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よみがえる黄金世代の鼓動「王者降臨」戦後メルセデスの復興を アピールした170Sが 令和の時代によみがえる【Mercedes-Benz 170S】

戦後のメルセデスとして、日本には1952年にデリバリーされた170S。自動車博物館に展示されていてもおかしくないこのクルマが動体保存されていることが、メルセデスの再生力の高さを物語る。

戦後復興の口火を切って登場したモデル

 自動車博物館から出てきたような、もっと言えばタイムスリップしたような気になるほど貴重なメルセデス・ベンツに出会うことができた。1949年に戦後のメルセデスとして本国デビューした170S。当時の歴史を紐解けば無条件降伏を受け入れ、軍需産業は解体。ダイムラーベンツでもベルリンのマリエンフェルデ工場が閉鎖となった。さらにドイツでは情勢の悪化に伴い、国土を二分されてしまうのだが、ダイムラーベンツは前述のマリエンフェルデ工場を除き、すべて西側に属していたためその難を逃れることができた。

 そんな情勢の中で、1949年にデビュー、日本には52年から正規輸入が開始されたのが、ここで紹介する170Sである。ベースとなっている戦後初のモデルである170Vと同じシャシーとホイールベースだったが、足回りは進化を遂げる。フロントサスはダブルウィッシュボーン、リアはスイングアクセルのままだったがトレッドを拡大して安定性を向上させている。エンジンは1767㏄の4気筒ユニットで、軽合金製のシリンダーヘッドを採用。最高出力は38 ps、最大トルクは10・2㎏ーm/1800rpmというスペックだった。ボディバリエーションも追加されており、2ドアのカブリオレを2種類に加え、クーペもラインナップされている。また当時、この170Sと同時に、メルセデスの乗用車としては2代目となるディーゼルの170Dも登場している。

170Sはそれ以前のモデルである170Vがベースとなっており、ボディサイズは全長4455mm、全幅1684mm、全高1610mmと、170Vと比較すると全長で170mm、全幅で104mm拡大されている。ホイールベースは変わらず2845mmだが、トレッドは拡大されている。

シャープなボンネット内に搭載されるパワーユニットには、クロスフロー配置のバルブを持つシリンダーヘッドを採用。キャブレターはダウンドラフトタイプとなっている。オーナーはコツコツとレストアを施し、現代でもその走りが通用することを証明してくれた。メルセデスの再生力は素晴らしい!

戦後のメルセデスとして登場した170Vをベースとして登場した170S。4ドアセダンのみならす、カブリオレやクーペなど豊富なボディバリエーションをラインナップしていた。当時、日本での車両販売価格は約250万円で高級車という位置付け。現在の紙幣価値にすると1000万円オーバーなので、誰もが気軽に乗れるクルマではなかった。

「神は細部に宿る」コストをかけた作りに感動

 昭和、平成の時代の生き抜き、令和の時代に現れた170S。ボディとフェンダー、ヘッドライトがそれぞれ独立したスタイルで、冷却水はグリル上にあるボンネットマスコットを外して入れるというもの。インテリアは当時の日本車とは比べものにならない高級な作り。ダッシュボードは無垢の削り出しでまるでアンティーク家具のような雰囲気だ。各金属製のスイッチは丁寧なメッキ処理が施されている。シートは後にも受け継がれる椰子ガラを使った絶品の座り心地で、シート生地にも金糸をあしらえるなど非常に凝った作りとなっている。

 オーナーによると、購入時は不動だったようで、それからコツコツとレストアしながら40年の時を経て、車検を取得し公道に復活。ここまで仕上げるにも部品を探したり、無いものは新たに現代の部品を流用。ハーネス類はボロボロだったため、ほぼ全てを引き直したという。一番苦労したのはブレーキ。安全にも直結する部分であるため慎重に作業を進めたとのこと。オーナーによると「これまで長くメルセデスを乗り継いできましたが、クラシックモデルを探求したくなりこのクルマを購入。レストアは想像以上に大変でした。英国車のようなゴージャスさはないけれど、見えない部品にもコストを使って作られていて、それを知るほどに当時のメルセデスの凄さを感じました」と話す。

 オーナーの深い愛情が注ぎこまれた170S。部品さえあれば70年前のモデルでも公道を走れるメルセデスの再生力の高さに感動してしまうが、それ以上にオーナーの強い想いがこのクルマを令和の世によみがえらせたといっていい。

現代のクルマとは逆に開くフロントドア。ほぼ90度まで開く開口部なのも味わい深く、クラシックモデルの醍醐味ともいえる部分である。

大ぶりで細みのステアリングのセンターにスリーポインテッドスターが鎮座する往年のスタイル。これは後のモデルにも受け継がれており、メルセデスの歴史を作ったといっていい。公道を安全に走るために一部メーター類が追加されているが、それ以外はオリジナルを維持しているのもすごいところだ。

クラシカルな雰囲気を盛り上げてくれる計器類。レストア時にもメーターの再生が大変だったとのことで、ボディはオリジナルのまま、中身を別の物にして流用するなどオーナーの知識と経験が生かされている。

素材として椰子ガラを使うメルセデスの伝統はこのモデルでも同じ。スプリングが効いた座り心地は絶品で、往年のメルセデスの凄さを感じる。シート生地には金系を使用するなど他のクルマとは一線を画す作りが施されている。

小さなリアウインドーがクラシカル。灰皿は吸い殻を入れて蓋を閉じ、再度開くと吸い殻が下に落ちて見えなくなる構造になっている。

クラッチの左上にあるペダルを押し込むと潤滑をする仕組みなど、当時ならではのアナログな作りに感動してしまう。ドアもしっかりとした重厚な作り。ドスンと閉まる金庫のようなフィーリングは、後のモデルにもしっかりと受け継がれている。

これまで角目世代も含めて4台のメルセデスを乗り継いできたオーナーの杉野氏。DIYメンテナンスが得意で、170SのレストアもほぼDIYだったそう。また、今年中にこのクルマを専門とするショップを設立するとのことだ。

【取材協力】株式会社ものづくりプラス