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3シリーズ ALPINA BMW

2022.02.19

【走りの本能を刺激するスペシャルカーの世界 Vol.09/ALPINA B6 3.5S E30M3】名機ビッグシックスの究極の形をM3のボディに詰め込んだ特別な一台

アルピナはBMWとの良好な関係によってホワイトボディが供給され、これをベースにアルピナの個性が詰まった1台を作り上げている。そんなアルピナの中でも禁じ手とも言えるのが初代M3をベースとしたB6 3.5S。生産台数は世界中で62台、そのうち日本に正規輸入されたのがたった3台という超希少車である。

ALPINA B6 3.5S E30M3

大きく張り出したブリスターフェンダーとアルピナの象徴でもあるデコラインが強烈な個性を感じさせる。足回りはフロントがストラット、リアがセミトレーリングアーム。ホイールはアルピナ専用品を装着している。

Mをベースにした
唯一のアルピナモデル

 会社としてのスタート当初からBMWとの良好な関係にあるアルピナ。BMWからホワイトボディを供給され、それをベースにアルピナとして販売するという形ながら、自動車メーカーとして認可されているメーカーである。
 そのためBMW直属のスポーツ部門といえるM社製のモデルを、アルピナがチューンすることはあり得ないと言ってもいい。ただ唯一、その禁じ手を侵したモデルが存在する。
 見ての通り、デコラインで飾られたブリスターフェンダーを持つボディは、E30型M3そのものだ。しかしこのボンネットの下には、アルピナの手によってピストンやカムシャフト、吸・排気バルブを交換するだけでなく、ポートや燃焼室、エンジンマネージメントなどほとんどすべての要素を見直されたビッグシックスが収まっている。名機「シルキーシックス」に、さらに入念に手を加えることでトルク特性や回転フィールを理想的なものとしたユニットだ。
 E30型M3に惚れ込んでいるフリークから見れば、軽量で4気筒S14ユニットとの重量バランスにも優れたM3に、ビッグシックスを搭載するなんてナンセンスそのものだろう。事実、不用意にアクセルをガバッと開ければ、たちまちリアタイヤはブレイクするじゃじゃ馬であるだけでなく、限界域での動きはフロントヘビーによるアンダー/オーバーがM3より顕著に表れる。とても乗りやすいクルマとは言えないが、しかしそれを承知で乗りこなす腕前さえあれば、これほど楽しく上質な乗り味を示すクルマもちょっとない。

アルピナがM3の
ボディを選んだ理由とは?

 いったいアルピナは何のためにこのB6 3.5Sを作り上げたのだろう。サーキット走行を楽しむB6オーナーのために、より戦闘能力の高いボディを用意したということか。それとも単にアルピナのビッグシックスが味わえる究極のE30としてM3ボディを選んだのだろうか……。いずれにしても、ワイドトレッドによる安定感の高い走りと、傾斜を強めたリアウインドーとハイデッキという空力に優れたM3のボディを得たことによって、B6は上質で力強い走りをさらに高みへと引き上げている。パワーユニットについても、当初2.8ℓだった排気量はBMWの排気量アップに従って拡大され、ここに積まれる最終型では3.5ℓとなっている。最高出力も排ガス規制に対応しつつ、210psから254psにまで引き上げられた。もしかしたら、E36のデビューを目前に控え、本当の意味でのB6として最後に究極の形を残したかったのかも知れない。そんな思いもよぎる。
 確かにM3がベースと思うと違和感も感じるが、より高い能力を発揮できるクルマを作るためのシャシーをBMWから仕入れただけ。そう考えれば、このパッケージングにも納得がいく。
 B6 3.5Sの生産台数は世界中でたった62台だけ。ドライビングが楽しく、速く、所有することの満足感もすこぶる高いクルマとして、今も多くのフリークから羨望の眼差しを送られ続けている。B7ターボやB10ビ・ターボのような知名度はないものの、アルピナの歴史にしっかりと名を残す名車であることに違いはないのだ。

M3のS14ユニットが収まっているべきエンジンベイには、ビッグシックスが鎮座している。前後方向にはクーリングファンすら収まらないほどギリギリだが、横方向には空間がある。
インテリアは基本的には他のE30アルピナモデルと共通のもの。メーターパネルはオリジナルの茶色がかったものに変更され、ステアリングも専用品となる。
バケットタイプのシートにはアルピナストライプが入る。左右のドアトリムにもストライプがデザインされ、着座中もスペシャル感を満喫できる
センターコンソールにはディスプレイを装備。ドイツ車らしい赤いディスプレイに、気温、油温、油圧などがデジタル表示される。

Mechanism Topic

ダッシュボードに備わるのは、国によるガソリンのオクタン価によってエンジンの設定を切り替えるためのスイッチ。日本仕様車ではN側のみがセッティングされているようで、S側に切り替えるとエンジンが始動しない。搭載されるエンジンは、アルピナの手によって更なる高みへと引き上げられている。ピストンやカムシャフト、そしてエンジンマネージメントに至るまで全て見直されており、ビッグシックスの究極の形と言えるだろう。
 
●主要諸元 B6 3.5S
全長 (mm) : 4345
全幅 (mm) : 1680
全高 (mm) : 1370
ホイールベース (mm) : 2562
トレッド 前/後 (mm) : 1424/1445
車両重量 (kg) : 1270
エンジン方式 : 直6SOHC
総排気量 (cc) : 3430
ボア×ストローク (mm) : 92.0×86.0
最高出力 (ps/rpm) : 258/5900
最大トルク (kg-m/rpm) : 32.6/4000
タイヤサイズ (前) : 225/45VR16
       (後) : 225/45VR16
新車時価格 (万円) : 1298