96年式 メルセデス・ベンツ E320
走行距離だけでは
本当の状態は分からない
多走行車なんて買えない……と思っている人は少なからずいることだろう。だがそれは、走行距離を基準にしているからであって、実際のコンディションとはイコールではないのだ。その検証をするべく用意したのが、96年式のメルセデス・ベンツE320。メカニックに徹底的に点検してもらい、各部のコンディションをチェックしていきたい。
まずは外装回りをぐるっと見てみると、劣化して黄ばんでしまいがちなヘッドライトレンズは良い状態を保っている。保管状態が良いか、定期的にメンテナンスしている証拠でもあるだろう。タイヤは交換時期にきていて、スリップサインが出ている。実際に販売されている中古車でもこういったケースは多いが、タイヤは消耗品として考えるべきだ。
ボンネットを開けてエンジン回りをチェック。エアマスセンサーやアクセルセンサーはトラブルが多いポイントであるが、きっちりとメンテナンスされているようだ。実際にエンジンをかけてみても一発始動で、アイドリングも安定している。水回りのウォーターポンプも交換した形跡があった。発電機であるオルタネータは純正品が装着されていて、恐らくだが一度も交換していないかもしれない。いずれはメンテナンスが必要な消耗品だと言える。
室内は非常にキレイな状態を保っていて、シートも大切に扱われているし、ウッドパネルに割れなども見られない。内装のコンディションが良いクルマは機関部も好調と言われる。すべてのクルマというわけではないが、取材車に関してはそれが当てはまっていた。ただし、一般的な中古車販売店では店頭に並んだ時点でキレイに清掃されることが多いので、例えば交換すると費用が高いシート、ダッシュボード、ウッドパネルなど、パッと見の印象ではなく全体を見て判断することがポイント。
いよいよ、リフトアップして下回りをチェックする。購入の際には下回りまで見ることはできないので、その状態は気になるところだろう。まず、メカニックから指摘されたのがデフからのオイル漏れ。ここは定番のポイントなので、漏れの状態を見てメンテナンスが必要になるという判断が下された。ロアアームブッシュは一度交換されているようだが、小さな亀裂を発見! 同氏によると、W210の場合は走行2万㎞くらいで小さな亀裂が入り、そこから少しずつ大きくなっていくとのこと。ただ、現状ではまだ使える状態なので、メンテナンスは必要なしとのことだった。こうした見極めができるかどうかが、メカニックの知識と経験なのだ。あれこれも交換が必要と言うのは本当の点検ではないのである。
さらに足回りのブッシュやボールジョイントもチェックしてみたが問題はなく、ショックアブソーバーからのオイル漏れもない。壊れると高くつく触媒についても異音などはなく、排気管からの漏れなどもなかった。
点検を終えたメカニックに取材車の印象を聞いてみた。
「部品を交換した形跡があちこちに見られるので、定期的にメンテナンスしてきたクルマだと思います。今すぐに必要なメンテナンスはタイヤ交換くらいでしょうか。年式と距離を考えたら本当に良いコンディション。オーナーがしっかりとメンテナンスしてきたかどうかは、走行10万㎞オーバーになると顕著に現れますからね。実際にこういった中古車が売られていたら、多走行でも狙い目だと思いますよ」
今回の検証において分かったことは、メンテナンスされていれば走行10万㎞というのは単なる通過点でしかないということだ。取材車と同じW210で、走行20万㎞を走ったクルマも実際に存在する。これはメルセデスに限らず、すべてのドイツ車に通じること。頑丈なボディ、整備性を考慮した作り、安定した部品供給があるからこそ長く乗り続けることができるのだ。中古車のコンディションを走行距離で判断してはいけないことを、改めて思い知らされた。 ( GERMAN CARS 2014年9月号より抜粋 )
CHECK 01 エンジン回り
定期的にメンテされているのが分かる状態だ
電気的にスロットルを開閉するためのセンサー。アクセルを踏むとリンケージが作動する。
CHECK 02 その他の箇所は?
気になるのはタイヤの劣化くらい
CHECK 03 下回りは?
オイル漏れがあったが全体的に良好
結論!!
走行10万キロは単なる通過点でしかない!
ドイツ車なら少しの手入れで
長く乗り続けられる!!
メルセデス・ベンツの
電子制御式5速AT「あるある」
シフトモードスイッチのトラブル
電子制御式5速ATには「W」と「S」のシフトモードスイッチが備わっている。「W」にすると2速発進になり、「S」では1速発進となるのだが、これが壊れてどちらかに固定されてしまうトラブルが多い。その原因として多いのが、お菓子などの食べカスや飲み物をこぼしてしまってそれがスイッチに付着してしまうこと。状況にもよるが、スイッチ部分をキレイに清掃してやることで復活することも多いという。