1993y Mercedes-Benz 500E(W124)
偶然が生んだ名車であるW124シリーズの頂点
メルセデスファンなら誰も疑う余地のない名車として名が挙げられるW124。その頂点に君臨するのが92年から日本で販売された500Eである。エンジンは500SL用の最新DOHC。生産にはポルシェの工場が協力するというストーリーは僕らエンドユーザーのみならず、開発に関わった全ての人にとって心踊るものだったはず。そうして誕生した500Eは、ポルシェに勝るとも劣らない硬質感、並のW124とは別次元のコーナリング能力を備え、スポーツカーのドライバーが手に汗握りながら駆け抜けるようなスピードで、片手にタバコを持ちながら高速コーナーを美しくトレースできるサルーン。単にもっと速く走れるセダンであれば、その後30年の間にいくつも誕生しているが、ここまで心静かに優美に走り抜けられるクルマはないだろう。
基本設計の高さは他のW124同様、機械としての温もりを感じさせるもので、W124をよく知る読者諸兄なら分かる“あの感覚”を存分に味わえる。ひとたびアクセルを踏み込めば500Eならではの猛烈な加速力とともに剛性感の高い走りを披露してくれるのだ。もちろん実用性や機能性も高く、単なる高性能モデルではない当時のメルセデスの思想もしっかりと盛り込まれている。
ポルシェとの夢のコラボレートによって誕生した500E。このクルマを手に入れることは、趣味車としての最高峰を手にすることだと言っても過言ではない。
大きく張り出したフロントのオーバーフェンダーが、通常のW124とは異なる特別な雰囲気を醸し出している。高性能の証ともいえる部分である。
500SL用のM119の制御系を見直し、より力強い特性を得た500E専用のV8ユニット。最高出力は330psと現代の感覚で見ればそれほど驚きのスペックではないが、味わい深い絶品のフィールが最大の魅力。
余計なものは一切なくシンプルにまとめられたインテリア。スイッチ一つにも剛性感を感じさせるところにW124のこだわりが感じられる。
張り替えたばかりのルーフライナー。経年劣化により垂れてしまうことが多いが、その対処法が確立されているのもW124の魅力だ。
W124シリーズが長く乗れる裏付けとなるのが、取材車のように走行38万kmを超えてもその魅力を失うことなく、絶品の走りを味わえるということ。部品の供給など環境が整っていることも長く乗れる理由のひとつ。メーカーから贈られる所有年数や走行距離によるバッジは非常に嬉しいもの。「いつまでもお客様」というメルセデスの理念に共感するユーザーも多いはず。
【撮影協力】●オーナー:TMパンチ ●撮影地:トヨタ博物館