【中古車人生 一期一会 450SLC 5.0】1979y Merceds-Benz 450SLC 5.0 / GERMAN CARS アーカイブ/2015年10月号より抜粋
一台一台との出会いが唯一無二である中古車。その緊張感ある一期一会が、大きな楽しみでもある。そんな出会いを求めて、編集スタッフが気になる一台に会いに行くシリーズ企画。今回はラリーでも活躍した希少な450SLC5.0に会いに行った。ちなみに記事はすべて2015年10月号からの抜粋なので、中古車の相場や「現行型」「先代」などの表記はすべて2015年当時のものとご承知おきいただきたい。
このクルマの誕生秘話
生産年:1977-1980
R107型SLをベースに登場したクーペボディのSLCは、SLの優雅なデザインに4シーター仕様という豪華なパーソナルカーという位置付けだった。しかしライバルたちの高性能モデルが台頭していく中で、メルセデスが出した回答が450SLC5.0だったのだ。そしてラリーへの参戦がこのモデルの高性能ぶりを証明する結果となったのである。
メルセデス・ベンツの
イメージを変えた希少車
1952年にル・マン24時間レースで総合優勝したメルセデス・ベンツ300SL。それ以降、メルセデスにおけるSL(シュポルト・ライトヒ)は、現在まで続くスポーツメルセデスの象徴的な存在だ。
一方、2シーターオープンという特殊なボディではなく、SLをベースにクローズドの4シータークーペとしたのがSLC(現行モデルはSクラスクーペとして引き継がれている)。3代目のSLことR107が登場した1971年の10月に、ホイールベースを254㎜延長したSLCがデビューを飾る。SL同様、このSLCも高級かつ豪華なプレミアムモデルというポジションであったが、ラリーシーンでの活躍により、メルセデスのイメージを大きく変えることになったモデルでもある。
R107型SLやW123型ミディアムクラスで、すでにラリーへの実践投入をしていたメルセデスであったが、高い走行性能と実用性を持つSLCへとベース車をスイッチしたのだ。と同時に、450SLCをベースにストロークを延長し、5025㏄という排気量を持つ、450SLC5.0が77年にラインナップに加わる。エンジン以外でも、ボンネットおよびトランクリッドのアルミ化、前後スポイラーの装着という差別化もされ、それはまさしくラリーシーンでの活躍を見据えたものであった。事実、79年のサファリラリーでは、ハンヌ・ミッコラが2位、ビヨン・ワルデガルドが6位という好成績を収め、同年のWRCの最終戦となったコートジボワールでは1位~4位を独占するという快挙を成し遂げている。ほかにも、AMGでETC(ヨーロッパ・ツーリングカー・選手権)などでも活躍していた450SLC5.0だが、80年に大掛かりなマイナーチェンジを受けカタログモデルから消え、それは500SLCに引き継がれる。この2台の最大の違いは、450SLC 5.0鋳鉄ブロックのV8 5025㏄+3速ATだったのに対し、500SLCは新世代のアルミ製V8・4973㏄+4速ATであったこと。共に最高出力は240馬力というハイスペックを誇っており、最高速は225㎞/hを記録していた。しかし、加速に関しては3速ATの450SLC 5.0が遅く、0~100㎞/hは8.5秒で、500SLCは7.8秒(81年モデル以降は8.1秒)であった。
ラリーシーンでの活躍を目指した450SLC 5.0であったが、マイナーチェンジのタイミングとWRCのレギュレーション変更(最大排気量を5ℓ未満に変更)ということもあり、1636台しか生産されずに500 SLCへ引き継がれた。もっとも、その500SLCも1133台という少なく、C107型SLCの総生産台数が6万2888台だから、ともに希少なモデルであることは間違いない。この手のモデルはもはや完全に趣味の世界のクルマだ。したがって、希少なベース車両に時間と費用をたっぷり費やし、フルレストアを楽しめる人こそが、オーナーにふさわしいはずである。
C107型の前期型のみに存在し、1977年から1980年まで生産されたグレードが450SLC5.0。鋳鉄ブロックのV8は5025㏄という排気量が与えられていた。正規モデルとして日本に導入されることはなかったグレードである。
トランクおよびボンネットフードはアルミ製となり、軽量化も実施されている。450SLCと比べると115kgの軽量化に成功している。
SLよりも広いラゲッジ容量を持つことも、サファリラリーのようなモータースポーツでは重宝された部分である。
大きなステアリングに丸形の吹き出し口など、インパネデザインはR107型のSLと共通。ウッドパネルは比較的良い状態に保たれているが、ステレオのヘッドユニットは外されている。
シートは前後ともオリジナルのままのレザー。ゆえに使用感も目立ち、擦れなども存在するが、実用上は全く問題ない。これらの部分もゆっくり手直ししていくのが、この手のクルマの楽しみ方のひとつだ。
重い鋳鉄ブロックのV8SOHCは、4520㏄からストロークを延長し、5025㏄へと拡大したもの。これに3速の機械式ATが組み合わされている。
左側に2本のワイパーがまとまるように停止し、独特の動きをするこの時代のメルセデスのワイパー。部品としてはR107と共通となっている。
気になる今後の維持のポイントは?
昔ながらの整備ができるメカニックを頼れ
いくらメルデセデスといえども、やはり古いモデルとなれば少なからず部品の入手には困難が生じることがある。この450SLC 5.0の場合は、クランクシャフトの新品を探し出すことは時間が掛かるかもしれない。しかしそれ以外は、内外装も含めて他のグレードと共通といえるパーツがほとんどであるため、それほど維持は難しくならないはずだ。したがって、部品の入手に強く、古めのメルセデスの整備に精通したショップと付き合うことが、維持のみならずレストアという観点からも重要になる。またメンテナンス作業は交換だけではなく、修理でパーツをよみがえらせるという、ベテランメカニックだからこそ知っているノウハウや技術を持つショップを頼りたい。
電子制御パーツはないに等しいため、交換ではなく修理でパーツがよみがえることも。ただし、それには調整が伴うことが常で、経験と勘も必要になる。それが可能なメカニックの存在が重要になる。
【主要諸元】450 SLC 5.0
全長(mm): 4750
全幅(mm): 1790
全高(mm): 330
ホイールベース(mm): 2815
トレッド 前/後(mm): 1452/1440
車両重量(kg): 1515
エンジン方式 : V8 SOHC
総排気量 : 5025
ボア×ストローク(mm): 97.0×85.0
最高出力(ps/rpm) : 240/5000
最大トルク(kg-m/rpm): 41.0/3200
0-100加速(秒) : 8.5
タイヤサイズ : 205/70VR14
新車時価格(万円) –
※全て GERMAN CARS 2015年10月号より抜粋。
相場や「現行型」「先代」などの表記は
全て2015年当時のもの