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【メンテのことがよく分かる詳細解説】エンジンのオーバーホールには2つのアプローチがある!

大好きなドイツ車に長く乗り続けるために必要になってくるのがエンジンのオーバーホール。頑丈に作られているドイツ車のエンジンは10万㎞で本体が壊れてしまうほどヤワじゃないが、走行距離が進めば内部パーツは確実に劣化しているし、フィーリングも悪化していく。それを新車同然の状態に戻せるのがオーバーホールのメリットなのである。

 

 エンジンのオーバーホールには大きく分けて2つの方法がある。ヘッド部分のみに手を加える方法と、腰下も含めたフルオーバーホールである。 まずはヘッドのオーバーホールについて解説していこう。ヘッドのオーバーホールが必要になるのは、オイル下がりが発生してマフラーから白煙が出るという場合が代表的。またそこまで重症ではなくても、ヘッドガスケットが抜けてしまいオイル漏れが起きたときにも、ヘッドを外すついでにオーバーホール、となるケースが多い。ここで気をつけたいのは、劣化したガスケットやバルブステムシールのみを交換するだけでは本当のオーバーホールではないということだ。ヘッドにはカムシャフトやバルブ、ラッシュアジャスターなどエンジンにとって重要な部分が凝縮されている。そのためきっちりと各部の洗浄や点検を行ない、劣化した部品を新品にしておくのがオーバーホールという言葉が持つ本当の意味なのである。

 では、作業のポイントを見ていこう。ガスケット抜けが起きた場合にはヘッドの面研も同時にやっておきたい。面研作業によって歪みをとっておけば、ガスケット本来の性能が復活し、再びオイルが漏れることはほとんどない。同時に張力が必ず低下するヘッドボルトも新品を使うことでオイル漏れの発生をかなり抑制することができる。オイル下がりにはバルブステムシールの交換に加えて、バルブガイドの歪みもチェックしておきたい。バルブガイドが歪んでいると、バルブ開閉を正確に行なうことができなくなってしまうため、摩耗しているようなら打ち直し、または交換となる部品である。より確実な対処を施すならバルブシートカットや摺り合わせを行ない、きっちりとバルブが開閉できるようにしておきたい。これらはヘッドにおいてはとても重要な作業の一つである。

 さらにバルブタイミングを取り直すことも大切。文字通りバルブの開閉タイミングを決めることなのだが、タイミングチェーンやベルトに伸びが生じることによって徐々にずれてしまう。そのためオーバーホール時には、正規のタイミングに調整することが必須なのだ。もし、点火時期がずれた状態で乗り続ければパワーダウンを引き起こすなどの悪影響が出る。せっかくエンジンをバラして整備したのにこれでは本末転倒である。

バルブステムシールが硬化しているなどの場合は、バルブガイドの摩耗も進行している。この2つが正常でなければバルブは正しく動かない。

この小さなゴムシールがバルブステムシール。これが劣化するとオイル下がりの原因になる。

バルブの開閉をより確実にするシートカットやヘッドの面研はやっておきたい作業の一つで、バルブはカーボンなどが付着しやすいためオーバーホール時にはキレイに洗浄される。

完璧な仕上がりとなるエンジンのフルオーバーホール

 ヘッドのオーバーホールだけでもかなりの性能回復が見込めるが、より完璧な仕上がりを求めるなら腰下までのフルオーバーホールが必要となる。もちろんオーバーヒートなどでピストンやシリンダーに大きなダメージが加わったり、エンジンが始動できないなど重篤なトラブルが起きた際も同様だ。ヘッドのオーバーホールとの大きな違いはエンジンを降ろす必要があること。そのため費用面においても10万円以上はプラスとなることが多い。

 チェックポイントはコンロッドメタル。とくに径の小さなピストンピン側のメタルは摩耗しやすい。症状が進むと焼き付きの原因になりエンジンに大ダメージを与えてしまう。クランクシャフトやシリンダーの状態も念入りに点検し、キズなどがないかをチェック。また、シリンダーの状態が良くボーリングしないのならピストンリングは再使用するのが基本。フルオーバーホールするのだから部品はできるだけ新品にしたいという思いがあるかもしれないが、極端に摩耗していないシリンダーに新品のピストンリングを入れると馴染むまでに時間がかかるのだ。ただし、点検をしてリングの劣化がひどい場合にはもちろん交換となる。その場合はシリンダーのボーリング加工が必要になり、オーバーサイズのピストンやリングの交換作業が加わる。もちろん入念な洗浄によってウォータージャケットやオイルパンなどに付着した水垢やスラッジも除去される。水温上昇の原因がエンジンにあることも多いのでその効果は非常に大きいと言えるだろう。 

 ボルトの締め方一つにもノウハウがあるほど奥深いエンジン。それだけに技術力があるメカニックが組み上げたエンジンは、新車以上の仕上がりとなることも。逆に技術がなければ性能は回復せず、かえって調子を落としてしまうことさえある。どこに依頼するかというだけでなく、誰に整備してもらうかがとりわけ重要になってくるのだ。

 前述したようにエンジンのオーバーホールは、内部の劣化パーツを新品に交換して徹底的に洗浄、そして調整をするのが基本だ。そのため補機類の交換については別途の費用が発生することを覚えておこう。ただし、エンジンをバラしたついでにウォーターポンプやエンジンマウントなどの状態を見て同時に交換しておくことは、効率的なメンテナンスに繋がる。真っ当な整備をしている修理工場なら、その辺りも含めた総合的な判断と提案をしてくれるのが普通だ。予算や愛車の状態を見ながら、メカニックとじっくりと相談しながら進めたいのがエンジンのオーバーホールなのである。

ピストンリングは基本的に再使用となるが、シリンダーの状態が悪くボーリングが必要な場合には新品に交換される。

通常のオーバーホールならクランクシャフトやメタルは計測と点検を行ない、規定値内なら再使用される。この判断をするのがメカニックだ。

ヘッドボルトは長期間使用すると張力が低下してしまう。オーバーホール時には新品に交換しておきたい部品である。

メルセデスに使われるタイミングチェーン。切れることはないが、長期使用により伸びてしまうことがある。オーバーホール時にはチェックしたい部分。

オーバーホールと同時に交換すべきパーツ&加工

□エンジンオイル&フィルター → 必然的に交換を余儀なくされるのがオイルだ

□ヘッドガスケット → オーバホールするなら交換すべきパーツ

□その他ガスケット&シール → オイル漏れ予防のためシール類の再使用は不可

□バルブガイド → 長期使用を考慮するなら交換したいパーツ

□バルブシール → オイル下がりの原因となるのがこのシールの劣化

□ヘッド&スタッドボルト → 締結力が低下するため新品へ交換したい部品

□ピストンリング → シリンダーをボーリングするなら交換すべき部品

□バルブシートカット → ヘッド面研と同時に行ないたい内燃加工

□エンジンヘッド面研 → ヘッドO.H時にやっておきたい内燃加工

 

補機類などの消耗品交換はオーバーホールには含まれない! コンディションによって交換しておきたいパーツ

□ベルト&テンショナー

□エンジンマウント

□点火プラグ

□デスビキャップ&ローター

□ウォーターポンプ

□各ゴムホース

□ラジエター

□冷却ファン

上記はほんの一例だが、点火系、水回り、冷却系のパーツは状態を見て交換しておきたいところ。何でもかんでも新品にしていたらとてつもない金額になってしまう。これらの補機類においても再使用できるか否かを判断するのがメカニックの「腕」なのである。