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【ジャーマンクラシックの魅力を読み解く3っのキーワード②/「デザイン」】~もう一度乗りたくなる“ドイツの絶版名車”~

なぜ多くの人がジャーマンクラシックに引かれるのか。そのヒントになるのが「ダイレクト」「デザイン」「仲間」という3つのキーワードだ。それぞれのカテゴリーについて詳しく解説していこう。第2回目は「デザイン」だ。

 

「デザイン」の自由度が高い時代に
2人のカリスマが描いた名車たち

 クルマなどの工業製品は開発、設計段階で決められた性能要件を満たしつつ、ユーザーに受け入れてもらうための工業デザインを施す。それは自動車だけでなく家電なども同じ。性能、予算など定められた条件の中でデザインしていくので、美術品などのようにアーティスティックな物を作るのとは方向性が異なるのだ。それでもなぜ、ジャーマンクラシックを見ると美しく個性的だと感じるのだろうか。
 その理由の一つに燃費性能への追求が挙げられる。現代のクルマにとって燃費性能が非常に重要なことはご存知だろう。ファミリー向けのコンパクトカーだけではなく、たとえ大排気量のフラッグシップであっても、現代のクルマ作りにおいて燃費性能を向上させることは避けられない命題なのである。
 燃費にとって重要なのはエンジンはもちろんのこと、空気抵抗の少ないボディを作ること。それゆえ、高度な空力コンピュータ解析がなされているのが現代のクルマだ。理想を追求すればどれも似たような形になるのは避けられないわけで、例えばかつてプリウスとインサイトが似ていたというのは、その一例だと言えるだろう。
 では、ジャーマンクラシックはどうなのか。70年代後半からクルマに対する効率化が求められるようになり、空力についても改善されるようになった。それでも現代のような高度なコンピュータ解析はなされておらず、デザインにおいては自由度が高かった時代だ。ただし、それだけで美しいデザインが生まれるかというとそうではない。自由度が高いということは、デザイナーのセンスがより際立つということなのだ。
 そんなクルマ達のラインの多くを描いたのが、ポールブラック氏とブルーノサッコ氏。二人ともダイムラーベンツ出身であり、ポールブラック氏は後にBMWに入社している。この2人が描いた我々がよく知るドイツ車は、タテ目のメルセデス、BMWの初代6シリーズ、初代5シリーズ、初代3シリーズ、初代7シリーズなど。これらをポールブラック氏が、メルセデスW126、W201、W124などをブルーノサッコ氏が手掛けている。クルマのデザインはチームで行なわれるので、全てを描ききったというわけではないが、それぞれ責任ある立場でこれらのクルマたちを完成させている。
 今よりも燃費などの性能要件のハードルが低かったとはいえ、今もなお多くの人々を魅了するデザインは、この時代だからこそできたものであると同時に、2人のデザイナーの存在が大きい。
 ジャーマンクラシックに乗るユーザーから「デザインが飽きない」という声をよく聞くが、確かにどこか温かく、落ち着いた佇まいを感じさせる。時間が経つにつれて馴染んでいくようなイメージだろうか。現代のクルマにそうした想いを抱けないからこそ、ジャーマンクラシックの美しいデザインは長く愛されているのである。

 

デザインが個性的であった理由

●現代よりも空力に関する
 性能要件が高くなかった
●カリスマと呼ぶに相応しいデザイナーの存在

現代のクルマのデザインは燃費性能が重視されるため、空力における性能要件が高い。クラシック世代でも風洞実験などは行なわれていたが、今ほど条件は厳しくなくデザインにおける自由度が高かった。そして、その条件の中で、美しく個性的なクルマを描いた2人カリスマデザイナーの存在が大きい。

Designer`s Profile

ブルーノ サッコ

ファンにとってはお馴染みのイタリア人デザイナー。1958年にダイムラーベンツのスタイリングデザイナーとなり、74年にはチーフエンジニアに就任。99年に引退。現在は帰化してドイツ国籍となっている。

ポール ブラック

フランス生まれのポールブラック氏(写真左)。57年から67年までダイムラーベンツのデザインスタジオに勤務。70年からBMWのデザインディレクターとなり、E24など逆スラント世代のBMWを手掛けた。

ブルーノ サッコ氏が手掛けた代表的なドイツ車

80年代にデビューしたW126、W201、W124はブルーノサッコ氏がデザインを手掛けた。90年代の角目ベンツに装着された樹脂製のサイドパネルをサッコプレートと呼ぶのは有名な話だ。

Mercedes-Benz 2代目Sクラス(W126)

80年代のメルセデス・ベンツを象徴する
デザインイメージを作り上げた存在
 70年代後半から80年代にかけては大排気量車においても効率化が求められた。79年にデビューしたW126こと2代目Sクラスでもボディの空力改善が行なわれている。大きなグリルとメッキを多用したデザインは今の感覚で見ても上品な印象。日本のバルブ期に大ヒットし、その後のメルセデスを象徴するデザインイメージを作り上げている。
代表モデルのボディサイズ 86年式560SEL

全長:5135㎜
全幅:1820㎜
全高:1440㎜
ホイールベース:3070㎜

 

Mercedes-Benz 初代Eクラス(W124)

見た目だけではなく
実用性を兼ね備えたデザインを持つ
全体的なデザインはW201に似ているが、テールランプの形状やトランクリッドの切り方など実用性を兼ね備えているのが特長。2代目となるワゴンモデルはモール類を整理して、洗練されたスタイルに仕上げられている。
代表モデルのボディサイズ 86年式300E

全長:4740㎜
全幅:1740㎜
全高:1446㎜
ホイールベース:2880㎜

 

Mercedes-Benz 190クラス(W201)

ボディは小さくても
メルセデスらしい風格を持つデザイン
W126をコンパクトにしたようなイメージを持つW201こと190シリーズ。5ナンバーサイズのボディだが、メルセデスらしい風格を持つデザインで、今でも高い人気を誇っている。また、当時としては空力性能にも優れていた。
代表モデルのボディサイズ 86年式190E2.0

全長:4420mm 
全幅:1680mm 
全高:1385mm 
ホイールベース:2665mm

 

ポール ブラック氏が手掛けた代表的なドイツ車

ポールブラック氏は、300SLクーペやロードスターを手掛けたベテランのドイツ人デザイナー、フリードリッヒ・ガイガーの元でタテ目メルセデスのデザインに関わり、BMWに入社後は初代6シリーズや5シリーズなど逆スラントノーズ世代のBMWをチーフディレクターの立場で取りまとめた。

BMW 初代6シリーズ(E24)

88年以降の後期型はバンパーの形状が異なる
「世界一美しいクーペ」と賞賛されたE24こと初代6シリーズのエクステリアデザイン。リアから逆スラントノーズまで続くエッジラインやキラリと輝くメッキモールなど、今の感覚で見ても気品溢れるデザインに感じる。76年から89年まで生産されたが、88年以降の後期型はバンパーが大型のウレタン製に変更されている。
代表モデルのボディサイズ 86年式635CSi
全長:4755㎜
全幅:1725㎜
全高:1365㎜
ホイールベース:2630㎜
 

Mercedes-Benz 
フルサイズクラス(W108/109)

柔らかなラインとインパクトあるマスクで優雅な印象
通称「タテ目」と呼ばれるメルセデスのデザインにもポールブラック氏が関わっている。ボンネットには柔らかなラインを持つ一方で、フロントマスクは大型のグリルによってメルセデスの威厳溢れるイメージを形成している。
代表モデルのボディサイズ 71年式300SEL3.5
全長:5000㎜
全幅:1810㎜
全高:1415㎜
ホイールベース:2850㎜
 
 

BMW 初代5シリーズ(E12)

丸目4灯ヘッドライトと逆スラントノーズ
というマスクを定着させた

ノイエクラッセの後継として登場した初代5シリーズ。逆スラントノーズと長方形のキドニーグリルが特長。77年にはテールランプの形状やグリルの位置、ボンネットのアクセントラインなどが変更されている。

代表モデルのボディサイズ  76年式520

全長:4620㎜ 
全幅:1690㎜ 
全高:1425㎜ 
ホイールベース:2636㎜

 

BMW 初代3シリーズ(E21)

フロントマスクは5シリーズに似ているが
ボディは2ドアのみ
初代5シリーズに似た「丸目4灯ヘッドライト+逆スラント」のフロントマスクとなっているが、ボディは2ドアのみで柔らかなボディラインを持つ。ちなみに、本国仕様ではヘッドライトが2灯式のモデルが存在している。
代表モデルのボディサイズ 76年式320i
全長:4355㎜ 
全幅:1610㎜ 
全高:1380㎜ 
ホイールベース:2563㎜
 
 

BMW 初代7シリーズ(E23)

6シリーズを4ドアにしたような
柔らかさが感じられるデザイン
デザインのテイストは先にデビューしていた5シリーズや3シリーズに共通するもの。ただし、2車に比べるとボディが大きいので存在感がある。6シリーズを4ドアにしたような柔らかさと、落ち着いた佇まいを感じさせるデザインだ。
代表モデルのボディサイズ 86年式735i
全長:4860㎜ 
全幅:1800㎜ 
全高:1430㎜ 
ホイールベース:2795㎜