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【BMWメカニズム大全01/足回り編】進化を重ねるごとに複雑化している足回り

過去から現在におけるBMWの最新メカニズムや足回りに関するヒストリー、画期的な発明などに触れながら、BMWの足回り、サスペンションがどんなものかを改めて考えてみたいと思う。本来の走りを知るためにもBMWがどのようなメーカーなのかを知れば理解も深まるはずだ。

 

どんなに進化を遂げても
変わらぬ走りへの追求

快適性が大幅に向上した
現行型3シリーズの走り

 サスペンションシステムはシンプルなほうがいい。それはスペース的な意味合いもあるが、ブレーキング時の挙動や、ハンドリングなどに、クルマの挙動に複雑さを与えないから、という理由もある。しかし、サスペンションに求められるコントロール性とハーシュネス、さらにはスタビリティといった要件を満たそうとすると、どうしても複雑な構造になっていくもの。複雑になれば、そのアライメントはもちろん、そこに介するリンクは増え、ブッシュ類にも独特の動きと高い耐久性が求められるようになり、コストも増大していく。これは、BMWに限ったことではないが、振り返ってみると2000年ごろまでのモデルのサスペンションは、今と比較すると、シンプルであり、あの頃のモデルを知っている者はついつい回帰したくなるもの。実際に、今乗っても、快適性に古さを感じても、操るという愉しさは負けていない。個人的には3シリーズのフロントがシングルジョイントだった頃に懐かしさを覚えるが……。
 さて、BMWスタンダードとなる3シリーズでは、形式としてはフロントにダブルジョイント・プルストラット・スプリングストラット式、そして、リアに5リンク式を組み合わせている。アルミを多用したアーム類や新世代ホイールベアリングの採用などによりバネ下重量を低減させ、もちろん、ボディを含めて剛性を高めるチューニングが施され、BMWにとって欠かすことのスポーツ性能をブラッシュアップさせていることをトピックとしている。
 ところが、それ以上に、現行型3シリーズからその乗り味に大きな変化が生まれていることをご存知だろうか。簡単に表現すればアッパークラス感であり、これまではスポーティだから仕方ないと、トレードオフとされてきたポイントでもある。シャシーにおいては、ラグジュアリィセダンに期待される快適性を実現するために、油圧ダンパー付きプル・ストラット・マウント、さらに、当時、BMWとしては初となるストローク依存型ダンパーコントロールを搭載。後者は、スポーツ性能に求められる腰のあるフィーリングと、日常域における快適性をハイバランスさせることができるシステムであり、いわゆる電子制御によってさまざまに減衰力をコントロールするシステムではなく、ハードウェアそのものでフィーリングを作り出しているところがポイントだ。実は、このコンセプト、そして製品は、以前から実在していたものだが、その複雑な構造もあってなかなか定番とはなりえないシステムでもあった。
 具体的には、ボディから入ってきた振動は、このダンパーのインナースリーブ部分でいなされ、やがて速度域やシーンが変わったことで大きくなった振動は、ダンパー全体が作動して吸収してくれる。つまり、プログレッシブ的な減衰力を提供してくれるため、まさに快適性とスポーティをハイバランスできた、というわけだ。
 だから、現行型3シリーズをドライビングするとまず感じるのは、とにもかくにもボディ剛性の高さなのだが、乗り込んで行くうちに、その剛性とはボディだけというよりも、シャシーも相まって作り上げられていることを読み取れる。このシャシーは、とにかく日常域における細かな振動を整えることで快適性を作り上げ、ワインディングでは挙動を安定させ、トラクションをいかに無駄なく路面へと伝えるかを集約させている。ちなみに、このシステムは、標準モデルはもちろん、Mスポーツサスペンションにも採用している。
 

BMWはユーザーの
ニーズを熟知している

基本的なサス形式を熟成させ
ハイテク制御でより高みを追求

 ちなみに、この現行型3シリーズには、電子制御ダンパーを採用したアダプティブMサスペンションも設定。こちらは無段階調整式バルブを用いて、各ホイールごとに最適な減衰力を提供。もちろん、設定としては固めになっているものの、実際に感激するのは日常域における快適性のほうかもしれない。その分、ワインディングでの走りが犠牲になっているかといえば、そんなことはなく、曖昧さを削ぎ落としたかのようなシャープな走りが顔を出す。つまり、心地いいと感じ取れるバンドがかなり広くなっており、イマドキのBMWファンが何を望んでいるかを、BMWはユーザー以上に熟知しており、それを新世代の技術とともに製品へと反映してくれている。
 そうそう、先のダンパー内に追加スリーブを設けてプログレッシブな減衰力を提供してくれるストローク依存型システムは、昨年後半に登場した2シリーズアクティブツアラーにも採用された。アッパーモデルだけではなく、スタンダードモデルにまで、また、FF、FRといった駆動方式にも関係なく展開するスタンスは、スポーティさを見失わないBMWの乗り味提案に通じている。

 

スイッチ操作でスポーツ、コンフォート、エコなどの走行モードが選択できる。これによりエンジンやトランスミッションなどを統合的に制御し、走行フィーリング、燃費などに違いが出る。
Mスポーツがパッケージとして設定されていた頃は、普段使いにおいて乗り心地の硬さが気になったものだが、現在のMスポーツは大幅な進化を遂げている。乗り心地に不満を感じることはなく、スポーティな走りとコンフォート性を見事に融合している。それを可能としているのも高度な電子制御のたまものといえる。
BMWのお家芸と言えるほど徹底されているのが、あらゆる部分の軽量化。足回りもそうで、早くからサスアーム類にアルミを多用して軽量化を実現。モデルチェンジのたびに大きくなるボディと増える装備による重量増を最低限に抑えているのだ。