜1545

最小回転半径(m)         5.2

使用燃料・タンク容量(ℓ)   無鉛プレミアム/50

10・15モード燃費(km/ℓ)    16.4

タイヤサイズ          205/55R16

新車価格(万円)         299