たとえ一箇所のハーネス断線でも
クルマの調子がおかしくなってしまう
Parts Data
✔このパーツの役割は?
各部に電気を運ぶのが電線の仕事
クルマを動かすために必要な電力を伝えるのが電線(ハーネス)で、重要な役割を担っている。電線は大きく分けて2つに分類でき、動力源となる電気を配分する動力線と、センサーなどの制御電流を流す線がある。電気の容量や使われる箇所によって電線の太さは変わる。
✔劣化するとどんな症状が出る?
電線が劣化すると被膜がボロボロになって、内部が剥き出しになってしまう。ボディと接触するとショートするため、劣化したまま放置しておくのは非常に危険だ。すぐに対処すること。
✔長持ちの秘訣は?
あらゆる害の原因になる熱に注意
電線(ハーネス)の劣化は熱によって促進されるので、エンジンが異常燃焼を起こし、周辺の温度が急激に上昇すると電線にも悪影響を与えてしまう。また、ハーネスの被膜が破れているのを見つけたら、すぐに補修または交換すること。これにより高価な部品を守れることがある。
クルマには膨大な量の
電線が使われている
ボンネットを開けてエンジンルームを見ると、大量のコネクターがあり、多くのハーネスが使われていることに気づく。メンテに詳しい人なら、エンジン制御において重要なエンジンハーネスという部品を知っているだろう。内装であってもオーディオやナビをDIYで装着したことがある人なら、その奥にたくさんのハーネスが使われているのを目にしているはずだ。ハーネスは快適装備が充実し、クルマに使われる電装品が増えるにつれてその量も増えている。
現在では、クルマ一台に使用される電線は約1000本、全部を一本に繋ぎ合わせると、全長は3㎞にもなる。途方もなく複雑な配線がされているわけだが、大きく分けると動力源となる電気を配電する動力線と、センサーなどの制御電流を流す線に分類することができる。
動力線は大きな容量の電気を流すため太いのが特長で、ラジエターの電動クーリングファンやワイパーモーターなどの線が代表的な例。一方の制御系は、信号的な低容量の電流を流すだけなので頼りないほど細いものが多いが、一カ所断線してしまっただけでクルマの調子がおかしくなってしまうほど重要な役割を担っている。
電子制御化が進む現在のクルマでは、各部が複雑に関連するためセンサー情報などを相互に交換する必要があり、その膨大なデータをデジタル化して少ない電線で伝達することを可能にしたのが、コントロール・エリア・ネットワーク(CAN)システムというわけだ。高齢世代のドイツ車でも、一部ではCANが搭載されているクルマもある。
ハーネスの引き直しで
トラブルを解決する方法
さて、ハーネスの不良と思われるトラブルはいろいろとある。代表的なもので言えば、ドアミラー、パワーウインドー、スロットルアクチュエータなど。ドアミラーは格納操作を頻繁に行なうことで、内部のハーネスが断線してしまうことが多い。格納機能が付いているのに使うと壊れるというのはおかしな話だが、ハーネスの取り回しに余裕がないことと、経年劣化でハーネスの被膜がボロボロになってしまうというのが根本的な原因だ。ディーラーではASSY交換が基本であり、部品代だけで約10万円以上。だが、この部分のみを耐久性の高いハーネスに交換するリペアならリーズナブルに直すことができる。モーターなどが壊れていないことが前提になるが、ハーネスの交換だけなら約1万円だ。試してみる価値は非常に高い。自分でドアミラーを外せる人なら、内部を点検してハーネスを補修することも可能だ。
スロットルアクチュエータは電動のスロットルバルブのことで、アクセル開度を信号化してスロットルバタフライを電気モーターで作動させている。これが壊れるとエンジン不調や警告灯の点灯などの症状が出ることが多い。トラブルの原因として考えられるのがこれに備わるハーネスで、熱や経年劣化により被膜が剥がれてしまったり、断線してしまうことがある。基板にクラックが入っているときはハンダを盛り直してやる必要があるが、ハーネスの不良なら補修することで復活するケースが多い。ドアミラーのようにDIYで簡単に外せる部品ではないので、DIYメンテに慣れていない人であればリペアサービスを活用するのがベストだろう。スロットルアクチュエータは高価な部品で、例えばメルセデス・ベンツなら約17万円、V12エンジンには約27万円のスロットルアクチュエータが2つ付いているが、リペアなら一つ約8万円で直せる。
パワーウインドーのトラブルというとレギューレータかモーターの不良を疑ってしまうが、電気的な原因で作動しなくなることもある。パワーウインドーのハーネスはドアヒンジ部分で断線してしまうことがあり、クルマをいじったことがある人ならDIYでも補修できるレベル。内張りを外す必要はあるが、レギュレータの交換に比べれば作業は簡単だ。もちろん、トラブルの原因がハーネスであることを特定しなければならないので、電圧テスターなどを使って事前にチェックする必要がある。
クラシック世代のクルマでは、ハーネスの一部というより全体的な劣化が考えられる。電気というのは繋がっているものだから、一部を補修したところで復活しないケースもあるのだ。レストア作業を得意とする修理工場では、クルマの電気系統を徹底的に見直して現代でも通用するようなレイアウトに変更することがある。ヒューズやリレーの追加とともに、ハーネスもゼロから引き直す。30年以上も前のハーネスの一部を補修したところで、また他の部分がダメになってしまうことが多いからだ。クラシック世代のドイツ車を現代の環境に合わせて快適に走らせるためにも、ハーネスの引き直しというのは非常に重要なメンテなのである。
エンジンルームをのぞいたり、オーディオなどの電装品を自分で取り付けたりする人ならば、ハーネスの被覆が傷ついて内部の心線が見えている状況を発見することがあるかもしれない。それを放置するのは非常に危険だ。ボディに触れればショートしてしまう。応急処置としてはビニールテープを巻くだけでもいいのだが、クルマの熱によって糊成分が劣化しやすく、あまり持たない。そんな時は「タスキ掛け」と呼ばれる手法で結線するのが、もっとも確実な補修方法だ。ただし、太い線はキボシを使ったほうが良い場合もある。
作業する前に覚えておきたい
DIYメンテの重要ポイント
電気のプロも実践している
「タスキ掛け」による結線
ここで紹介するのは、電気のプロも実践している「タスキ掛け」と呼ばれる、もっとも簡単で確実な結線方法だ。まず一番大切なのは、補修箇所に最適な線の太さを選ぶこと。絶対に細い線を使ってはいけない。要注意なのが、容量は内部の心線の太さで決まるので、ビニール被覆の厚みで判断しないこと。中は細いのに厚着の電線も存在するのだ。補修用の電線が用意できたら、熱伸縮チューブを通してから被覆を剥いて、心線がバラけてしまわないように軽くよじっておく。これを互い違いに絡ませたら、余った分は被覆の上に絡ませて、熱伸縮チューブを被せドライヤーで加熱すれば作業は完了だ。