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【 GERMAN SPECIAL CARS!! vol.05 至福の時間を特別なクルマで。/ ブリスターフェンダーに感じる夢の膨らみ 】

高性能の証だったブリスターフェンダー。往年のスペシャルモデルに備わるブリスターフェンダーに憧れてきた人にとって、そのフェンダーの膨らみは夢でもあった。今も記憶に残る、クルマとしての刺激は現代のクルマではなかなか味わえないもの。その強烈な個性こそがクルマ趣味を後押しする原動力でもあったのだ。

 

強烈な個性が憧れを加速させる!

 

異様だけどカッコいい
ブリスターフェンダーの魔力

 ある意味、異様でありながら、でもカッコいいと感じるブリスターフェンダー。今回取り上げるスペシャルなドイツ車の多くにもブリスターフェンダーであったり、オーバーフェンダーが備わっている。エンジンパワーをアップさせ、そのパワーを受け止めるためにトレッドを広げ、幅広のタイヤを履く。当然、ブレーキも強化される。ドイツ車であれば、スタンダードなメルセデス・ベンツであっても、BMWであっても、ポルシェであっても十分にカッコいいし速いのに、それでもこの異様でカッコいいブリスターフェンダーを目の前にすると、途端に心を奪われてしまう。やはりそれは若かりしき頃に憧れた特別な存在であるからだと思う。それは僕らユーザーだけではなく、高性能モデルを作り上げるというエンジニアたちの熱い夢も、このブリスターフェンダーに内包されていると言える。そしてもっとも重要なのが、そんなブリスターフェンダーを備えるスペシャルなドイツ車には、心を踊らせる高性能エンジンが搭載されているという事実も忘れられない。
 そこで本企画では、あの頃僕らが憧れたブリスターフェンダーの機能性や誕生のヒストリーについて少し掘り下げてみることにした。

 

ポジティブなイメージが
定着していったブリスター化

 ここで掲載しているAMG560SEC 6.0-4VワイドバージョンやBMW初代M3に備わるブリスターフェンダー。戦闘力の高いエアロで武装し、フロント、リアともに大きく膨らんだその姿に僕らは憧れ、夢を抱き続けてきた。
 では、ブリスターフェンダーは単なる外観上の特徴なだけなのかというとそうではなく、このような形になったのには理由がある。
 まず思い浮かぶのは、トレッドを拡げたときに外側にはみ出るタイヤをフェンダーで覆うこと。これは日本だけではなく、世界的に安全性の確保のために、4つのタイヤはすべてフェンダーの中に収まってなければならないというルールがあるので、市販車では当然、どんな手段を使ってでもタイヤをフェンダーの中に納めなければならない。
 だが、それだけはない。ブリスターフェンダー化するにあたっては、まずエンジンの高性能化が挙げられる。幅広のタイヤを装着することは転がり抵抗を増大させ、それを押し切るだけのパワフルなエンジンと組み合わせることを前提にしなければならない。そうしないと加速が鈍り最高速が低下。アウトバーンでの高速性能が強く求められるドイツ車においてこれは致命的だから、実はタイヤはできれば細いに越したことはないのだ。
 だが、高性能エンジンを搭載することが前提であれば、目指すべき性能要件を満たすためにエンジンパワーをアップして、トレッドを広げ、幅広のタイヤを装着するという手法も取れる。これによりコーナーリング性能が飛躍的に向上し、パワーアップされたエンジンにも対応できるようになる。つまり、ブリスターフェンダーが優先で誕生したのではなく、あくまでも性能要件を満たすために、ある意味仕方がなかった方法とも言えるのだ。
 以前、カーデザインの現場にいた方にこんな話を聞いたことがある。
 「ブリスターフェンダーというのは、その発想の根底に、諸般の事情を鑑みた結果、やむを得ずという考え方がある。そのやむを得ずという要素を含んだ解決策の1つがブリスターフェンダーなのだよ。デザインというのは、1箇所動かすと、すべてを動かさないと収まりがつかなくなるほど、いっぱいいっぱいに極めた代物なんだ。だから、フェンダーだけ膨らませてしまったら、全体のデザインの中でつじつまが合わなくなってしまうのは道理だと知って欲しい」
 だが、そのいびつさ、異様な雰囲気を楽しむという考えもある。ドイツ車においてブリスターフェンダーを装着するモデルの多くはチューナーズカーであったり、レースのためのホモロゲーションモデルなどスペシャルな存在だ。また、スタンダードモデルであったとしても、トップグレードやスポーツグレードなど特別な存在であることが多い。それゆえ一般のスタンダードモデルにはない異様な姿が、高性能でカッコいいというイメージが定着していった。
 そのイメージを逆手に使って、高性能車であることをアピールする手段として、ブリスターやそれ風のフェンダーを標準仕様のモデルにデザインとして採り入れるケースもあり、商売のネタとしても認知されるようになった。
 ちなみに、サイドに大きく張り出したブリスターフェンダーが空力性能に影響を与えないのかというと、実はそれほど大きな悪影響はないという。高速走行時に発生する大きなドラッグは、テールの処理で大きく変わるもので、側面の凹凸が多少大きくなってもさほど悪影響は及ぼさない。

ポルシェでいえば911シリーズのリアフェンダーの膨らみはとてもグラマラスで、強烈なターボのリアフェンダーには心が踊った。この他にもFRポルシェである968や944もブリスターフェンダーを纏う。
 

パワーに負けない加速と
コーナリング性能を実現

 トレッドを広げるということは、幅広のタイヤを装着でき、エンジンパワーをアップさせても増大する転がり抵抗に負けないどころか、より高いレベルの加速や最高速を実現しつつ、さらにもう一段高いコーナリング性能を手に入れている。ブリスターフェンダーはそのための外観上の特徴とも言える。往年のスペシャルなドイツ車は、ブリスターフェンダーによって包みこまれた高性能によって多くの人たちを魅了してきた。
 だが現在のクルマは大きく進化し、どんなにエンジンパワーをアップさせようが高度な電子デバイスで制御できるだけの技術がある。高性能のためのブリスターフェンダーというのはもはや過去の話になってしまった。そう考えると、僕らが心を踊らせたブリスターフェンダーとは一体何だったのか。それは当時、ボンネットに隠れた高性能エンジンの象徴だったからに違いない。ブリスターフェンダーを装着する往年のスペシャルモデルのほとんどに搭載されるエンジンはどれも高性能。AMGのハンマーユニット、レーシングエンジン直系のBMW Mユニット、ポルシェのターボユニットなど僕らが心踊らせて憧れたものだった。技術的には現代のエンジンの方が優れていたとしても、AMGやMシリーズのヒストリーとともにあるアナログ時代ならではのフィーリングは、いつまでも僕らの夢として輝き続けているのである。

AMGがまだ手作りでチューニングを施していた頃のV8DOHC。マイスターによる丁寧な仕上げは量産エンジンでは決して味わえない個性と奥深さがある。
名車M1から受け継がれる直6エンジンをアレンジして4気筒にしたS14ユニット。高回転域まで気持ち良く吹け上がり軽快な走りを実現。スペックもレーシング仕様に近い本気のエンジンだ。
 

ブリスターフェンダーデザイン集

形状やふくらみの大きさは様々!

ブリスターフェンダーと言えばこのカタチを思い浮かべる人が多いかもしれない。AMG、BMW Mシリーズやアウディ・クワトロもこのデザインを採用している。
BMW初代8シリーズは若干控えめなブリスターフェンダー。レースのためのホモロゲーションではなく、量産車に採用されたことがデザインのためのブリスター化である。
W124シリーズの中では500E/E500のみフェンダーがワイドになっている。他のモデルとは異なる特別な雰囲気を醸し出している。
ナローの時代に比べるとだんだんリアフェンダーがワイドになっていくポルシェ911シリーズ。性能要件を満たすために必要な処理だった。