プロローグ
昨年2023年7月に生産国であるタイで発表され、今年2月に日本上陸を果たした新型トライトン。昨年秋にそのプロトタイプに試乗することができたが、その時設定されたコースをノーマルモードのままで走り切れたポテンシャルに驚きつつ、実はオンロードに求められる性能……例えば取り回しやすさや乗り心地もすこぶるいいぞ、と感じ取っていた。今回はデビュー後ということで公道とオフロードコースでの試乗会となったが、先述の予感はまさに的中、いや、その期待を上回る仕上がりとなっていた。
そのすべては、デザインから使い勝手におけるまで〝乗用車ライク〟というワードで表現できる。かつて80年代に、クロカンモデルが日常における快適性を備えて、乗用車という陸地へ上陸してきたかのようなイメージが重なる。プラットフォームは2世代を経て、今回新開発されたもので、もちろん、ラダーフレームとボディを別体とした構造を採用。フレーム部は高張力鋼板の使用比率をアップさせ、断面を大型化し、このクラスのピックアップトラックとしてはハイレベルの剛性を手に入れ、結果、快適を語れる乗り心地、さらにはノイズや振動まで抑え込むことに成功。
フレームに接続するサスペンションもストロークを拡大し、ショックアブソーバーの径をアップさせるなどして、しなやかさを手に入れており、ハンドリングと快適性もブラッシュアップさせている。
エンジンは、新開発となる2.4ℓディーゼルターボユニットを採用し、そこに2ステージターボチャージャーを加えることで、パワフルさはもちろん、低回転域から高回転域まで扱いやすいフィーリングを作り上げている。4WDシステムは、パジェロ譲りのスーパーセレクト4WD-Ⅱをダイヤルスタイルで操作できる。
ご存知の通り、低速におけるコーナリング時のギクシャクが存在しないフルタイム4WDモードの採用で、日常でも4WD性能の恩恵に授かれることがトピックだ。シーンに応じて的確なトラクションを提供してくれるドライブモードは「ノーマル」「エコ」「グラベル」「スノー」「マッド」「サンド」「ロック」の7つが設けられ、センタークラスターのスイッチで切り替えが可能。また最終手段として活躍が期待されるリアデフロック機構も備えており、これらシステムをこうして並べただけでも、その走破性が高いことが見えてくる。
デザイン&パッケージング
デザインは、鋭さに加えてワイルドテイストを感じるフロントフェイス、シンプルな造形ながらプロテクター感やT字スタイルによるテールランプが印象的なリアビュー、さらにフロントからリアにかけて伸びやかなテイストを表現したサイドビューなど、実用車たるポジションから脱したような、斬新さあふれるフォルムに仕上げられている。
パッケージングはダブルキャブ+ベッドという構成で、ボディサイズ(カッコ内はGLS)は全長5360(5320)㎜、全幅1930(1865)㎜、全高1815(1795)㎜で、大胆なデザインと大柄に見えるフォルムから想像されるよりも実際はコンパクト。ベッドは低床、積載面積を誇るだけではなく、JIS規格のパレットをそのまま収められること、バンパーコーナーに足を置けること、カーゴ部とリアゲート部の隙間を小さくしていることなど、ベッドに求められる実用性を追求していることもトピックだ。
インテリア/キャビン
キャビンは、水平基調としたインパネが印象的だが、その造形は2世代分ぐらいアップした印象で、タイ生産のモデルとしては生産性の面でクオリティアップを果たしていることが読み取れる。センタークラスター最上部に配置された9インチサイズのモニタでは、ナビ機能はもちろんのこと、スマホ連携、アラウンドビューモニター機能を活用できる。また、各スイッチ類は、グローブをしたままでも操作できるように大型化されていることもポイント。メーターは、センター部に7インチのマルチインフォメーションディスプレイを配置し、ドライビング情報、車両情報、ドライブモード、ナビのコマ地図、そのほかを表示してくれる。左右のメーター部分を含めて、見やすさがある。
走り/オンロード
その走りに、かつてのピックアップトラックの面影は見当たらない!つまり〝乗用車的〟だ。もちろんラダーフレームとボディ別体構造ゆえに、路面からの入力によりタイヤのドタバタ感を許し、その振動がボディへ伝わってくるし、ノイズも消し切れていないところがある。しかし、ピックアップトラックに当たり前とされてきたいい加減さが、いい感じの緩さに変換されており、無駄を感じない、緊張を強いない乗り味に酔いしれることができる。
例えばサスペンションのストローク量を多く確保したといっても、日常でのシャシーの動きには節度が与えられており、ドライバーは当然乗員を不安にさせるような曖昧さはない。むしろ操縦性を含めて剛性感がしっかりとつくり込まれており、さらにリアタイヤの位置が明確に分かり、リアタイヤのグリップ感もしっかりと伝わってくる。そのためオンロードのワインディング走行が実に愉しい。
エンジンは低回転域から十二分にトルクを発生し、ストレスなく発進させたかと思うとそのままに淀みなく加速を続けて、気がつくととんでもない速度域に達している。パワーもそこそこあるが、実際はピークパワーより高トルクの心地良さの方が強く印象に残る。言い換えると、パワーフィールにイヤミがないところが好印象だ。
乗り心地については、サスペンションレイアウトを見直しなどによって、しなやかに動くように設計されたこと、さらにリアではリーフスプリングを3枚構造として軽量化を計ったこともあり、ピックアップトラックの空荷走行では付きものだった突き上げ感を解消していた。かつての乗り味を知らぬ人が乗ったら、え? 以前はそうだったの? と問われてしまいそうな仕上がりだ。
そして、取り回しはそもそも最小回転半径が小さくなったこともあるが、見切りがいいことも手伝って、ピックアップトラックだからと緊張するシーンは少なかった。
走り/オフロード
新型トライトンのオフロードにおける走破ポテンシャルは高い。昨2023年の北海道試乗会でも、駆動方式はフルタイム4WDを選び、ドライブモードはノーマルのままで走りきってしまったほど。今回はその時よりもハードな条件が与えられており、パートタイム4WD(センターデフロック)+ノーマルモードであっても、モーグルであえてタイヤが浮きそうになるラインを意地悪く選ぶと、ドライバーがなんらかのテクニックを用いない限り、さすがにお手上げ状態となった。
そこでドライブモードをマッドをセレクトしたところ、アクセルペダルを緩やかに踏み込んでいるだけでトラクションは復活し、クルマをたやすく前進させてしまった。続いてローレンジ+パートタイム4WD(センターデフロック)へとスイッチし、ロックモードを選ぶとわずかにスリップしながらも難なくクリア。ちなみに、ここでリアデフロックを行なうとグリップを失うことなく進んでいる。まさにスタックしてしまい動くことができなくなってから使う装備であることを再確認した。
いずれにしても、トラクション制御が介入する際、アクセルの踏み込み過ぎによって飛び出してしまうような唐突な挙動はなく、そこには安心感があった。それはテクニックを知らずしても、誰しもが安心して走破できる、そんな頼もしさでもある。
かつてはピックアップトラックを所有するには荷台を活用して遊ぶことが前提条件とされていたが、全長5mを超える車庫を用意できるのであれば、新型トライトンを所有してから、何に使えるかを考えてもいい。むしろ所有してから、いろいろとアイディアが浮かんでくるような気がするくらいだ。
今回のトライトンの試乗会を終えて感じたのは、そこにパジェロの姿が思い浮かんだこと。パジェロ最終型のような、あのしなやかさはないが、操る愉しさがあり、頼もしさが重なったのだ。