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デジタルVSアナログ チューニング手法と効果を比較する!Part.02【アナログ編】

アナログ世代のチューニングについて見ていきたい。ECUとは違ってエンジン内部に手を加えることでパワーアップを図るのが特徴だ。ここでは往年のAMGモデルをサンプルにしながら、アナログ的なチューニングについて解説していこう。

 コンピュータを用いないアナログ的なチューニングの魅力と言えば、ポート研磨やカムシャフトの交換といったエンジンのバラシや組み付け作業が必要になるアプローチ。不況の昨今ではやや時代にマッチしない側面もあるが、確かなパーツチョイスと優れた職人によって組み上げられたチューニングエンジンは、ノーマルでは得られないパワーやエンジンレスポンスを手にすることができるのだ。その代表的な存在がメルセデスのチューナーとして名を馳せたAMGで、コンプリートカーのほかにも、チューニングパーツをリリースしていた。W124世代では例によってステージⅠからステージⅢまで出力によって異なるチューニングキットが用意され、これはヘッドASSYとしてリリースされていた。その内容は、ポートの研磨やバルブ類の重量合わせのみならず、強化バルブスプリングやハイカムシャフト、燃焼室形状の変更といった大がかりなもの。ヘッドの面研もされていたので、圧縮比も高くなるチューニングヘッドASSYだ。

 排気量の拡大を望まなければ、ヘッドのASSY交換という作業は比較的容易な部類に思われがちだが、その誤解が多くの失敗を生み、またチューニングエンジンの評判を落としてしまったことも事実だ。ASSY交換といえどもハイカムが入り圧縮比も異なるために、バルブタイミングはそれ専用の数値に合わせなければならない。まずこのバルタイを正しく調整することができなければ、高価なチューニングヘッドを装着しても宝の持ち腐れとなってしまう。また、チューニングヘッドの性能を正確に引き出すには、その他の部分にも手を入れる必要が出てくる。例えば、Kジェトロならアイドル調整や点火タイミングの調整が必要になるし、LHなどでチューニングステージに合ったECUチューニングもまたしかりだ。単なるパーツ交換だけでは決して済まないのがアナログ的なエンジンチューングであり、それを熟知しているメカニックに依頼することも非常に重要なのだ。

 ちなみに、W124世代のAMGエンジンは、ピストンリングのみのパーツ供給はされていない。ピストンとのASSYになるので、オーバーホール時のコストは高くなる。

エンジンの見た目はノーマルとあまり変わらないが、その中身は徹底的なチューニングが施されている。クランクシャフトやコンロッド、ピストンなど各パーツを強化することでモアパワーを得ているのだ。

キャブレター時代のチューニング手法

 完全アナログな燃料供給装置であるキャブレター。電子制御の燃料噴射装置が主流になる前には電子制御のキャブも存在したが、ドイツ車にそれが採用されたものは少ない。

 ゆえに完全にアナログなキャブレターにおけるチューニングという意味で話を進めると、そのセオリーはより多くの混合気を燃焼室へ送り込むことができるキャブへの変更というアプローチが主流。サイズもセッティングパーツも豊富で比較的入手しやすく、イタリアのウェーバー製キャブレター(現在はスペイン製が主流)への変更が多い。

 セッティングは空気とガソリンの流量をコントロールするジェット類の変更、混合気を調整するニードルバルブの調整、キャブの種類によっては、リンクやフロートの調整に必要なスプリングなどを交換しなければならない。14・7:1の理論空燃比をベースにしながらセッティングを行なうのだが、なにせその都度キャブを開けるという手間がかかる。当然、使用するキャブの個数が増えればコストも時間もかかることになるので、ECUチューンの燃料セッティングよりも面倒な場合も多い。反面、細かい数値で合わせるセッティングは少ないために、いい意味でのアバウトさも持っている。そのため、緻密な制御はできず燃費や排気ガス対策では不利となるが、キャブならではの吸気音や加速感は強い趣味性が味わえるものである。

 今からキャブレターのチューニングをやってみたいという場合、かつ時間とコストを抑えながら楽しみたいというのなら、直前まで完動状態であった中古のキャブを探して装着することがお勧め。セッティングの時間は大幅に短縮できるし、結果としてコストも抑えられる。またキャブレターの変更時には、それに合ったインマニおよびエアクリーナーも必要になることを覚えておきたい。

キャブレターはセッティングをするたびに開ける必要があるので手間がかかる。当然、メカニックの技術も重要になってくる。

キャブならではの吸気音や加速フィールは味わい深いもの。世界中で人気が高いキャブ搭載のビートルは趣味性も高い。

実践的アナログチューニング

機械式ATはシフトアップポイントが変更できる

 “アナログ的なチューニング”という表記自体が少しあいまいだが、広い意味では昔ながらの定番チューニング、つまり高性能なプラグコードへの交換なども含まれる。しかし、ここではそのあたりのメソッドは割愛して話を進める。

 まず、ノーマルよりも積極的な走りが楽しめるチューニングメニューとして紹介したいのが、機械式ATのシフトポイント調整。AT内部のクラッチディスクの枚数を増やす、または厚みの異なるディスクに変更、バルブボディ内部のスプリングの強化などで、シフトポイントを高い位置に変更することができる。電子制御ATのスポーツモードと同じような結果が得られるアプローチだが、ATをバラす必要があるため、オーバーホールのついでにシフトポイントを変更するというのが現実的だろう。また、バキュームBOXでの調整でシフトショックを減少させるなど、ATに変化を付けることも可能になっている。

 エンジンのアナログ的なチューニング、調整・調律という意味で有効なのがタペット調整(バルブクリアランス調整)だ。無論、バルブクリアランスを油圧で自動調整してくれるエンジンには必要ないが、そうではないものは定期的な調整が不可欠。これはカムとバルブリフター、カムとロッカーアームの隙間を調整するもので、調整せずに走っていると徐々にこのクリアランスが広がってしまい“カチャカチャ”という音が生じてしまう。クリアランスが広がる理由はカム山、バルブリフター、ロッカーアームの摩耗によるものがほとんどだが、規定値以上に広がるとバルブタイミングまで狂うので出力の低下を招く。クリアランスを適正に戻すには、シックネスゲージを使いながら調整ネジを締め込み、0・35㎜あたりに合わせるのが一般的。メルセデスやBMWでは比較的早くから油圧タペットを導入していたが、ポルシェの場合は964までタペット調整が必要になる。出力アップのチューニングというよりは、性能回復を目指すメンテナンスに当てはまるものだが、タペット調整をキッチリ行なうだけでエンジン性能が大きく回復することも少なくない。

 最後はポート研磨。インマニの内側のざらつきなどを無くすことで、吸入効率のアップを図るという定番のメニューだ。小型のリューターを使えば、DIYできるが注意点もある。ポートによっては内部に仕切りや膨らみを持たせたものもあり、研磨のついでにそれらまで平らにしてしまうのは止めた方が良い。吸入流速が遅くなり、混合気の充填効率が悪くなることもあり得るためだ。

シフトアップポイントを高くすることで、電子制御式でいうスポーツモードのような変速タイミングにチューニングすることができる。

タペット調整によってエンジンが持つ本来の性能を引き出すことができる。通常のメンテナンスメニューとしても必ず行なってほしい。