BMW 840Ci M-individual
M1のDNAを受け継ぎ
見た目もルーツもスーパーカー
■SPEC BMW840Ci M-individual
■全長×全幅×全高:4780×1865×1340mm ■ホイールベース:2685mm ■車両重量:1880kg ■総排気量:4398cc ■最高出力:286ps/5700rpm ■最大トルク:42.8kg-m/3900rpm
PORSCHE 928GTS
斬新で古さを感じさせないが
デビューはブームの真っ只中
■SPEC Porsche 928GTS
ネオクラシックとしての希少価値が上昇中!
スーパーカーという言葉の定義は諸説紛々。やれイタリア製じゃなければダメだとか、それミッドシップは絶対だとか、12気筒こそがスーパーカーの証だとか、うるさがたに言わせるといろいろな条件が出てきて、結局はカウンタックとフェラーリの512BBだけがスーパーカー……みたいな話になってくる。しかし、スーパーカーなんて言葉はメーカー自身が使ったことは一度もなく、結構「言ったもん勝ち」なところも。実は、意外とアバウトな括りだったりするのだ。
事実、スーパーカーブームの頃に雨後の筍のごとく発売されたスーパーカー写真集やら大百科やらでは、前述の条件とは似ても似つかないようなクルマまで紹介されている。例えば、フランスのシトロエンSMや、英国のロータス・ヨーロッパがそうだ。いくらマセラティのエンジンを積んでいてもSMは前輪駆動だし、たとえミッドシップでもヨーロッパは4気筒。お国もイタリアじゃないし、マニアな人じゃなくても、それはさすがにちょっと……とツッコミの一つも入れたくなってしまうところだろう。もちろん、SMが独創的で魅力溢れるクルマであることや、ヨーロッパが優れたスポーツカーであることとは別の話だが。
前置きが長くなってしまったが、我らがジャーマン・ビッグクーペにも、スーパーカーと呼ぶに相応しいクルマがある。それが、ここで紹介しているBMWの8シリーズとポルシェ928だ。もちろん、ともにドイツ製、どちらもミッドシップではない。だから、うるさがたに言わせたらスーパーカーには適合しないのだろうが、例えば前者は、スーパーカーブームの末期に登場したスーパーカー、BMWのM1のDNAを受け継ぐモデル。「スーパーカーならでは」と言われていたリトラクタブル式ライトを採用し、見た目にもスーパーカー的であったし、デビュー時に搭載されたエンジンは5リッターの「12気筒」だ。フロントエンジンではあるけれど、スーパーカーにカテゴライズするに相応しいクルマなのは間違いないところだろう。
一方のポルシェ928はと言うと、こちらは先鋭的なスタイリングから古さを感じさせないが、実はM1より先となる77年の登場。時はまさにスーパーカーブームで、実際スーパーカー本に「最新のスーパーカー」として紹介された経緯を持つクルマなのだ。もちろんヘッドライトは電動タイプ。純粋なリトラクタブルとは違うものの、ポップアップする姿は斬新で、「さすが最新の……」と言われたものだった。
そんなドイツ流スーパーカーがスーパーな所以は、何も見た目やルーツだけではない。その新車価格もまたスーパーなもので、8シリーズは1380万円(92年式850i)、928は1430万円(94年式GTS)と超ド級。いかにもスーパーカーらしい値段で、おいそれと手が出せるものではなかった。それは中古車においても同じで、根強い人気と憧れから常に高値安定。安い物件があったとしてもかなり古かったり、正直なところ程度に不安の残るものが多かった。
懐かしい記憶がよみがえる
スーパーな2台を眺める
ここで紹介するBMW840Ci︲Mインディビデュアル。89年フランクフルトでデビューした8シリーズに、4リッターのV8モデルがラインナップされたのは94年のこと。その改良版として96年に登場したのが、4.4リッターエンジンを搭載するMインディビデュアルだ。7シリーズ譲りのV12エンジンは、完調ならそれはそれは素晴らしいフィーリングでドライバーを恍惚とさせてくれるのだが、気難しい一面があることは周知の事実。その気難しさこそがスーパーカーらしいと言わなくもないが、より手軽に楽しめるV8エンジン搭載車が販売の中心となったのは、あらゆる意味で当然の結果だろう。同様に、中古車でもV8が人気なのも、もっともな話である。
対する928の末期モデルGTSは、それまでのS4とGTを統合する形で92年にリリースされたモデル。当初4.5リッターだったエンジンも5.4リッターまでスープアップされ、最高出力は240馬力から350馬力へと高められている。信頼性という部分では、GTSだからとくにタフなどということもないが、経年劣化というものがある以上、1年でも新しい方が安心感は強い。80年式の928Sと94年式の928GTSでは、どちらの程度がいいかは考えるまでもないだろう。もちろんメンテナンス次第で逆転はあるが、平均的に見れば、より新しい方に軍配が上がる。
8シリーズの生産が終了されたのは99年で、既に24年が過ぎ去っている。928に至っては97年だから、最終モデルでも26年落ち。実際のところ、両車とも「信頼性」という機軸で選ぶべきクルマではなくなり、ネオクラシックと言ってもいい時期に入っている。
中古車の数は激減しているから誰でも買えるというわけではなくなってしまったけれど、スーパーカー世代が感じてきた、クルマとしての夢が詰まっていることは間違いない。夢は趣味への原動力になる。本誌読者であれば、あの頃買えなかった憧れのクルマを手に入れた時の感動を今でも忘れられないはず。そして、スーパーカーブームの頃に憧れ、夢見た世界が、また再び自分の目の前にやってくることだって、そう遠くはないのかもしれない。この2台を見ていると何だか気持ちが昂ってしまうのは、僕らクルマ好きを魅了するだけの何かが備わっているからだ。
快適指向の8シリーズに対し
928は男っぽい骨太さが魅力
7シリーズがベースだが
意外なほど雰囲気は違う
80年代終盤は世界的に好景気で、その波に乗って開発された8シリーズは基本的に豪華絢爛なクルマだ。それまでの初代6シリーズも、復活した6シリーズも、それぞれの時代の5シリーズをベースとしているのに対し、初代8シリーズはBMWのフラッグシップ、7シリーズ(E32)がベース。そのことだけを見ても、ラグジュアリーなクルマであることが理解できるはずだ。
とは言え、単純に7シリーズの2ドア版というわけでもなく、7シリーズに先んじてリアサスにインテグラルアクスルと呼ばれるマルチリンクを採用したりするなど、専用設計な部分も少なくない。搭載されるエンジンはどれも7シリーズ譲りだし、出力やトルクもそのまんまだが、専用の4本出しマフラーのせいもあってか、走らせてみるとこれが意外なほど雰囲気が違うのだ。
ここで紹介している840Ci Mインディビデュアルは、さらに特別な雰囲気を持つモデルだ。エクステリアもインテリアもM社による専用のカラーが与えられ、バンパーやミラーの形状も一新。それまでの840Ciが4リッターのV8エンジンだったのに対し、こちらはM62と呼ばれる新開発の4.4リッターが搭載されている。トランスミッションもステップトロニック付き5速ATとなり、洗練とスポーツ性を兼ね備えるようになった。
走らせてみても、やはり同じ印象を受ける。エンジンは850iほどパワフル&ワイルドではないが、スマートで扱いやすい特性にして必要十分以上。4リッター仕様のM60ユニットとは286馬力の最高出力こそ変わらないものの、明らかに低中回転域のトルクが太くなっている。
足回りのセッティングは無用にハードでなく、スポーツクーペやスーパーカーという言葉から想像するより明らかに快適指向だ。撮影時は928GTSと交互に試乗したが、両車の性格の違いがよく分かる結果となった。ただ、V12を積む850ⅰよりもっと軽快感があると想像していたのだが、意外にそれは感じられなかった。改めて確認してみたところ、何と850iより車重が増えている! いくら重量バランスが良くなってるとはいえ、これでは軽快になるわけがない。
脅威の剛性感を誇る
ハイウェイクルーザー
さて、一方の928はと言うと、こちらはもともと911の後継として開発されたモデル。ボトムレンジを924に任せた分、928はラグジュアリーに振られ、高級ツーリングカーというキャラクターが与えられている。
しかし、そこはスポーツカーメーカーの雄、ポルシェ。運動性能を高めるためのさまざまなアイデア、技術が惜しみなく投入され、スポーツカーとの線引きが難しくなるほどの実力が備えられている。
当初積まれたV8エンジンはアルミとシリコンの合金を多用し、シリンダーライナーを持たない凝ったつくりのもので、4リッターの排気量から240馬力を絞り出す。そのハイパワーをリアタイヤに伝えるトランスミッションは、一般的にはフロントにマウントされるものだが、928では重量配分を考えてリアに搭載。加えてバイザッハアクスルと呼ばれる簡易4WS機構も備え、大柄なボディをものともしない高いコーナリング性能を見せる。まさに、リアルスポーツ顔負けの実力車なのである。
そんな928の最終進化型がGTSで、928S、S2(日本独自の仕様)、S4、GTと進化を続けた928の集大成だ。エンジンはDOHC5.4リッターの強力なものに変更され、そのパワーを無駄なく路面に伝えられるようトレッドが広げられている。合わせてフェンダーもワイドになり、ブレーキもディスクが大径化されるなど強化されている。
しかし、928GTSに乗ってみて一番驚かされたのは、そんなことではない。何よりびっくりしたのは、クルマに乗り込んだ瞬間に分かる剛性の高さ、まるで金庫の中にでも入り込んだかのようなガッチリとした感触だ。これがニューモデルの新車の試乗だっていうのなら、まだ分からないでもない。しかし、撮影車両は92年式の中古車であり、走行距離も9万㎞を超える大ベテランだというのだから、驚きも一入である。ハッチバック形式のクーペは剛性に不利なはずなのに……と、定石を(良い意味でだが)裏切られた不満を思わず口にしてしまうほどだ。
これだけ良いボディがあるのだから、他の部分に対する印象も良くなるというもの。ボディがしっかりしてるからこそサスペンションも設計通りに働くし、ビッグパワーも思う存分発揮させることができる。
最近のV8エンジンと比べると男っぽい骨太さを感じさせるユニットは、色っぽさには少々欠けるものの、カタログスペックの最高速度275㎞/hまできっちりと運んでくれそうだ。
ただ、本気で攻めればそれなりに応えてくれるクルマではあるが、エンジン特性といい、重めのステアリングといい、安定感のあるハンドリングといい、やはりハイウェイクルーザーという性格が強い。それも柔らかで快適なという類ではなくて、男の仕事場として集中できる空間といったイメージ。東京〜大阪間をハイウェイで一気に駆け抜けたりするには、またとない相棒になってくれるだろう。
改良を続けながら進化を遂げた
928の最終形がGTS
ボップアップするヘッドライトが特徴的な2台。スーパーカーの象徴でもあった。