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PORCHE

2021.07.01

【名車回顧録 Part.03】PORCHE 911Turbo 3.6 Type964 空冷時代の希少なターボ。五感を刺激する濃厚な味わい

3代目911シリーズ(964)をベースにした911ターボ3.6は、空冷+シングルタービン最強の360psを実現したモデル。その生産台数は1875台と少なく、中古車を探してもなかなか出会うことができない希少な存在だ。ここでは貴重なターボ3.6を眺めながら、その魅力を明らかにしていこう。

PORCHE 911Turbo 3.6 Type964 1993y

3代目911シリーズ

スピードイエローのカラーがグラマラスなボディに映える。エグゾーストは通常右側のみから排気され、左側はウエストゲートからの開放排気に繋がっている。

クルマ本来の楽しさを
追求していた時代に誕生

 80~90年代のドイツ車に憧れ、いつかは手に入れるという思いを持っていた人にとっては、この964ボディを持つターボ3・6はスペシャルな存在だろう。このクルマが誕生した93年といえば、メルセデス・ベンツ初代Eクラス(W124)のエンジンがDOHC化され、190Eシリーズ(W201)も生産されていた年。世の中が自動車にワクワクしていたし、作り手もクルマ本来の楽しさを追求していた。少なくともドイツ車においてはそうだったはずだ。
 そもそもポルシェ911シリーズは63年に登場してから約50年、考えてみればこのクルマほどブレずに変わり続けてきたモデルはない。初代モデル、通称「ナロー」に乗ればガソリンとオイルの臭いを感じながら、運転という作業にも人それぞれの個性が表現できた時代を懐かしく思う。最新型では、恐ろしく緻密に計算された快適で速く走れるエネルギー効率の良い乗り物であることを痛感する。だからこそ、RRのスポーツカーというブレない基本の上で比較すると、その時代のクルマがはっきりと見えてくると思うのだ。
 まずは、ターボ3・6のヒストリーを簡単に振り返ってみよう。13年間に渡って作られた初代ターボが、最終年式の89年だけ5速ミッションを搭載していたのは有名だが、最後の1年+αだけ生産されたのがターボ3・6。964ボディとなった後も3.3ℓの初代直系となるユニットを積んでいたターボモデルのエンジンを、ここで紹介しているカレラ3・6ベースへと変更。最大出力は360psとなり、2500~5500rpmでフラットなトルクを発生する乗りやすい特性となっている。これによって最高速が10㎞/hアップの280㎞/h、0→100㎞/h加速も0・2秒短縮されている。

空冷時代のポルシェンらしさが

ギュッと凝縮されている

 実際に走らせてみると、低速トルクが厚くてとても乗りやすいのに、ターボバンドに入ると明らかに「ドッカーン」と背中をシートバックに押しつけられる加速感。「これこれ、これがターボでしょ」と思わずニヤけてしまう感覚。バタバタした空冷のサウンドも、いかにも機械らしいクラッチやシフトの操作感も、文句なしに楽しい! 乗りたい、走りたい、と思わせる魅力がある。やっぱり964、いい。ターボ3・6、イイよ。993の洗練された足回りよりも、楽しさが詰まっている。それにスタイリングもコッチの方がポルシェらしい。
 GC読者の中には「いつかはポルシェ」と思っている人が少なくないと思う。しかし、やはりポルシェも時代と共に変わり続けている。水冷エンジンとなったポルシェは確かに快適で走りを追求したリアルスポーツカーだと思うけれど、メルセデスW124や丸目4灯のヘッドライトを持つE30のBMWが楽しいと思う感性を持つ人ならば、この時代のポルシェでないと心に響かないはずだ。ポルシェが開発に加わったメルセデス・ベンツ500E(W124)の良い個体がなくなったと嘆くのならば、ポルシェを試してみるいいチャンスだと思う。ただし、生産台数が1875台と非常に少なく、日本国内で登録されたクルマはさらに少なくなるから、出会えた瞬間こそが、その時なのかもしれない。

964カレラのM64ユニットに切り替わったターボエンジン。巨大なインタークーラーで何も見えないが、その下にはお馴染みの空冷式水平対向ユニットがギッチリと詰まっている。

ポルシェ伝統である5つの丸形メーターが並ぶインパネ回り。ターボモデルはダッシュボードまでレザーが張られたフルレザーインテリアで、ノーマルとの差別化を図っている。

サポート性に優れたフロントシートは8ウェイの電動調整式となる。リアシートは2つ用意されており、シートを倒せば荷物スペースとして使用するための折りたたみ式トレーとなる。
大きなストロークながら、カッチリとしたポルシェ独特のフィーリングを持つ5MTを搭載している。

Mechanism Topic

搭載するエンジンは、カレラの3.6ℓユニットとなってはいるものの、ターボモデルの制御系は初代(Type930)のM30ユニットから引き継いだ機械式のKEジェトロニック式インジェクション。燃料分配機によって噴射タイミングに合わせて噴射ノズルからガソリンを送り込む方式が採用されている。この仕組みはシンプルな構造で80年代にはメルセデスなどのドイツ車にも多く採用されていたが、実は最後に搭載したのがこのポルシェ911ターボ3.6だった。
●主要諸元 911 Turbo 3.6(1993y)
全長 : 4250 mm
全幅 : 1775 mm
全高 : 1310 mm
ホイールベース : 2277 mm
トレッド 前/後 : 1434/1493 mm
車両重量 : 1470 kg
エンジン方式 : 水平対向6SOHC+T
総排気量 : 3600 cc
ボア×ストローク : 100.0×76.4 mm
最高出力 : 360/5500 (ps/rpm)
最大トルク : 52.0/4200 (kg-m/rpm)
タイヤサイズ : 225/40ZR17 (前)
           : 265/35ZR18 (後)
新車時価格 : 1850 万円