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「走行距離神話」の謎に迫る!! GERMAN CARS アーカイブ/2014年9月号より抜粋

クルマは10万㎞が寿命だなんて、根拠のない迷信。とくにドイツ車においては、日常的なメンテナンスを加えながらどんどん走っていた方が快調をキープできるはず。なぜか日本ではびこる走行距離神話の謎を解明しつつ、ドイツとの自動車文化の違いを解説する、ただし、記事はすべて2014年9月号からの抜粋なので、中古車の相場や「現行型」「先代」などの表記はすべて2014年当時のものとご承知おきいただきたい。

 

機械は毎日使っているほうが
調子がイイ!?

高速道路網が整備され、長距離移動の主役は鉄道や航空機ではなく自動車というドイツ。年間の走行距離も日本と比べれば格段に長くなるが、決して故障が多いということはない。もちろん10万kmを超えたって、何の変化も問題も起きない。
 
 どうして日本では、中古車を選ぶ時に走行距離を過剰に気にするのだろう。海外の中古車雑誌を見ると、クルマによっては「Low Mileage」といった謳い文句はあるものの、すべての広告に走行距離が記載されているようなことはない。モデル、年式、ボディカラー、装備、価格といった部分が重要な要素で、走行距離はさして重視されていないことが分かる。
 日本でこれほどまでに走行距離が重視されるのは、自動車メーカーの営業マンが自分たちに都合が良いように植え付けた「クルマの寿命は10万キロ」という風潮があるからではないだろうか。実際に10万キロ走ったら何となく乗り換えの時期かな、なんて思っている人は多くて、とくに不具合も出ていないのに「このクルマも10万キロだから、そろそろ買い換えるかな」なんていう話しも耳にする。実際のところ、多くの国産車などはだいたい10年、10万キロという点が設計上の1つの目安になっているというのも事実のようで、そこまでは重要な機能部品が壊れるケースは非常に少ない。もちろん使用環境や扱い方によっても違ってくるが、乗り手としても10万キロ前に大きな修理が必要になると文句の1つも言いたくなるが、10万キロオーバーであれば「仕方がないな」と納得するという、暗黙のボーダーラインが出来上がっているようだ。
 つまり、クルマの寿命が10万キロというのには明確な根拠があるわけではなく、それくらい走ると故障が増えて修理代がかかり始めるからというユーザー側の都合と、そろそろ新車を買って欲しいというメーカー側の事情がちょうどリンクしたポイントと言ってもいいだろう。10万キロまでしか使えない、それ以降はどんな故障が起きるか分からない、となれば走行距離が少ないクルマが欲しくなるというのは当然のことで、これが中古車の価格にも大きく影響するようになり、結果としてメーター巻き戻しなどの不正を招くことになってしまった。紐解いてみれば、我々ユーザーが「何となく」思っていることが、大きな影響力を持つようになってしまったいい例で、不正を防ぐため車検証に走行距離が記載されているなんて国は、およそ日本以外には考えられないのである。
 さて、それでは走行距離が少ないクルマは本当にコンディションが良いのだろうか? まず確かなことは、車内で待機する運転手付きのVIP専用車や、車中泊が趣味というオーナーでなければ、内装の劣化は少ないはず。シートのヘタリ、ステアリングやスイッチ類などの使用感はないだろう。しかし機械的な部分に関しては様々なケースが考えられる。例えば、月に一度くらいしか走らさないというクルマの場合。ブレーキは錆び付いてキャリパーの引きずりを起こしやすくなるし、エンジンを始動する時は完全に油膜が切れた状態になっているのでシリンダーにキズが入りやすい。ゴムでできている足回りのブッシュ類も適度に動かさないと硬化しやすくなるし、タイヤやバッテリーの寿命にもマイナスだ。一方、毎日通勤で片道3キロ走るだけ、という低走行車の場合は、良いコンディションを保っていることが多い。クルマは機械なので、定期的に動かして潤滑させている方が良い状態を保てるのだ。
 

ドイツでは年間3万km走るのが当たり前
日本の中古車は世界中から狙わている

 金属を加工して作られた自動車の機能部分は、もちろん走らせれば少しずつ摩耗して行く。しかし使わないで放置してあるものよりも、毎日動かしている方が調子が良いというのは確かで、それによって走行距離が進んで行くというのはごく自然なこと。オドメーターの数字が増えて行くのは、タンクに溜めてある水を使うようにクルマが磨り減って行く、ということではない。どうも我々日本人は、クルマの走行距離に対して間違った認識をしているようだ。
 とりわけドイツ車の場合、ボディにかかるストレスを様々なブッシュなどに逃がして、こういった消耗品の交換をして行けば、30年でも40年でも使えるという設計思想が根付いている。高速道路網が張り巡らされ、国境を越えたドライブも日常的なドイツでは、一年間に3万キロは走るのが一般的。ということは、40年乗れば120万キロに達してしまう。もちろん、その間にはエンジンやトランスミッションなどのオーバーホールが何度も必要になるはずだが、それを当然と考えるのがドイツ流。整備にお金がかかるようになったら寿命、という日本的な使い捨て発想とは、根本的に異なっている。そしてどちらが「機械」というものを良く理解しているかは、言うまでもないだろう。少なくともドイツ車においては、日本的な常識で走行距離を気にする必要はないと断言して良いのではないだろうか。
 日本人が自動車、中でも輸入車を大切にするというのは世界的に有名になりつつあるようで、左ハンドルの中古ドイツ車は、ドイツ人やアメリカ人などのバイヤーに狙われている。日本から買い付けた中古車は「ジャパン・プレミアム」と称され、高い値段が付くそうだ。走行距離ばかりを気にして選り好みしていると、本当のコンディションを見抜く目をを持った海外のバイヤーに、良いクルマをどんどん買われてしまうことになりかねない。確かに、走行距離という数字だけでコンディションを判断するのは、クルマに対する知識がなくても誰にでもできることではある。しかしそれが必ずしもコンディションの良いクルマと出会える方法ではないことも確か。ここはこの特集でクルマの状態を見抜く力を身に付けて、走行距離に捕らわれずに良い中古車をお得に手に入れて欲しいと思う。何せ日本には、わざわざ海外から買いに来たくなるほどの中古ドイツ車がまだまだ眠っているのだ。OEMや社外パーツなどの選択肢が増え、維持の環境が非常に良くなってきた現在、ドイツ車の維持コストは10年前とは比べものにならないくらい安くなっている。今こそ、憧れだったメルセデス・ベンツやBMWに乗ってみる絶好のチャンスではないだろうか。そして中古車選びで忘れて欲しくないのが、ドイツと同じような環境で高速道路中心に使われたクルマであれば、10万キロを超える多走行車でも非常にコンディションの良いものがあるはずということだ。よく人気モデルの中古車に掘り出し物はないと言われるが、これこそが、安くて高い価値を持った本当の掘り出し中古車に違いない。

( すべて2014年当時 )

 

愛車を大切にするのは悪いことではないが、機械である自動車は動かしていた方が快調を保てる。距離が進むからとしまい込むのではなく、使い倒してこそのドイツ車だと言えるだろう。
 

連続運転ならオイルの酸化も進まない!

天ぷら屋の油は頻繁に
交換しないでも平気な理由

 機械は運転していた方が摩耗しないという理由には、潤滑性能もある。オイルが劣化するのは酸化による成分の変化が大きいが、安定して高い温度に保たれていると酸化は進まない。一日中温められている天ぷら屋さんの揚げ油が長持ちする理由もこれ。家庭では油の量が少なく具材を入れるたびに温度変化が起きてしまうため、すぐに酸化が進んでダメになってしまう。エンジンオイルも一度運転温度まで温まってしまえば、後は長い時間働いていても急速な劣化は起こらない。それよりも、たまに乗るだけだったり、ごく短時間の運転を繰り返したりすると、使用距離としてはごく短いものでも、酸化によって粘度が低下して十分な保護性能を発揮できなくなってしまうのだ。だから、たまにしか乗らないクルマの場合は、走行距離ではなく時間の経過でオイル交換のタイミングを図った方がいいと言われている。これを知らずにオイル交換がされていないと、走行距離が少なくてもエンジン内部は摩耗や汚れの蓄積が意外なほど進んでいるというケースがある。反面、高速道路などで連続運転されていたエンジンは、距離が進んでいても内部は驚くほどキレイだったりする場合が多いのだ。

( GERMAN CARS 2014年9月号より抜粋 )