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【 GERMAN SPECIAL CARS!! vol.07 至福の時間を特別なクルマで。/ 美しいオーバーフェンダーを作る板金職人の叩き出しの技術 】

トレッドを拡大することによってスタンダードモデルのデザインの中に収まりきらなくなったタイヤを収めるための処理には、オーバーフェンダーがある。美しいオーバーフェンダーを作る方法として叩き出しがあるが、これには熟練板金職人の高い技術が必要となる。

 

美しいオーバーフェンダーを作る
板金職人の叩き出しの技術

 数多くの実績がある熟練の板金職人にオーバーフェンダー化について話を聞いてみた。ここでその一部を紹介しよう。まず、オーバーフェンダー化に関しては、叩き出しでどれだけホンモノに近づけることができるかが、腕の見せどころ。叩いて鉄板を伸ばしながら成形していくが、叩き過ぎて薄くなり過ぎると鉄板が切れたりペラペラになってしまう。この作業は技術を要するためパテを厚く盛ってごまかしてしまうところもあるようだが、パテの厚盛りはサビや塗装のヒビ割れを生じさせやすいので耐久性が劣る。ハンマーと当て板で極限まで叩き出して、パテはハンマーなどのキズを消す程度に薄く使う、これが基本なのだそうだ。もうひとつ難しい部分は、フェンダーの前側にあるバンパーとの接合部。ワイド化するにあたり、ここの幅も広げなければならない。このあたりも鉄板を継ぎ足すことで、本物と同じ仕上げとなる。フロントより難しいのがリアフェンダー。フロントと同様に叩き出すことが基本だが、リアフェンダーはその構造上、表側と内側に2枚の鉄板が存在する。これがフェンダーの端、いわゆる“耳”と呼ばれる部分でスポット溶接が施されている。ハンマーと当て板を使うには、1枚の鉄板の表と裏から叩かなければならない。したがって、溶接個所にドリルで穴を開け、たがねを使って2枚の鉄板を剥がさないと叩くことができないのだ。また、リアフェンダーの内側に手を入れる必要があるため、内装を外したり、ワゴンモデルではガラスを外すといった作業も必要になる。
 さらにフェンダーに繋がるモールの加工など、単にオーバーフェンダー化といってもこうした細かな仕事を丁寧かつ総合的に作れなければ、美しいオーバーフェンダーにはならないのである。それだけにオーバーフェンダー化は、誰に作業してもらうかがとても重要なのである。

フェンダーの形を作る場合、丸い面のハンマーで叩くと同時に、当て板で押し出しながら鉄板を成型する。鉄板が伸びた場合は、凹凸面がついたハンマーや当て板を使って、縮ませる作業を行なう場合も。手の届きにくい部分は、自作の長い当て板を使いフェンダーの端は特殊なツールを用いる場合もあるとのこと。
脱着が簡単なフロントフェンダーは、比較的作業が容易。純正フェンダーから型取りするので、ワンオフでありながらほぼ同じ形状に加工できる。難しいのは、オーバーフェンダー化に合わせて、モール類を加工することだ。
 

そもそもオーバーフェンダーは
低コストで実現できる手法だった

もっとも短時間にコストをかけずに行なえるオーバーフェンダーは、金属や樹脂などで作ったタイヤを覆うための囲いを、リベットやねじ、溶接などで既存のフェンダーに貼り付けることで、より広いフェンダーアーチを実現する。BMW2002シリーズに追加されたターボなどがとてもわかりやすい例だが、一般的には自動車メーカーが行なう種の仕事ではなく、町のチューナーやレーシングチームなどがコストと時間をかけずに、目的の性能を実現するために採る手法。マルニは別としてもチューニングカーに多い傾向がある。