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名車探訪「Mercedes-Benz 300SL」美しいデザインに内包された高い技術力 300SLは夢のクルマで在り続ける

見る人を釘付けにする美しいデザインや合理性に基づいた機能美は、ジャーマンクラシックならではの魅力だ。ここでは戦後のメルセデスの象徴となった300SLを紹介しよう。

 戦後のメルセデスがイメージリーダーとして選んだのは高級サルーンではなくスポーツカー。この300SLはドイツの復興と高い技術力を証明する一台であったのだ。ガルウイングドアやガソリン車初の燃料噴射装置などドイツのモノ作りにおける魂が感じられる伝説のクルマである。

 ジャーマンクラシックのトップに君臨すると言っても過言ではない、メルセデス・ベンツ300SL。ブランドの垣根を越えた伝説というべき一台であることは、クルマ好きなら知っているだろう。

 300SLには、戦後のメルセデスの復活と高い技術力をアピールするという使命があった。メルセデスが得意とする高級サルーンではなく、注目度がひときわ高いスポーツカーを選んだのも、そういった理由からだ。2シーターのスポーツカーにガソリン自動車の未来を注ぎ込み、メルセデス・ベンツというブランドを世界中に認知させたのである。

 300SLは54年のニューヨークショーでデビュー。プロトタイプは終戦からたった7年しか経っていない52年に発表しており、レースでも活躍。そして55年には市販車バージョンの300SLが販売されることになる。設計は、第二次世界大戦前からレーシングカーに関わっていたルドルフ・ウーレンハウト。そのノウハウが300SLには惜しげもなく投入されている。

 ボディの構造はチューブ状のフレームを組み合わせた本格的な軽量スポーツカーで、ボディの外板は強度を保つ必要性がないため、軽量なアルミが採用された。パイプフレームが貫通するサイドシルは高さが必要で、通常のドアが取り付けられないため上方向に跳ね上げるガルウイングドアが開発された。300SLの特長的な部分である。

 ガソリン車としては世界初となる燃料噴射装置を搭載したエンジンは3ℓの直6SOHCで、最高出力は215ps/5800rpm。1速を含むフルシンクロメッシュの4段トランスミッションとZF製のリミテッドスリップデフを介しての後輪駆動で、最高速重視のハイギアードタイプのデフを選べば、なんと260㎞/hを発揮する、当時としては超高性能なスポーツカーだったのである。

 アルミ削り出しのドアハンドルを握って運転席に乗り込めば、レザーでフルトリムされた豪華な作り。光り輝くメッキが配されたインパネ回りも優雅な印象となっている。サイドウインドーは三角窓しか開かないが、換気のためのベンチレーターがルーフ後方に備わっている。スペアタイヤで一杯になったトランクスペースを補うため、シート後方には優雅なレザー張りのトランクバックが積まれているのも、メルセデスらしい実用性を感じさせるところだ。

 伸びやかなシルエットを見ていると、ずっと眺めていたいと思ってしまう美しいデザイン、そしてそのボディに内包された高い技術力と実用性。デビューから59年が経った今でも通用する性能を持つということからも、300SLがいかに優れたクルマであったかが分かるだろう。

 時価1億円とも言われるクルマの価値から考えると、オーナーになるのは現実的ではない。だが、このクルマが示した道の先に、名車と言われる数々のメルセデス・ベンツが誕生し、我々は乗り換えるクルマがないと思うほど心酔している。クルマ作りにおける妥協のない合理性と、エンジニアたちの感性によって生み出された300SLは、その原点というべき存在なのである。

 

大きな特長であるガルウイングドアは、鋼管チューブフレームによってドアの開口部が大きく取れないことに対する苦肉の策だった。

オリジナルは丸型のライトとなるが、撮影車両は人気のオープン版のフェイスを移植。

レザーでトリムされた豪華な室内にはメッキパーツが輝く。ルームミラーはこの時代らしく、ダッシュボードに装着。ミッションは4MT。

ドアノブはアルミの削り出し。ドア内部に完全に収まっているため、ハンドルを引き出して開く。

サイドウインドーは三角窓しか開かない構造になっている。

Mechanism Topic

世界初の燃料噴射システムによってハイパワーを実現!

300SLと言えば、ガソリン自動車として世界初となる機械式の燃料噴射システムを搭載したことがトピック。これはボッシュ社との共同開発によって生まれたものだ。エンジンは45度も傾斜して搭載されるためオイルはドライサンプ式。最高出力は215psだが、同じ排気量を持つキャブレター仕様のエンジンより、65psもパワフル。大量のガソリンを燃料噴射により送り込んでいるということだ。そのため、オイルにガソリンが混ざりやすく、頻繁なオイル交換を必要とする。