TOP > 記事 > 直6VSV6 6気筒エンジン列伝!Part.03メカニズムとメンテナンスの違い

直6VSV6 6気筒エンジン列伝!Part.03メカニズムとメンテナンスの違い

今ではヤングクラシックとも言えるM104型直6DOHCユニット。当時その次世代エンジンとして登場したのがM112型V6SOHCユニットだった。同じ6気筒でも構造が全く異なることでどんな違いがあるのか。メカニズムやメンテナンスの面から比較してみた。

直6エンジン(M104)

昔ながらの鋳造方法によって生産されている直6ユニットは、ブロックの壁が肉厚でいかにも重そうな雰囲気。シリンダーライナーとブロックが同時に形成されているクローズドデッキと呼ばれるタイプである。シリンダー内部の冷却水路が細く目詰まりしやすいため、冷却水の管理がとりわけ大切。大事に使えば長持ちする構造だ。

鋳物砂を固めた鋳型を使い鋳造した昔からの製法のエンジン。「中子」と呼ばれる型抜きのための鋳型を内部に仕込んで鋳造する、高い技術が必要な生産方法である。シリンダーライナーとブロックの部分は同時に形成されるため強固に一体化されていて、肉厚であるためボーリングしてボアアップすることも可能。製造時の誤差で品質に優劣が出やすいが、優れた耐久性を持つ構造である。

そもそもが3ℓのM103ユニットでスタートしたこの直6エンジンは、AMGの3・6ℓユニットにまで拡大可能なポテンシャルを秘めたものだった。構造的には、当時としては標準的な一体鋳造のシリンダーライナーを持つクローズドデッキタイプ。写真を見ても分かるように、ブロックは十分な肉厚が確保されている。最近ではヘッドガスケットの劣化によって交換が必要になるケースが多いものの、ブロック自体に問題が出ることは極めて希だ。ヘッドのオーバーホールを繰り返せば、30万㎞以上は腰下に手を入れることなく走れるという実証データがいくつもある。いかにもメルセデスらしい、タフで重たいエンジンである。

 

直6ユニットのメンテナンス

メルセデスが消耗品の交換を前提として作られていた時代のエンジンだけに、直6はやっぱり細かな手入れが大切。フロントカバーの「コの字」シールや、カムシャフトポジションセンサー、砂吹きプラグやヘッドガスケット部分など、オイル漏れの定番ポイントも数多い。年式的な部分を考えても、こういった要注意ポイントを細かく点検して、必要であればメンテナンスしてやることが重要だ。

 水回りでは、ウォーターポンプが完全な消耗品で、ポンプ本体にはシールから漏れ出した時に冷却水が決まった場所から流れ出すようにドレンが作ってある。ここをチェックしておけば、水漏れの発生をすぐに発見できるという、いかにも昔のメルセデスらしい発想である。サーモスタットのトラブルは少ないが、週末くらいしか乗らないようなクルマでは気を付けておいた方がいいかもしれない。冷却水は年に一度交換することで、エンジン内部のウォータージャケットに汚れが蓄積するのを防ぐことができる。

 走行距離が進むに連れて、補機類も劣化が目立ってきている。オルタネーターやエアコンコンプレッサーは消耗品として意識している人が多いと思うが、盲点となっているのが排気ガス浄化システムのエアポンプ。エンジンが冷えている時だけ電磁クラッチが繋がって作動するこのポンプは、ベアリングの劣化によってロック→ベルト切れ→走行不能、というケースが少なくない。エンジン始動時だけシャリシャリと異音があるような場合は、早めに点検しておきたい部分だ。

 電気関係では、エンジンハーネスの被覆が劣化するトラブルはさすがに一巡して、すでに交換済みであるクルマがほとんど。今はオルタネーターからバッテリーへ電気を送るPOSケーブルの被覆が傷んでいるものが多い。こちらは車両火災の危険もある容量の大きなケーブルなので、コンディションには十分に注意しておきたい。その他、ヘッドの中に収まっているイグニッションコイルの不良は相変わらず多く、対策品に変わってはいても2、3度目の交換というクルマも普通にあるという状況だ。

V6はオープンデッキ(M112)

コンピュータを使った強度計算によって、ブロックの厚みを必要最小限まで削って軽量化を実現している現代のエンジン。シリンダーライナーはブロックと別に作られ部分的に接合されるオープンデッキ構造が採用されている。大量生産しやすく、冷却性能に優れるというメリットもあるものの、強度的な余裕はなくなっている。

下の写真はエンジンのブロック部分を上から見たところ。ブロック本体とピストンが収まるシリンダーライナーの間が完全に分離した構造になっている。この間はすべて冷却水で満たされるので、ウォータージャケットは非常に大きく冷却効果は高い。その一方、強度面では一見して感じるように優れているとは言えない。製造時はPDCと呼ばれる金型による成型が利用されるようになっている。

当時、新時代のメルセデスを象徴しているのが、オープンデッキ化されたV6ユニット。排気量の小さな小型エンジン向けの技術として発展した、シリンダーライナーがブロックの中で中州のように独立している構造のことで、大量生産しやすくエンジンの軽量化にもメリットがある。その反面、強度的な余白がないためエンジン自体にメカニカルなチューニングを加えたりすることは難しく、長い目で見た場合の耐久性も高いとは言えない。3バルブユニットとなって以降のAMGがスーパーチャージャーを使ったチューニングとなったのには、そんな理由もあるのだ。ちなみに現在のメルセデスは、またクローズドデッキ構造に戻りつつある。

V6ユニットのメンテナンス

M112エンジンが登場後、20万㎞以上を走破しているクルマも目にするようになってきたが、相変わらず手間いらずな印象は強い。オイル漏れが起きるのも、高い位置に取り付けられているオイルクーラーやヘッドカバーパッキンなど交換が容易な部分ばかりで、問題の多い初期の電子制御ATとは対照的な印象だ。

 その一方で、クランクポジションセンサーやエアマスセンサーを代表とした電装部品は、直6時代以上にトラブルが多い。こういったタイプの故障で怖いのは、なんの前ぶれもなく突然エンジンがストップしてしまうこと。とにかくこまめにコンピュータチェックを受けて、エラーコードが記録されていないかをチェックしておきたい。直6時代にも鬼門だったエアポンプは、電動式となって左右バンクの中央付近に取り付けられている。

 またツインプラグを採用する3バルブユニットは、プラグの位置が深く、交換がかなり大変なため放置されているものが多いようだ。いかにロングライフのプラグでも、さすがに10万km手前では交換が必要。各気筒に1つ取り付けられているイグニッションコイルと、プラグの本数分だけあるサプレッサも劣化が進んでいる時期だ。

 この他では、当初リコールされたクランクシャフトのメインプーリーやアイドラープーリーが劣化しているものが多く、とくにアイドラープーリーはベアリングがロックしてベルトが切れてしまうことがあるので要注意。V6ユニットのベルトオートテンショナーは、テンショナー自体を引っ張ってやれば簡単にベルトを緩めることができるので、プーリーがスムーズに回転するか手で回して点検しておくと安心だ。ちなみにベルトを緩める時には、万一外れてしまった時に取り回しが分からなくならないように、デジカメで撮影しておくのを忘れないように。加えてW220はベルト駆動の電動クーリングファンのみで冷やしているので、これが壊れると即オーバーヒートなので十分に注意しよう。

※本記事は2011年4月号に掲載されたアーカイブ。内容や表記は取材当時のもの。