SLのホイールベースを延長して
5人乗れるクーペに
初代Sクラス(W116)にはクーペモデルが存在しなかったため、3代目SLクラス(R107)のホイールベースを36センチ延長して5人乗りのクーペに仕上げたのがSLCである。450SLCに搭載されるエンジンは4.5ℓのV8SOHCで、最高出力は225ps。77年には排気量を5ℓに拡大した450SLC 5.0が追加されている。マニアを中心に根強い人気を誇る隠れた名車である。
車両代と維持費の
バランスが優れている
クラシックカーのイベントに行くと、希少なヴィンテージカーたちに目を奪われてしまうが、実際に購入して維持していくのは難しい。ファーストカーとして使うのは現実的ではないから保管場所が必要になるし、維持費だってそれなりにかかる。完全に趣味として割り切れるだけの環境が必要になるのだ。
だが、ヴィンテージ系よりも“ちょっとだけ新しい”ネオクラ系ドイツ車に目を向けてみると、その印象は大きく変わる。維持しやすいというだけでなく、普段の足としても使える性能を持っているのだ。デザインにおいてもクラシカルで、何より分かる人に分かるという趣味の醍醐味を感じられるのが、ネオクラシックなドイツ車なのである。
価格の面から見てみると、ヴィンテージ系のドイツ車は安くても300万円以上、プレミア価格で500、600万円といったクルマも多い。一方、ネオクラシックは100~200万円と手ごろな価格で取引されており、車種によっては100万円以下で探すことも可能。
普段のメンテナンスにおいては、機関部のパーツは問題なく揃うし、エンジン制御もシンプルな世代。パーツ代も驚くほど高いというわけではなく、角目世代のEクラスと変わらない。定期的な点検と整備は欠かせないが、ヴィンテージ系クラシックに比べれば気を遣う部分は少ないのである。
つまり、現実的にドイツのクラシックカーを購入すると考えた場合に、車両代と保管も含めた維持のしやすさというバランスに優れているのがネオクラシックだと言えるのである。
今回、サンプルカーとして紹介するのがメルセデス・ベンツSLCクラス。3代目SLクラス(R107)のホイールベースを延長してクーペに仕上げたモデルである。SLはオープントップで2人乗りという趣味のクルマだが、SLCは5人乗りなので実用性が高い。さらにオープントップのSLは幌の扱いや保管に気を遣う必要があるが、クーペボディのSLCなら普通のドイツ車感覚で維持できるのである。また、SLは中古車の数が激減して値上がり傾向。それに比べるとSLCはまだ選べる状況にあり価格も現実的だ。もちろんSLも魅力的な存在であることは確かだが、希少性が高いことと、普段使いができるというテーマで選んだのが、今回のSLCクラスというわけだ。
SLCは71~81年の10年間で約6万台が生産され、81年の2代目Sクラスクーペ(C126)のデビューにより、フルサイズクーペの座を譲ることになる。
構造的にはSLのホイールベースを延長してクーペにするという強引な印象もあるが、優雅なエクステリアデザインがマニアなファンに支持され、中古車となった現在でも根強い人気を誇っている。
エンジンは全てV8SOHCで、グレードによって排気量やチューニングが異なる。グレードや主な小変更については左表を確認していただきたいが、ポイントになるのは80年のマイナーチェンジで、これ以降が後期型となる。エンジンがアルミブロック製となり、エンジン制御もKジェトロニックとなっている。
メルセデスらしい質感の高さを残す
極上コンディション
取材車は77年式の450SLC。ボディカラーはシグナルレッドでクラシカルなデザインとのマッチングもいい。5人が乗れるシートに座ってみると頭上スペースがしっかりと確保されており、SLのような窮屈な印象はない。トランクも十分な容量を確保しており、セダンレベルの実用性を備えていると言えるだろう。
コンディションの良いクルマは、やはりそれなりの価格で取引されており、200~300万円前後というのが相場。もちろんもっと安いクルマも探せるが、今後の維持費も含めてトータルで考えると最初のコンディションというのは非常に重要だ。
屋内で大切に保管されてきた取材車は塗装の状態も良く、腐食しやすいメッキモールもピカピカ。リアのクォーターガラスの内側にあるフィンはデザインのポイントになっているのだが、経年劣化により変形したり変色しているケースが多い。だが、今回の取材車はそんなことはなく、キレイな状態を保っている。SLCの程度を見分けるポイントでもあるので覚えておこう。
クラシカルなデザインを引き立てる純正のホイールキャップには目立つようなキズはなく、ボディ同色にペイントされた部分に剥がれなどもなかった。
インテリアもキレイで、メルセデスらしい質感の高さが際立っている。走行4.1万㎞というスペックを裏付けるようなコンディションだ。上品なベロアシートとの相性もいい。ATは機械式の3速タイプ。異常な変速ショックはなく、スムーズにシフトチェンジしていく。スプリングが利いたベロアシートに座り、優雅にゆったりと高速クルージングを楽しむのが、SLCの良さをもっとも感じられるシーンかもしれない。
さらにこのクルマは定期的に整備されておりエンジンは絶好調。アイドリングも安定していた。流通量は少なくてもこういったクルマがまだあるということが、根強い人気に繋がっているのだろう。
エンジンの構造はシンプルで、パーツの入手で困ることはないので、今後の維持においても安心できる。ただし、この世代のメルセデスは購入時にある程度のメンテナンスをしておくことがお勧め。年式的に見て、現状で販売されるケースは少ないと思うが、個人売買などで購入する場合は最初にどれだけ手を入れておくかがポイントになる。とくに整備履歴が分からないクルマの場合には、信頼できる修理工場でクルマ全体を点検してもらい、現状を把握しておくことが大切だ。
燃料系や点火系といった補機類は重点的にチェックする必要があるし、本来の乗り味を取り戻すためにも足回りのリフレッシュに力を入れたいところ。フロント回りは手が入っていることが多いので、今後の課題となるのはリア回りだろう。サスペンション形式は比較的頑丈なセミトレーリングアームだが、これまで一度も整備していなければ確実に劣化している。こうした部分をメンテすることで、SLCの走りは見違えるようになる。所有する満足感も倍増するはずだ。
中古車としての流通量は少なくなっているが、450SLCは希少な存在。さらに排気量を拡大した450SLC 5.0となると、国内だけで探すのは難しいほどの超希少車だ。
未だ根強いファンが多いSLCだが、年々中古車の数が減ってきている。ベースであるSLが激減してしまった今、コンディションが良いSLCを見つけたら、早めに決断するのがベストだといえる。希少車は早い者勝ちである。
Specifications ( 77年式450SLC )
全幅(mm): 1790
全高(mm): 1330
ホイールベース(mm): 2815
トレッド(前)(mm): 1452
トレッド(後)(mm): 1440
車両重量(kg): 1645
エンジン方式 : V8SOHC
総排気量(cc): 4520
ボア×ストローク(mm): 92.0×85.0
最高出力(ps/rpm): 225/5000
最大トルク(kg-m/rpm): 38.5/3000
変速機 : 機械式3速AT
タイヤサイズ : 205/70VR14
乗車定員(名): 5