走りを犠牲にせずに
快適性や実用性を高める工夫
ボディ剛性が高まった
現行型3シリーズ
それまでは、個人的にボディ剛性に対しては、メルセデス・ベンツのモデルにはオーバークオリティを強く意識させる仕上がりがあり、人々を驚かせつつもそこにアッパークラス感を上手く表現しているという評価をもっていた。もちろん、BMWとてボディ性能に対しての不足はないものの、メルセデス・ベンツと比較すると、あちらのほうが先を走っている感があった。しかし、今回は違う、そう感じさせるほどのポテンシャルを手に入れていた。
ふと思い出したが、3シリーズにおいては、セダンとツーリングにおいて実際にばらしてみたところホワイトボディでの重量は想像しているほどの差には開いていない、と、とある、国産メーカー開発者から訊いたことがある。もちろん、開発陣は驚いていたのだが、実際に、全長は現行型においてもセダンとツーリングで同じとしており、これらのことから分かるように、BMWが目指している走りは、前後軸重バランスまで含めて、どんなスタイリングであろうと、そのモデルが目指した走りを実現する、そんな不文律が社内で共有されているかのような印象すら受ける。たとえば、Mモデルにおいて、M3(M4)はセダン、クーペ、そして、カブリオレに止めていたものを、現行型で「ようやく」ツーリングにまで展開。マーケットからのリクエストを最優先していたならば、その実現にここまで時間を要することはなかったはずで、現行型3シリーズがここまでの仕上がりになることが見えたからこそ、リリースに至ったことも想像できる。
EVモデルに新素材の
ハイブリッドボディを採用
さらに、EVモデルには、先を見据えたボディ作りが行なわれている。i3やi8ではカーボンモノコックボディ+アルミ製シャシーという別体を組み合わせた構造を具現化していたが、iXではホワイトボディにおいて、高張力鋼、アルミニウムはもちろんのこと、カーボン・ファイバー強化プラスチック(以下CFRP)、高性能熱可塑性プラスチックを適材適所に配置した構造を採用した。もちろん、ボディ剛性や衝突安全性を高めつつ、理想とされる重量バランスを求めたもの。特にCFRPによるカーボンケージは、特に7シリーズで採用したカーボンコアを進化させたもので、同時にサイドシルにその素材感が視覚的に表現されており、近未来のモデルであることを感じさせていることも、トピックとなっている。
ボディというと、どうしてもホワイトボディばかりに注目が集まるが、このiXでは空力性能にもこだわりを見せており、たとえば、スリムに設計されたドアミラー、ボディ平面に一体化されたデザインとなったドアハンドル、理想を追求したエアロパーツなどが、空気抵抗を低減させており、結果として、Cd値0.25という突出した値を手に入れている。ちなみに、フロント、アンダー、リア、ホイールに施した空力対策によって航続可能距離を65㎞も伸ばしており、それだけでも驚きだが、そのうちの約25㎞分はなんとフロント部に設置された第3世代のアクティブ・ エア・フラップ・コントロール によるものだという。さらに、標準装備される20インチサイズのホイールデザインも空力を徹底的に追求しており、結果として、航続可能距離を最大で15㎞伸ばすことを可能としたとか。このiXは、もはやボディ性能は剛性だけでは語れないことを、知らしめてくれるモデルでもある。
iXは「異次元」そのもの。モーター駆動というアドバンテージだけではなく、剛性感の塊で構成されたボディ、大径タイヤを完全といわんばかりにいなしているシャシー、意のままかつ愉しさをとんでもない域で表現しているハンドリング、スイッチ類を含めたインテリア、もちろん、BMWらしい美を感じさせるエクステリアに至るまで、i3/i8で提案されたスタイルが、再構築されている。それは、BMWが目指す近未来のモデルであり、その根底にあるのは、やはり、走る愉しみであることが見えてくる。
iXは最先端の素材を組み合わせることによりボディ剛性や衝突安全性を高めつつ、BMWが追求する重量配分、そしてできうる限りの軽量化まで実現している。BMWは早くから積極的に異なる素材を組み合わせるハイブリッドボディを完成させてきたので、そういったノウハウが蓄積され、新たな素材が登場した際にもクルマのボディに採用できる技術を持っているといえる。