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整備 車検

2021.04.01

整備の現場から気になる話題をピックアップ! 大きな節目を迎える今後の車検整備

 OBD車検という言葉をご存知だろうか? これはコンピュータ診断機での検査が、車検の項目に加わった新しいシステムのことで、2024年(輸入車は2025年)からスタートするものだ。クルマの進化とともに変化してきた整備の環境だが、近い将来、車検においても大きな節目を迎えようとしている。

現代のクルマや技術に対応した新しい検査システムがOBD車検

車検は現在の状態をチェックするための検査

 ここでは、OBD車検が導入されることで何がどう変わるのか、そもそもOBD車検とはどういうものなのかについて解説していくが、まずは現在の車検システムについて簡単に説明しておこう。今でも勘違いしている人が多いのだが、車検と整備はまったくの別モノである。
 現在の車検はあくまで現状をチェックするための検査であり、その通し方によって実施される整備の内容はマチマチ。何もチェックしないで検査場に持ち込んでも、すんなり合格となってしまう場合だって少なくはない。車検のレーンには優れた検査機器が導入されており、国家資格を持つ検査官が目視で入念なチェックを行なっているが、それはあくまで現状のチェックでしかない。またクルマの機能面における信頼性をチェックするという観点から見れば、いささか限界を感じるのも事実なのだ。
 例えばブレーキについて。テスターで計測して、現在規定の制動力が発揮できていれば合格、というのが車検の現実。パッドの厚みを測ってあと何ミリ残っているから合格、なんてことをやっていたら一台の検査に何時間かかるか分からない。車検とはその時に保安基準を満たしているかどうかをチェックするもので、次の車検までの2年間を保証するものではないわけだ。
 それを補うために用意されているのが法定24カ月点検で、そこではブレーキパッドやライニングの残量を確認して、規定の厚み以下になっていたら交換するように定められている。この24カ月点検の項目も、かなり昔に決められたもので電子制御を多用した現代の自動車には適していない部分が多く、また十分な信頼性を確保するのに足りる内容ではないのだけれど、それでも最低限の整備として一定の価値はあるものだ。
 では、具体的に継続検査と呼ばれるナンバーが付いているクルマの車検での検査項目について詳しく見ていこう。まず最初は車幅灯、ブレーキランプ、ウインカー、ハザードランプ、バックランプなどの灯火類。後付けなどのフォグランプも装着されている場合は点灯させることが必要になるので、壊れているなら取り外してしまった方がいい。ホーンやワイパー、ウインドーウォッシャーなどの作動も同時にチェックされ、ホイールボルトの緩みも点検される。また車検証と車台番号、エンジン型式の照合もここで実施される。タイヤの溝が極端に減っていると、ここで不合格となることも。検査官が車両全体を見回して、違法改造の疑いがある部分がないかもチェックする。次はテスターに乗り入れてサイドスリップのチェック。タイヤのキャンバーやトーインが正しく設定されているかを調べる。ブレーキのテストはタイヤをテスターのローラーに載せ、ブレーキを踏んで制動力を測定。サイドブレーキも同様だ。スピードメーターはローラー上でクルマを走行させ、メーター読みで40㎞/hのところで合図を送り誤差を調べる。排気ガスのチェックはアイドリング状態でCO(一酸化炭素)とHC(炭化水素)の濃度を測定。
 ヘッドライトテスターでは左右別々にハイビームでの光軸の狂いとライトの光量をチェックする。そして下回りの検査では、サスペンション回りに緩みがないか、ドライブシャフトやステアリングラックなどの保護ブーツが切れていないか、マフラーの組み付け状態、ガソリンやオイル、冷却水などが漏れ出していないかなどを総合的にチェックする。ここまでの流れで時間にして10〜15分前後。
 このように検査の内容を見てみると、安全に走るために重要な部分が機能しているかどうかをチェックするという車検の目的がよく見えてくる。車検はあくまで、公道を走るクルマの安全性を一定レベルに保つために設けられているハードルであって、自動車という機械としてキッチリと整備された状態であるかどうかまで見極めるものではないのだ。とくにエンジン関係については、排気ガスが一定の状態を保っていて、極端なオイルや冷却水の漏れがなく、異常なベルト鳴きなどが出ていなければ、ほぼノーチェックと言ってもいい。つまり車検のレーンで合格判定をもらった次の瞬間にエンジンが止まってしまったとしても、何の不思議もないということなのだ。

特定の故障コードが出るとOBD車検では不合格に

 このような状況にある現状の車検システム。さらに近年の自動車は、緊急自動ブレーキやレーンチェンジアシストといった先進の安全装備を当たり前のように装備するようになった。ただ、これらの電子ユニットやセンサーに不具合があっても、外観だけではその状態を把握することができない。そんな状況から長きに渡り議論されてきたのがOBD車検である。
 これは車検時にコンピュータ診断機(スキャンツール)を使って、電子ユニットやセンサーの状態をチェックするというもの。特定の故障コードを各自動車メーカーが国に届け出て、その故障コードが出たクルマは車検では不合格となる。
 現状の車検システムでは、こうしたクルマの先進システムにおける検査は行なわれていなかったが、自動運転や安全装備の進化により、それらが誤作動することによる事故を防ぐのがOBD車検の目的である。国土交通省の報告によれば、2024年(輸入車は2025年)からOBD車検をスタート。対象となるのは、2021年(輸入車は2022年)以降の新型車からとなる。また、近年の自動車はフロントガラス、バンパー、グリルなどにセンサーやカメラが装着され先進の安全性能を備えているが、事故や不具合によってこれらに関連する部品を交換する際には、エーミングと呼ばれる機能調整が必要になる。これは現在も行なわれている整備の一部だが、調整をするための設備が整っているのはディーラー以外ではまだまだ少ない。現状、一般の修理工場においてはディーラーに出して対応するというケースが多い。ただ、国産車も輸入車も先進の安全装備を搭載しているクルマが増えていることもあり、某メーカーでは作業待ちが出てしまっているようだ。加えてOBD車検が導入されると機能調整作業を省略したクルマは不合格となるため、不具合があるクルマは設備が整った修理工場に車検を出す必要が出てくる。
 このように大きな節目を迎えようとしている車検整備。整備関係者だけではなく、ユーザーも正しい知識を持つことが重要になってくる。

現在の車検における要注意ポイント

ウインカーや車幅灯などの灯火類は、クルマの大切なコミュニケーションツール。球切れなどの点灯不良は危険に直結するので、車検では厳しくチェックされる。もちろん問題があれば一発で不合格に。
ドライブシャフトやステアリングラックなど、可動部分にゴミなどが入らないように保護しているダストブーツ。これが切れていると一発アウト。写真のように内部のグリースが漏れている状態もダメだ。
古めのクルマや極端にインチアップしたタイヤではスピードメーターが狂ってしまうケースが多い。

スキャンツールの重要度がさらに高まる

近い将来、車検にもスキャンツールを導入
高度な電子制御を搭載する近年のドイツ車においてはスキャンツール、いわゆるコンピュータ診断機が必須となっている。故障原因を特定するだけではなく、部品を交換した後のリセット、コーディングといった作業は今では当たり前に行なわれているものだ。アナログ時代のドイツ車を知るメカニックやユーザーにとっては大きな変革期になったわけだが、今後は車検においてもスキャンツールを使った検査が加わることになる。一般整備だけではなく、車検においてもスキャンツールの重要度は高まっている。
近年のドイツ車にはアダプティブクルーズコントロールやレーンチェンジアシストなどの安全運転支援システムが搭載されているが、これらに不具合が起きたり、部品交換後に補正をするのもスキャンツールの役割。近年のドイツ車にとっては欠かせない整備ツールである。