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ゴルフに乗って想うVolkswagenの底力

 ビートルことタイプⅠを生産するために誕生したフォルクスワーゲン社。決して破られることのないヒット記録の影で、後継モデルの開発に大変苦悩した歴史がある。そして生まれたゴルフは実用車として多くのファンを獲得、そしてその流れはポロにも受け継がれている。フォルクスワーゲンの本質は、シンプル・イズ・ベスト。装備や機能を増やさず必要最低限のものとし、クルマとしての基本性能を磨き続けている。

クルマの断捨離ならVWが最適
高い基本性能を持つ実用車

 フォルクスワーゲンの代名詞ともいえるビートルタイプⅠ。生産年数68年、延べ生産台数は実に2152万9464台に上る。これは2位となるT型フォードの1500万7033台を大きく引き離したダントツの首位で、ガソリン自動車としては破られることのない記録となるはずだ。だが結果的には大記録であっても、その裏には苦労もあった。自動車先進国では、そのビートルの優秀性がVWを次第に苦しめることになる。ドイツでの販売は1960年代半ばをピークに低下してゆく。高速化の波はビートルを押しのけ、さらにオイルショックがそれに追い討ちをかけたのだ。それ以前の60年代後半から、進化するライバルを尻目にビートルの後継車を育てることの難しさにVWは苦しんでいた。それを救ったのはカーデザインの鬼才、ジョルジェット・ジウジアーロだった。
 初代ゴルフの合理的でモダンなスタイリングは、インテリアからデザインすることで生まれたと言われている。このコンパクトなボディのハッチバックは、結果的にビートルの後継車として成長するのである。ビートルとは正反対の水冷FFというレイアウトを最大限に生かした、堅牢で実用性が高く、コンパクトでリーズナブルなクルマ。しかしそれはビートルと全く同じ思想と言って良かった。VWの本質とは、まさにここにあるのではないだろうか。
 日本では、ビートルも初代ゴルフも新車当時は決して安いクルマではなかった。それは輸入車だからというだけでなく、ドイツ流のベーシックカー作りに起因するところが大きい。日本やイギリス、イタリアの大衆車は、とにかく安く作ることが最優先事項だった。薄い鉄板を使い、可能な限り小さなクルマとすることで製造コストを抑えたのだ。しかしドイツの大衆車は、長く乗り続けることで結局はトータルコストを抑えることのできる堅牢さを優先させ、量産性を高めて大量生産することで低価格化を実現していたのだ。
 50年代、自動車を所有することが庶民の憧れだった時代は、とにかく安いクルマが喜ばれた。そして70年代は信頼性の高いクルマが望まれるようになり、90年代からは過剰なまでの快適装備、安全装備を競う飽食の時代を迎えるのだ。それはVWの足跡そのものと言ってもいいくらい、ビートルから現行型ゴルフまでの成長ぶりとシンクロする。けれども進歩すること、成長することを必ずしも良しとはしないフリークも世には存在するのだ。時代と逆行するように、シンプルでキュートな空冷VWに魅せられるマニアは依然として多い。それは絶えるどころか、若年層に受け継がれているほどだ。彼らは安いクルマが欲しいわけではない。珍しいクルマが欲しいわけでもない。必要なだけの機能、それによって調和される美しいデザインに感性を揺さぶられるのだ。ビートルを始めとした空冷VWには、確かにそんなテイストがあふれている。またゴルフも初代~2代目までは確実にシンプル・イズ・ベストのミニマムなデザインを実践しているといえるだろう。
 今、振り返ってみれば、ゴルフⅢにもそんな思想は色濃く残されているが、やや中途半端な感も否めない。そんなVWらしさを近年のVW車の中に求めるとすれば、それはポロをおいて他にはない。そのボディサイズや剛性の高いシャシーと足回りが生む、軽快で安定感の高い走りは、まさに初代のゴルフを彷彿させるものだ。さらにスポーツハッチとして見るならば、ゴルフⅠ/Ⅱに設定されたホットハッチ、ゴルフGTIのイメージは、そのままポロGTIに重ねることができる。
 現代のフォルクスワーゲンにおいても基幹モデルとなるのはゴルフ。ここで紹介する先代型は、エクステリアデザインにはイタリアンエッセンスを取り入れ、全体的に引き締まった精悍なフォルムを身に付けている。ボディはレーザー溶接と高張力鋼板の使用で軽量化と剛性の強化を実現、この効果は引き締められた足回りと走りにも貢献している。運転席にはニーエアバックが装着され合計9個のエアバッグ、さらに横滑り防止装置であるESPを備えるなど安全性はさらに向上。ドイツ車らしい質実剛健な作り込みがなされている。
 インテリアはシンプルながら使い勝手を重視したもので、オートエアコンなど快適装備は充実した内容。室内空間もこのクラスとしては十分な広さを確保している。10年4月には、TSIコンフォートラインの直4エンジンをSOHC化。排気量も1・2ℓとし高い燃費性能を実現している。このモデルは、はじめてのドイツ車としても狙い目。初期モデルは1・4ℓだったが、1・2ℓ直4SOHCターボを積むTSIコンフォートラインは実用に徹したトルク特性で、必要にして十分なパワーを持つ。大人4人と荷物を載せる広さがあり、堅牢でシンプルなメカニズム。大きく育ちすぎたボディや、余計な機能・装備を断捨離したくなったらVWがいい。履きやすく丈夫で場所を選ばない、ブルージーンズのようなクルマだ。

大人4人と荷物を楽に載せられる広さがあって、堅牢でシンプルなメカニズムという、VWの本質を現代的に表したモデルがポロ。サイズ的にもかつてのゴルフに近く、非常に乗りやすい。
ハッチバックスポーツとして高い人気を誇る伝統のGTI。コンパクトカーであっても、積極的に走りを楽しめるグレードが用意されている。さらにハイパフォーマンスモデルとして最高出力256psを発揮するRもある。
1.2ℓの直4SOHCにターボが組み合わせられたパワーユニット。排気量は小さいが実用的なトルク特性で街中ではキビキビと走りを見せる。
ドイツ車らしい実用性と質感の高さを持つインテリア。メーターパネルには車両情報などが表示されるディスプレイが備わる。派手さはないが、飽きのこないシンプルなデザインとなっている。
ベーシックなドイツ車らしいシンプルなシート。細かな調整も可能になっているので好みのシートポジションに設定できる。
ギアの変速に気づかないほどの快適なシフトチェンジと、効率的な制御により燃費性能を高めている7速DSG。

Specifications          TSIコンフォートライン

全長×全幅×全高(mm)     4210×1790×1485

ホイールベース(mm)       2575

車両重量(kg)            1270

エンジン方式          直4SOHC+ターボ

総排気量(cc)           1197

最高出力(ps/rpm)       105/5000

最大トルク(kg-m/rpm)    17.8/1550〜4100

変速機             電子制御7速AT

最小回転半径(m)          5

使用燃料・タンク容量(ℓ)   無鉛プレミアム/55

10・15モード燃費燃費(km/ℓ)    17.0

タイヤサイズ          195/65R15

新車価格(万円)            278