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過酷なクロスカントリー1700kmを走破する新型トライトンの底力を味わい、話題の総監督・増岡 浩氏にインタビューを敢行

 2022年11月21日~26日にわたってタイ〜カンボジアにて開催されるアジアクロスカントリーラリー2022(以下AXCR)に、三菱自動車が技術支援を行なう『チーム三菱ラリーアート』が参戦を決定。総監督はダカールラリーで2度の総合優勝経験を持つ増岡浩選手が務め、インドネシアとタイから3名のドライバーが参戦。さらに開発部門のエンジニアがチームに帯同し、テクニカルサポートを行なう万全の体制でAXCR本番に臨むという。
 その開催を目前にして、を務める増岡総監督に話をうかがい、また〝AXCR 2022〟参戦マシンの新型トライトンT1仕様(改造クロスカントリー車両)をチェック!それに限りなく近いマシンである〝トライトン・ラリー先行試験車〟に同乗するという貴重な機会を得た。
 さて、その話をする前に、まずは三菱のモータースポーツ活動とラリーアートについておさらいしておきたい。三菱は、モータースポーツへの挑戦を50年以上に渡って続けてきた。1967年から2005年まではWorld Rally Championship(WRC)に参戦して通算34回の総合優勝。1983年から2009年まではダカール・ラリー(パリ‐ダカールラリー)にて通算12回の総合優勝(7連勝も達成)を果たしている。そして2012年から2015年までは、アイ・ミーヴやアウトランダーPHEVといった電気自動車という新たなモビリティでも、モータースポーツに参戦してきた。
 特に、ダカールラリーにおいては、パジェロを操る二人の日本人ドライバーの活躍に心躍らせた読者も多いかと思う。1997年には篠塚 建次郎氏が総合優勝を、さらに2002年、2003年には、増岡 浩氏が総合優勝を果たした。そう、AXCR 2022のチーム三菱ラリーアート総監督である増岡氏だ。
 そんな三菱のモータースポーツ活動を支えてきたのがラリーアートだ。残念ながら近年は活動を休止していたが、ご存知の通り復活し、AXCR 2022に参戦する運びとなった。ちなみに現在ラリーアートは、モータースポーツ活動のサポートだけではなく、ラリーアートアクセサリーとして、RVR・エクリプスクロス・デリカD:5・アウトランダーPHEV用のカスタムパーツをリリース。
 今はまだドレスアップパーツのみだが、これからのモータースポーツで培ったノウハウを注ぎ込んだ機能パーツのリリースも予定しているとか。もちろん、こうした技術は、市販車へのフィードバックが期待できる。

 さて増岡総監督にAXCR 2022を目前に控えてのチームについて、参戦車両の仕上がりについて、そして久しぶりの「現場復帰」について、訊いてみた。インタビューしたタイミングは、AXCR 2022に参戦するトライトンの試験車への同乗試乗直後に行なわれたため、筆者の興奮さめやらぬところから増岡氏との話はスタートした。
 試験車のあまりのハイパフォーマンスぶりに感激したが、特にボディの剛性とシャシーについて、どこに手を加えているのかを聞いたところ、基本的にはダンパーとタイヤ(そしてホイール)以外には手をつけていないという。エンジンはトルクフルな2.4ℓクリーンディーゼルターボエンジンにさらにチューニングを行なっているものの、ドライブトレインについては前後デフにLSDを組み込んでいる程度。つまり一般的なカスタムの範疇で、ラリーマシンとしてはほぼノーマルの状態だ。
 同乗試乗ではジャンプして着地するような、大きな入力に対しての受け止めがすこぶるハイレベルであり、サスペンションマウントを含めてボディ補強か何かをしているはずだと思ったが、それもしていないというのだ。ちなみに参戦車両はデュアルダンパーとなるため乗り心地とハンドリングはさらに大きく改善され、路面からの入力をもっと確実にいなせるようになるとの説明もあった。
 確かに同乗試乗したシングル状態では、路面からの入力をダイレクトにキャビンへと伝えてきていたのも事実。乗り心地としては、これが続いたら長距離を走るのは厳しいなぁと感じさせてしまうものがあった。と表現すると「そうか、固いのか」と思われるかもしれないが、そうではない。シャシーはしなやかに動いて路面をトレースしているフィーリングがしっかりとあるのだが、荒れた路面をハイスピードで走っているので致し方ない……そんなフィーリングと言えよう。岩がゴロゴロするような路面であってもすべてをトレースしており、さらに大きくジャンプしようとも、リバウンドを1度で収めてしまうという、あのしなやかさをすでに身に着けているのだ。だから、これがデュアルダンパーとなったならば、まさに懐がさらに深くなることで乗り心地とハンドリングは向上し、乗員への負担が減ることが分かる。
 そのことを増岡氏に伝えてみるると、
「今回、実はテストドライバーと一緒に、1周1㎞ほどある北海道の十勝にあるテストコースを600㎞ほど耐久試験を行ないましてね。最後には轍だけで50㎝ぐらい掘れてしまうほど走り込みました。それから駆動系をまったく変えていませんからね。いかに新型トライトンがノーマルでポテンシャルが高いかを、体験していただけたかと思います。
 もちろん、試験車の乗り味とハンドリングは、専用にチューニングしたものではなく、トライトンに設計された基本ポテンシャルがしっかり高いことを示しています。試験車は、シングルダンパーですが、参戦車はデュアルダンパーになりますから、もっともっとしなやかになりますよ」との答えが返ってきた。
 増岡氏は、この新型トライトンはハンドリングがとてもイイことも教えてくれた。それは、もちろんベース車の話。噂が広がっている通り、このトライトンは再び日本へ導入されるかもしれない…。ピックアップトラックに求められる堅牢性だけではなく、優れたハンドリングまで手に入れている。スポーティという意味合いからも、相当に刺激的な存在になることを予感できたし、さらにカスタムしていくという愉しさも想像できた。
 続いて、増岡氏に久しぶりのラリー復帰についてうかがった。
「やっぱりワクワクしていますね。ラリーアートが復活して、仲間でいろいろと話しているのですが、まずは『小さく産んで、大きく育てていきたい』という想いは共通しています。最初からあまりド派手なことはできませんが、ひとつひとつ積み上げていければいいなと。
 今回はプランニングからクルマを作り、チーム体制を構築して、そしてテストを行なうという過程すべてが愉しかったです。あとは本番を待つばかりなんですが、自分たちが作り上げたチームが、そしてクルマが疾走するシーンを思い浮かべると、やっぱり感無量といいますか、感慨深いものがありますよ」
 今回、ドライバー/コ・ドライバーはインドネシアとタイで活躍している選手を選んでいる。
「トライトンの主戦場は東南アジアということもあり、その地域から選びました。もちろん、プロモーションの効果も大きいですし。ちなみに彼らは技術だけではなく、伝えたことをすぐに自分のものに吸収していくんですよ。チーム監督として遣り甲斐はすごくあるんです」とのこと。
 最後に、増岡氏にまだステアリングを握りたいんじゃないですか?と訊いてみたが
『実はやっぱりドライバーとしても参戦したいんだよね』と、迷いなく、楽しそうに答えてくれた。
 アジアンクロスカントリーラリー2022でのトライトンはどんなハイライトを見せてくれるのか、もちろんチームラリーアートの笑顔に期待したい!
1978年に発売された「L200(日本名:フォルテ)」の伝統を受け継ぐ三菱ピックアップトラックの現行モデルがトライトン(2005年のタイミングで車名をトライトンに変更)。一時期、日本でも販売されていたが、当時はニーズに合わなかったこともあり国内での販売を一旦中止。一方で三菱のピックアップトラックは、2018年に40周年を迎え累計販売台数は470万台以上と世界中で愛されているモデルである。
 現行型トライトンは乗用車並みの快適性とピックアップトラックならではの機能性と信頼性、三菱車らしい走破性とスタイルを兼ね備える〝スポーツユーティリティトラック〟だ。
今回同乗試乗したのは、基本的にはAXCR参戦車と同スペックとし、さまざまなテストを日本国内で行なうためにつくられた、いわゆる試験車。市販車と異なるのはエンジンチューンが入っていること、ダンパーが変更されていること、前後デフにLSDが組み込まれていることなど。そして足もとには、ヨコハマ・ジオランダーM/T G003とWORK CRAG T-GRABICⅡスペシャルカラーなどをセット。試乗時のダンパーはシングルだったが、実戦ではデュアルダンパー仕様になる。
取材会場には、2002年のダカールラリーを制した「パジェロ スーパープロダクション仕様」や2015年のバハ・ポルタグレに参戦した「アウトランダーPHEV TE仕様」も展示された。

チーム三菱ラリーアート総監督
増岡 浩さん

ダカール・ラリーで、2002年、2003年と、日本人初となる総合優勝2連覇を果たした増岡氏。三菱自動車との付き合いは古く、1982年にラリー活動に参画し、その後ラリーアートへ入社。三菱自動車ワークス・チームである「チーム三菱ラリーアート」に所属して、長年にわたりラリーレイドの最高峰「ダカール・ラリー」に参戦してきた。近年は三菱自動車に所属してテストドライバーとして携わり、同時に後輩テストドライバーの育成にも力を入れている。
今回の試乗会では、アウトランダーPHEV、デリカD:5のオフロード試乗も行われた。乗用車に用いられるプラットフォームをベースにしたモデルたちだが、かつてパジェロで培ったオフロード走破性や海外で販売されているトライトン、それをベースにしたパジェロスポーツといったフレーム付きモデルのタフさもしっかりと取り入れている。オフロード走行はライン次第…といったところはあるものの、モーグルを超え、バケツを抜け、そして、勾配のキツイ坂を安心して下り、そして、果敢に上っていくというポテンシャルをみせた。タイヤが浮こうとも、アクセルをじんわりと踏んでいるとトラクションコントロールによってクルマは前進していく…そんな頼もしさがあった。