クルマのカスタムのファーストステップ、とよく言われるのがタイヤ&ホイールのコンバートだ。とくに走るフィールドの広い4WD&SUVはタイヤ選びが需要で、マッド向け、ダート向け、オンロード向けなど、目的に合わせた様々な志向のタイヤがアフターマーケットからリリースされている。
ところで一方、ホイールについては皆さん、どんな基準で選んでいるだろう?価格?デザイン?さらに製法や軽さなど、選ぶポイントは多々あるが、いずれにせよ、こだわるのはデザインやカラーで、性能的にはあまり意識したことはないよ…、なんて人がほとんどなのだと思う。
しかし、今回、ホイールの大手メーカーRAYS(レイズ)より、編集部にひとつの提案が届けられた。
「実はホイールは、クルマの走りを左右する大切な要素のひとつです。4WD&SUVの世界はファッションでホイールを選ぶ傾向が強いようですが、ぜひ我々の試乗会に参加して、“RAYSホイール(鍛造)”の走りの世界を検証してみてください」と。
もちろん、本誌としてもこの提案に乗らないテはない!いったいホイールで走りが変わるものなのか?変わったとしても、それは一般のユーザーが体感できるものなのか?これまで考えたこともない検証に、興味は大きくなるばかりだ。
検証の内容は、同じクルマに純正ホイールとRAYSの誇る4WD&SUV用鍛造ホイール「ボルクレーシングTE37XT」を装着して、乗り比べてみる、というもの。項目は加速、制動、そしてハンドリング。もちろんタイヤや空気圧は同一として、数値というより、あくまでドライバーの感覚で違いを感じてみる。
ちなみにTE37シリーズといえば、RAYSの技術を結集させた最高傑作とも言われるホイール。サーキットをはじめ、様々なコンペティションシーンで活躍する、圧倒的な軽さと強さで高い評価を得ている。
まあ、ホイールが軽いということは、よく言われるバネ下重量の軽量化につながりクルマの運動性能が向上する、というのはなんとなく理解しているが、さて、それは本当なのか?早速、試乗により違いを体感してみることにする。


RAYSの誇る鍛造ホイール「TE37XT」を検証するのに使用した車両は2台。1台はランドクルーザー プラド。純正ホイールは17インチアルミ、対するのはTE37XTの8.0×17(+20)。タイヤは純正サイズは265/65R17だが、今回は両ホイールに265/70R17のトーヨー・オープンカントリーA/T plusを組み合わせた。もう1台はジムニーJB64。こちらも純正ホイールはアルミ、RAYSホイールはこれに対しTE37XT forJを選択。5.5×16(+20)という、ジムニー専用設計だ。タイヤはこちらも純正の175/80R16に対し、ひとまわり大径のトーヨー・オープンカントリーM/T-R(195R16)を組み合わせている。
■重量級・軽量級の車両を用意して実験開始
◆LANDCRUISER


検証01 タイヤ性能を引き出す高い剛性に注目!

ただ制動のテストでは、軽さの違いより、ホイール自体の剛性の差が出たと言える。高剛性のTE37は高負荷でのタイヤの変形をしっかり抑え込み、その能力を最大限に発揮させる。一方純正ホイールは高負荷時に若干の歪みが発生してしまうから?タイヤの能力を失わせてしまうことになるのだ。
検証02 タイム差は僅かだが軽快感は鍛造が上

またその差は、距離を進むほど大きくなり、純正で80㎞/hに達したポイントで、TE37では85〜86㎞/hほどまで速度が伸びていた。今回は試せなかったが、追い越し加速などを測ってみれば、その差はもっと明らかになるはずだ。
検証03 リニアな操作感でパイロンをクリア

その後乗った純正では、ハンドリングがベタっとした印象。ステアリングを切ってからクルマが挙動を起こすまで、TE37の時より少し遅れた感じがするし、実際、パイロンスラロームでもロールが大きく、進むにつれ挙動の“おつり”のようなものを抑えきれない。再び、ホイールの変更でここまで違うのか……と思ったのだ。
◆JIMNY(JB64)


検証01 踏む力を増幅させ止める力がUP

検証02 走り出しから軽快感を強く実感

検証03 狙ったポイントへ的確に誘導できる



TE37を履いた時のステアリングの手応えの強さは、他のテストでも感じることができたが、ここではそれを裏付ける結果に。ステアした時のリニア感がTE37のほうが圧倒的に優れているし、次のパイロンに向かうときの挙動も、TE37のほうが圧倒的に抑えられている。純正はTE37よりワンテンポ遅れて姿勢変化が始まり、また姿勢の制御も弱く、ロールが大きく出てしまう。ホイールの交換だけで、これほど走りが違ってくるとは……。
〝鍛造〟であることを実感するための3つのキーワード
キーワード01 軽快感がアップする

キーワード02 操作に出る剛性の差

キーワード03 車の進化を受け止める


写真左:井入宏之(レーシングドライバー)
写真右:高坂義信(ジャーナリスト)
井入 一般の方から見たら、そんなので変わるの?という感じじゃないでしょうか。
高坂 僕らも始めはそんなふうに思いました…。
井入 ですよね?そんな顔してましたもん。しかし、僕らはさんざん、そんなテストを重ねてきましたから、実は結果はだいたい分かっていたんですよ。
高坂 ああ、そうなんですか!
井入 でも、その結果がどんなカタチで出るか。一般の仕様においてはどこかメリットになるのか、それを出せたらいいなと、今回検証を行なってみました。
高坂 とにかく僕らとしては、ホイールだけで劇的に走りが変わってしまうのでびっくりしました。
井入 今日はタイヤも共通で、クルマも同じで。それでも変わっちゃうんですよ。
高坂 とくにランドクルーザー プラドですが、TE37から純正に履き替えて乗ったのですが、あれ?空気圧下がってるんじゃない?と思うくらいハンドリングのリニア感がなくなってしまって…。
井入 ホイール変えるだけで、足回りまで変わったように思えたでしょう?ノーマルホイールももちろん、デザインもいいし、昔より性能も上がっていると思いますが、そこにさらにお金を出してホイールを換えて、どれだけ意味があるか、ということですよね。
高坂 実は、かなり意味のあることだったんですね。ホイールを換えるということは、ファッションでしかないのでは?と思っていましたが、いやいや、どうしてどうして。
井入 ハンドルを切ってクルマを動かす操作にしても、減速・加速にしても、ホイールを換えることですべてが変わってしまうので。僕らの世界なら、それでコンマ何秒速く走れるかということになるんですが、これが一般のユーザーさんにとっても、たとえばいざという時、急な操作をした時に、マージンがどれだけあるかという話しになってくるんじゃないでしょうか。
高坂 今回、RAYSの鍛造ホイール、ボルクレーシングTE37XTというホイールを検証したわけですが、テスト前は軽いだけかなと…。それで井入さんや山口さんにお話しをうかがってみると、軽いだけじゃなく剛性が高い、ということにも注目してくださいとのことでした。
井入 実際に乗ってみて、軽い重いのほうが分かりやすいのかもしれませんが、ブレーキングだとかハンドルを切るだとか、何か入力した時に、剛性の差というのはすごく大きく出てくるんですね。
高坂 今回、制動テストとパイロンスラロームで、ホイールの剛性という意味がはっきりわかりました。とくにプラドのほうは印象的でしたね。
井入 ホイールは軽いだけでもだめだし、硬いだけでもだめ。そのバランスが、ちゃんと設計されているホイールにおいてはうまくいっている。
高坂 純正から換える意味がそこにあるわけですね。
井入 デザインももちろん重要ですが、かっこいい上に性能も上がるとなると、置いておく手はないですよね。
高坂 一方、ジムニーについてはどんな印象を持たれましたか?
井入 ジムニーについては、ノーマルホイールがとても軽くて。その意味では差がそれほど出ないかもしれないな、と。でも動かしてみると、やっぱり違いが出ましたね。
高坂 剛性感というか、ハンドリングのリニア感が全然違うように思いました。
井入 普通に乗っていると分かりにくいのですが、大きい入力とか……。軽自動車とはいえ、1トン以上もあるものが動いて、加速して減速して曲がるわけですから、どうしても4本の接地しているタイヤに大きな力が入る。ホイールが軽くて剛性の高いものになれば、悪い部分というのがあり得なくなりますよね。
高坂 それが安全につながる、という面もありますよね。
井入 必ずつながりますね。たとえば今回、TE37で制動距離が縮んだということは、純正ホイールだとブレーキの入力に耐えられなくてちょっと動いちゃう、ということなんだと思います。するとABSの効きなどにも影響してきますよね。今のクルマは電子制御がどんどん進化していますが、それを受け止めるホイール、そしてタイヤがしっかりしていれば、その進化した性能を、より確実に発揮できるのだと思います。
高坂 考えてみるとホイールって、地面に接地しているタイヤと、クルマ本体をつなぐ“キモ”の部分ですよね。だから本当にファッションだけじゃなく、機能性も考えて選ばなきゃいけないと、つくづく思いました。
井入 路面に対しての追従性というのは、サーキットなどを速く走るのも、悪路を走破するのも一緒だと思うんです。その部分でやはりホイールの剛性があり、重量が軽いということは、メリットしかないと思います。
高坂 全国の4WD乗りの皆さんにも、しっかり伝えたいと思います。では次回は、ぜひ悪路でテストしましょう!
井入 私は遠慮しておきます(笑)。
■鍛造ホイールが車に与える効果をレイズ・山口浩司さんに聞く

レイズ 営業本部 執行役員 山口浩司氏
「強度と剛性を混同してしまうことが多いのですが、この2つは属性は同じでも意味が違うんです。まず強度とは、壊れない指数を言います。距離を走っても割れない、衝撃に強い、コーナリング時などで曲がらない、などが“壊れない”ということです。
一方、剛性というのは、たとえばホイールは締結部(ナットで留めている部分)から離れていけばいくほど歪もうとする。クルマを置いただけの1G状態でも、さらに加減速時でもホイールは動こうとしますから、これをできるだけ限り抑制したい。抑制すればインフォメーションとしてドライバーに伝えられる。今回もタイヤがひと転がりしただけで、高いホイール剛性によるリニア感は伝わってくるはずです。
それはホイールがタイヤの性能を引き出してくれているということなんです。サーキットの同じコーナーでも、ホイールによって舵角が変わってくる。できうる限り剛性のバランスの取れたホイールならタイヤをちゃんと地面に押しつけることができます。逆に言うとタイヤの性能を最大限に引き出すために、ホイールの性能も必要になってくる、ということなんです。もちろん、それはサーキットだけじゃなく、4WDの悪路走行でも大切なことでしょう。」