ALPINA B9 3.5 Coupe
アルピナの快感と大人の知性が共存したクーペ
6シリーズのアルピナは6バリエーションある
逆スラントのノーズを、最も美しい造形で実現しているのはE24型6シリーズで間違いない。空力的に考えれば圧倒的に不利なフェイスデザインも、睨みのきいた力強いルックスの前にはすべて許せてしまう。細く繊細なピラーデザイン、低いトランクデッキなど、クーペを美しく見せるための手法がフルセットで盛り込まれたボディは1000%素敵だ。
そんな6シリーズのアルピナモデルは6バリエーション。モデルライフが13年と長かったため、様々なタイプが存在する。まず最初はアルピナのブランドを広く世間に知らしめたB7ターボのクーペ版。0→100㎞/h加速5.9秒、最高速度265㎞/hという俊足ぶりを発揮する。78年から88年まで生産されたこのモデルは、厳密にはB7ターボ/1、B7ターボ/3と進化している。またB7ターボより10ps高い330psのパワーを得たB7ターボSも一時ラインナップされていた。
一方、NAモデルは初期の3.3ℓユニットにボアアップなどのメカチューンを加えたB9 3.5クーペと、635iに排気量変更は加えず、ピストンやカムシャフト、吸・排気バルブなどの交換によって261ps/35.3㎏‐mを得たB10 3.5クーペが存在する。実際に市場に流通することがあるのはほとんどがNAモデルなので、現実的なチョイスはこの2つと言えるだろう。
B9 3.5は89ミリのボアを92ミリに拡大、9.0だった圧縮比は10.2まで高められ、280度のオーバーラップを持つ専用のカムシャフトによって、いかにもチューニングユニットらしい、回すほどにイキイキとしたフィーリングを得ている。スペックこそ245ps/32.6㎏‐mとB10 3.5に及ばないものの、明らかにMTで乗るのに向いた楽しいエンジンに仕上がっている。今回撮影した前期型のB9 3.5は、比較的低速トルクがあって乗りやすい雰囲気。新車当時、45万円のオプション扱いだったZF製の4速ATともマッチングが良かった。
それにしてもこのクルマ、走らせる楽しさは抜群だ。手前に突き出した380ミリ径のステアリングを握って、いかにもスロットルバルブに直結された感触のアクセルを踏む。フロント53に対してリアが47と、理想に近い重量バランスのボディは、ビルシュタインのガス式ショックアブソーバーによって支えられ、フラットな姿勢のまま思いのままに向きを変える。高いアイポイントから広大なボンネットを見下ろしながら、その鼻先が向きを変えるのを感じつつ走るのは何とも懐かしい感覚。そして決して意図的に演出されたものではない、心に響くようなエグゾーストノート……。世の中のクルマ離れが進んでしまったのは、こういう感触を持つクルマがなくなってしまったからに違いない。E30のB6ほどやんちゃな走りではないけれど、やっぱり逆スラント時代のアルピナにしかない快感と、大人の知性が共存したクーペだと強く感じた。
全幅 1725㎜
全高 1360㎜
ホイールベース 2630㎜
トレッド前/後 1452/1446㎜
車両重量 1430kg
エンジン方式 直6SOHC
総排気量 3430㏄
ボア×ストローク 92.0×86.0
最高出力 245ps/5700rpm
最大トルク 32.6kg-m/4500rpm
0→100km/h加速 7.3秒
タイヤサイズ 前 205/55R16
後 225/50R16
新車時価格 1287万円