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560SEC AMG

2021.06.11

【名車回顧録 Part.01】AMG 560SEC 6.0-4V WIDE 全身で感じるAMGの鼓動

時間が経過しても色褪せない魅力を持つドイツの名車たちの中から、日本のバブル期に高い人気を誇り、今もなお憧れのクルマとして君臨しているAMG560SEC6.0-4V WIDEを紹介しよう。

 

AMG 560SEC 6.0-4V WIDE 1991y

過激なルックスと走りで当時AMGのイメージリーダーとなったモデル。エンジンは3層構造のAMGヘッドを持つM117ユニットが有名だが、最終型ではM119を積んだモデルも販売されている。新車価格は2950万円だったが、W126のAMGの中ではもっとも売れた。 伸びやかなボディラインが印象的なエクステリア。当時はモールまでボディ同色となり、ワイルドな雰囲気を醸し出していたが、今では深い味わいを感じさせる。

ブルーブラックのカラーが
もっとも似合うAMG

 前後ともにブリスターフェンダーが装着されてグラマラスになったボディ。フロントには8・5J、リアには10Jという幅広&深リムのホイールが収まる。今にも獲物に飛びかかろうとして低く身をかがめた獣のように映るボディスタイルは、力強いことはもちろんだが、妖艶ですらある。何より、ブルーブラックのボディがこれほど似合うメルセデスが他にあっただろうかと、しげしげと眺めてしまった。
 このクルマが現役だった1980年代、W126、C126といったクルマは一般庶民には手を出しにくい存在だった。ましてやAMGである。その頃は「アーマーゲー」と呼ばれ、ひたすらワルで妖しい存在だった。ところが今、こうして対峙すると、そのギンギラ感は失せ、凛とした孤高感を漂わせている。しかも、最近のメルセデスにないオーラを発しているのだ。
 ドアを開けると、ローズウッドパネルが全面に張られたドアの内張り、AMG製の小径ステアリングホイール、そしてレザー仕様のレカロCSEシートが目に飛び込んでくる。過剰な虚飾はなく、実用的ながらもセンス良く、かつ高級感あふれるインテリアがそこにはあった。
 当時の新車価格は2950万円と、ノーマル560SECの2倍少々。レザーのレカロCSEは140万円のオプションだった。
 イグニッションを捻ると、グアン!と野太いサウンドとともに6ℓユニットは目覚める。
 AMG560SEC6・0‐4Vは「ハンマー」と呼ばれ、6ℓまで排気量を拡大されたM117ユニットのSOHCのヘッドをAMG製DOHCヘッド(ハンマーヘッド)に載せ換えたものがポピュラーだが、1990年と91年モデルにはR129に採用されたM119ユニットのDOHCヘッドが載せられているのだ。発生する最大パワーとトルクは375ps/55・8㎏‐mと同じだが、AMGハンマーヘッド搭載の6ℓエンジンに比して、整備性、快適性、実用性が大幅にアップされたという。
 それにしても、4000rpmからの力強く滑らかなエンジンの伸びは素晴らしい。ググッとアクセルを踏み込めば、それまで低音で響いていたバリトンのエキゾーストノートは、テノールの「クォオンーー」という音質に変化し、激しいダッシュを開始する。最近の主流となりつつある過給器付きエンジンでは味わえない、大排気量チューンドNAならではのリニアで爽快な加速感を味わうことができる。

アイドリングは若干ラフなのだが、逆にそれがチューニングユニットらしい部分でもある。エンジンを始動させた瞬間からAMGの鼓動を全身で感じることができる。

街中から高速道路まで、AMGを走らせる喜びを感じさせてくれる

 C126は、セミトレーリングアームのリアサスペンション形式を採用するが、まったく不満も不安もない。街中での40㎞/h程度の速度での走行であっても、突き上げ感は皆無だし、硬いとも感じなかった。高速道路では、ヒタヒタと路面に追従するように走ってくれるから、躊躇することなくアクセルを踏んでいける。あらゆる電子制御で完全武装したがために、極端に言えばドライバーの能力など不要になってしまったかのような今のメルセデスと違い、ステアリングを握る自分が中心となってクルマに指令を与えている実感がわいてくる。しかも、重量級FRだけあって、腕に自信があるドライバーだったら、コーナリングでいとも簡単にテールをスライドさせることも可能で、スライド量のコントロールもさほど難しくはないだろう。
 この脚、もともと装着されていたAMG強化サスペンションのダンパーだけをビルシュタイン製に変更しているだけというから、オリジナルの設計の素晴らしさに舌を巻く。
 AMG560SEC6・0‐4Vワイドバージョンを走らせていると、「あのAMG」のステアリングを握り、走らせているんだ! という悦びがふつふつとこみ上げてくる。ついつい口元が綻んでしまった。
 当時、375psというパワーは天にも昇るイメージだったが、現代のこの手のクルマは500psを軽く超えているから、運転に気難しさを感じることはなかった。どちらかと言えば、メルセデスらしい、おおらかな乗り味である。しかも、6ℓエンジンは1・8tというボディをキビキビと走らせてくれるのに十分だから、20数年前のクルマを動かしているという感覚はない。古くささを感じないし、現代の交通環境の中でもまったく普通に乗ることができるのだ。全長4935㎜、全幅1850㎜というボディサイズも、今のメルセデスと比べると十分に小さく、都内の路地やパーキングでも持て余すことはない。ちょうどいいサイズだ。リアシートも現行CLSよりは広い感じ。

ローズウッドパネルを贅沢に使ったインテリアは往年のメルセデスらしい上質な雰囲気。インパネ回りはシンプルだが基本的な快適装備は揃っていて今でも十分実用になる。

ドアの内張りにはローズウッドパネル全面に装着されているが、ドアポケットにまでウッドパネルが備わっている。キズや割れもなく良いコンディションをキープ。

リアには10Jの幅広&深リムのホイールが装着されている。

シートはレカロCSEで、これは当時オプションで140万円もした超高級品である。細かな調整が可能なので最適なポジションに設定可能。
AMG560SEC6.0-4Vというと、V8のM117ユニットにAMGのオリジナルヘッドを積む通称「ハンマー」が有名だが、最終型のこのクルマはM119のヘッドを搭載している。整備性に優れているので長く付き合えるパワーユニットだ。
大きく張り出したブリスターフェンダーは高性能の証であり、所有する満足感を高めてくれる。
ブラックにペイントされたAMGのエンブレムとスリーポインテッドスターが懐かしい。このクルマはオーナーからお借りしたものだが、コンディションは抜群。普段の足として使っているくらい乗りやすいのだ。
 

純粋に高性能を追求していた時代のAMG
25年の時を経たとしても悪いはずがない

路面に吸い付くようにして加速していく感触が堪らない。古典的なセミトレーリングアーム式のリアサスでも全く不安を感じないのは当時の設計が優れていた証でもある。

当時のSクラス人気の頂点を極めていた

 C126シリーズが生産・販売されていたのは、1982年から91年までの10年間。日本はまさにバブル絶頂期で、メルセデスSクラスといえば、まさにステイタスの象徴的存在。周囲を威圧するかのようなその堂々たる佇まいには独特なオーラが漂っていた。Sクラスは高級輸入車の代名詞として位置づけられ、そのクーペ版のSECはより一層華やかで高級感を漂わせていた。当時、AMGはまだメルセデス傘下には入っておらず、実力派メルセデスチューナーとして存在していた。そんなAMGによって全身にわたるモディファイが加えられた560SEC6・0‐4Vは、そんなSクラス人気の頂点に君臨していたと言っていい。
 そして、スタンダードでも十分に大柄でエレガントなボディラインを持つSECのエクステリアは、AMGの手により格段にアグレッシブでスポーティな装いを与えられた。560SEC6・0‐4Vにはエアロパーツだけが装着され、ワイドフェンダーを持たないスタンダードボディも存在するが、このワイドバージョンではブリスターフェンダーの上にさらにフェンダーアーチを備えたワイドフェンダーが装着され、極めてグラマラスなボディとされている。
 1980年代とは別の意味でギラギラしてしまったメルセデスの現行モデルに、どうも馴染めないなぁと思っていたのだが、今こうしてAMG560SEC6・0‐4Vを味わうと、その理由がわかった。
 車両の販売は二の次として、十二分な費用と年月をかけて開発されたメルセデス、しかもあのAMGによってモディファイが加えられたコンプリートカーが、たとえ20年以上経ったとしても悪いはずがない。

AMG 560SEC6.0-4V WIDE

●主要諸元
全長 : 4935 mm
全幅 : 1930 mm
全高 : 1390 mm
ホイールベース : 2845 mm
トレッド 前/後 : 1600/1620 mm
車両重量 : 1800 kg
エンジン方式 : V8DOHC
総排気量 : 5956 cc
ボア×ストローク : 100.0×94.8 mm
最高出力 : 360/5500 (ps/rpm)
最大トルク : 55.8/4000 (kg-m/rpm)
タイヤサイズ : (前) 235/45ZR17
タイヤサイズ : (後)265/40ZR17
新車時価格 : 2950万円