無駄という名の贅沢がもたらす独自の世界
誤解を恐れずに言えば、クーペというジャンルのクルマの本質は「無駄」にあると言って良いだろう。
止めればセダンやワゴンと変わらないスペースを占有するのに、乗車できるのは2名+アルファ。ラゲッジの容量もワゴンとは比べるまでもないし、走らせれば排気量なりの燃料を消費する。クーペだからと言って、他のジャンルのクルマより消耗部品が長持ちすることもなければ、クルマ自体の耐久性が特別高いわけでもない。2枚しかないドアは大きいばかりで、リアシートに荷物を置くのだって苦労してしまう。つまるところ、クーペとは実に無駄の多い乗り物なのである。しかしながら、その「無駄」こそが贅沢なのであり、スペシャルなクーペの魅力とは考えられないだろうか?
クルマを単なる移動の手段、物を運ぶ道具と考えたら、それこそ660㏄の軽自動車で大抵のことは十分こと足りる。仮にそれで不満が出たとしても、2リッターのセダンであればまず問題はないだろう。だからこそ世の中には2リッタークラスのセダン、ワゴン、ミニバンが溢れているのだろうが、その一方でクルマは趣味性の強いツールであるし、オーナーの個性を表現するアイテムでもある。必要最低限である理由はどこにもなければ、そもそも人間は本能として贅沢を楽しいと考える生き物だ。クーペの「無駄とも受け取れる贅沢」に魅力を感じたとしても、決しておかしなことではない。いや、どんなジャンルのクルマより無駄が多いからこそ、背徳がもたらすエクスタシーとでも言うべきか、むしろ惹かれてしまうのである。
そんな贅沢の極みとも言えるのが、本稿で取り上げるビッグクーペだろう。そこいらのセダンなんかよりも大柄なボディなのに、二人しか快適に座れないタイトなキャビン。搭載されるV8オーバーの大排気量エンジンは、決して軽くないボディを軽快に加速させてもなお余る大パワーを誇るものの、税金や保険、燃費面での負担も決して小さくはない。
まさに無駄だらけではあるけれど、居住性をあまり意識せずサイズを大胆に生かした「流麗なスタイリング」や、二人だけのための「豪華で濃密なインテリア」、右足にほんの少し力を入れるだけで、シーンによっては「スポーツカーをも追い回せる動力性能」は、ビッグクーペでしか味わえない独特の贅沢。何物にも代えがたい魅力と言えるだろう。
ハイオクガソリンの価格がリッター当たり200円に到達するこのご時世だが、そもそもが無駄の極致。昔、流行した某芸人のネタのように「でも、そんなの関係ねえ」と一蹴するだけの魅力が、ビッグクーペには確かに存在する。そして、それはさまざまな犠牲を払ってでも手に入れたいほど、僕らを誘惑してくる存在なのである。