ラリーフィールドで証明した
W123の信頼性の高さ
Mercedes-Benz 280CE
(C123)1979y
英国のロンドンをスタートし、欧州を抜け中東を走破しインドを抜ける。そこから船でオーストラリアのパースへ向かい、真逆のシドニーがゴール。走行距離が1万6000㎞にも及ぶとんでもないラリーが1968年に開催され、それがロンドン〜シドニー・マラソンという自動車のラリーイベントだ。あまりに壮大なラリーであることと、70年代に入り世界情勢が不安定になったことが重なり、このラリーイベントは一端中止に追い込まれた。
しかし1977年、ロンドン〜シドニー・マラソンは復活を果たす。この復活の背景にはワークス体制での参戦を予定していたメルセデスGBの尽力も大きかったようだが、ロンドン〜シドニー・マラソンの復活は、メルセデスがワークス体制でエンデュランスラリーに復帰するという意味もあったのだ。参戦車両は、1976年のジュネーブショーで登場したW123の280E(セダン)。同年7月にはFIA・Gr.2のホモロゲーションを取得し、コンペティションモデルは200hpにまで引き上げられた2.8ℓのDOHCユニットで、ロンドンからシドニーまでの1万6000㎞を走破した。結果は見事に優勝し、メルセデスに加わったW123という新たなモデルの信頼性の高さを、世界中にアピールすることに成功する。
そして翌年。メルセデスのワークスチームはよりライバルがひしめくサファリラリーへ4台の280Eを持ち込む。過酷なサファリラリーへの挑戦は、4台中3台がリタイヤに追い込まれたが、1台の280Eが6位入賞を果たした。
さらに翌年。メルセデスは3台の280Eに加え、C107系の450SLC5.0を3台用意して参戦。このSLC5.0は、FIA・Gr.4からの出場で、5025㏄のV8ユニットは300hpにまで引き上げられていたが、ミッションは3速ATのままであった。1979年のサファリラリーの結果は、優勝こそダットサンのPA10に譲るが、2位と6位に450SLC5.0、4位と11位に280Eという好成績を残した。さらにこの年のWRCの最終戦となったコートジボワールでは、450SLC5.0が初優勝を飾ったのである。
1980年にはGr.2から参戦した500SLや280CEが、ポルトガル、サファリ、アクロポリス、アルゼンチン、ニュージランド、コートジボワールとい6戦に出場。コートジボワールで500SLCがGr.4勢を抑えて優勝するも、ラリーフィールドにおけるメルセデスのワークス参戦は、この年が最後となった。
さて、いささか駆け足でW123およびC107のラリーでの活躍を説明したが、それらをモチーフにカスタマイズされた280CEが、W123の専門店であるPEACEで製作されたデモカーだ。もう少し正確に伝えると、デモカーという性格を持たせた“代車”なのである。つまり、PEACEのユーザーであれば、誰もがこのラリールックのW123に乗ることができる。もちろん予約は必須であるが。
W123の専門店が代車兼デモカーとしてW123を用意し、ユーザーに貸し出す。よくよく考えれば一般的な出来事のようにも思えるが、専門店にとっては経費が高くつく。代車の経費は、一般ユーザーが想像するよりも専門店に大きな負担をかけるのだ。これを軽減するため、代車は軽自動車というショップは少なくない。さらに代車は、コスト負担の少ないレンタカーで賄うというディーラーもあるほどだ。
だが、ユーザーにとっては愛車と同じモデルの代車を借りることで、クルマの善し悪しやカスタマイズのヒントが得られるなど、新たな発見や楽しみに繋がることもある。とくに、ネオクラ系の古めのモデルは、個体の程度によってそのクルマの印象が大きく異なるし、どのような状態が正常なのかも分からないまま乗っているユーザーも多いはずだ。そういったネオクラ系モデルに乗るユーザーの不安や疑問が、愛車と同じモデルの代車を借りることで解消に繋がることもある。
たとえ不特定多数の人が運転する代車であっても、専門店がキッチリ整備した車両であれば、そのクルマが持つ魅力を十分に味わうことができる。実は、ユーザーファーストの重要なサービスのひとつなのである。そういった意味で、W123のデモカーを代車として用意しているPEACEに、まずは拍手を送りたい。聞けばこのラリールックのW123、代車の中でも1番人気で、これに乗りたいがために車検や修理を依頼してくるユーザーも少なくないという。
そんな大人気のラリールックのW123。ベース車両は前期型の280CEで、外装と一部の内装以外はほぼノーマルだ。2.8ℓの直6DOHC2バルブユニットは、W123に搭載されるエンジンバリエーションの中でも古い設計のものだが、3速の機械式ATと組み合わされ、実に軽快な走りを示す。セダンよりも85㎜短いホイールベースが軽快さに磨きをかけていることは確かだが、それ以上に3速ATならではの少ない変速と機械式ならではの素早い変速によって、スポーティにもゆったり走るにも向いている。かつて、メルセデスのワークスチームが3速の機械式ATのまま450SLC5.0でラリーに挑戦したことも、PEACEのこの代車に乗ることで納得がいった。
操作性は、良くも悪くもボールナットのステアリング形式のメルセデス独特のもの。現代の基準からすると、それでも大きいと感じるAMGの4本スポークステアリングに変更済みだが、回転フィールは非常にスムーズだ。中立付近で生じがちな過大な遊びも少なめに抑えられている。280系の個体は遊びが多い傾向にあるが、ギアボックスの調整(280系はSSTが必要)とステアリングロッド類のジョイント部の交換で、滑らかさと正確さを合わせ持つステアフィールが復活する。
どちらかといえば、クラシカルな雰囲気を手軽に楽しむという魅力を持つW123だが、このPEACEの代車に乗れば、実はスポーティな雰囲気のカスタムや軽快な走りを楽しむことも可能であることが確認できた。ワゴンモデルでゆったり乗るもよし、セダンでお洒落に乗るもよし、そしてクーペでスポーティに乗るのも楽しい。そんな楽しみ方の懐が深いことも、W123というクルマの大きな魅力のひとつなのである。
メルセデスW123専門店
「PEACE」
フリークたちの新たな聖地
W123の専門店として2010年に創業し、以来、多くのW123ユーザーの力になってきたのがPEACE。地道な努力を続けてきた結果、今やW123の新たな聖地となっているところだ。