奇跡のデザインを生み出した
“割り切りの美学”
基本性能に優れた
豪華なGTカー
ノイエ・クラッセ(1950年代の末からスタートした、新しいコンセプトを新しいクラスで行なうというBMWの開発呼称)により誕生したのがBMWの1500。後に2002へと発展し、販売面と同時にツーリングカーシーンでも大成功を収める。この成功を経て再び上級な2ドアクーペモデルをリリースする。2000C/2000CSが登場し2.5/2800/3.0CSへと発展。この次にデビューしたのがE24こと初代6シリーズだ。
ちなみに、E24をベースとしたM6は88年から正規輸入が開始されている。搭載エンジンはM1直系のM88。6連スロットルにステンレス製のエキゾーストマニホールド、革新的なコンピュータ制御など、レーシーかつ贅沢なパワーユニットを搭載する。このM6だが、ドイツ本国などではM635CSiとしてリリースされており、その登場は84年から。触媒の付かない欧州仕様では286hpという高出力を発揮していたが、日本へ導入されたのは並行輸入車のみとなっている。
これに対してM6は、実はアメリカと日本市場だけに名付けられたグレード名。厳密なことをいえば、M3やM5とは生い立ちからして異なる。欧州よりも厳しい排出ガス規制だった日本とアメリカの基準に合致させるため、圧縮比が落とされると同時に触媒の備わったM88は、265hpへと若干のパワーダウンが余儀なくされた。加えて、豪華なグランドツアラーとしての資質を高めるべく、バッファロー革のシートや前後に設けられたエアコンユニットなど、M635CSiよりもコンフォート性能が引き上げられている。
さて、ノーマルモデルの話に戻そう。イタリアのカロッツェリアであるベルトーネやカルマンとも古くから親交のあったBMW。1976年に登場した初代6シリーズもカルマン社で生産され、その端正なスタイリングは「世界一美しいクーペ」と称されたのである。ベースはE12こと初代5シリーズで、サスペンションは当時のBMWの定番であったフロントにストラット+コイル、リアにセミトレーリングアーム+コイルという形式。ライバルメーカーよりも一歩先行く優れたセッティングも相まって優れた路面追従性を可能にしていた。
パワーユニットは〝シルキーシックス〟と言われる大排気量の直6のみ。日本へ正規輸入されたものは、1984年までが3.2ℓの直6SOHC(633CSiA/180hp)とそれ以降の3.4ℓの直6SOHC(635CSiA/180hp/211hp)、そして3.5ℓの直6DOHC(M6/265hp)の4タイプとなる。
エクステリアデザインは、低いトランクデッキを持つワイド&ロー。空力や燃費など気にせず理想のスタイリングを追求した、割り切りの美学を感じる。初期モデルはメッキのドアミラーやバンパーを装着して全体的に細い線で構成されていたが、安全対策から末期には大型のウレタンバンパーとなりボリューム感を増している。クラシカルな雰囲気を重視するなら、初期~中期モデルが魅力的だろう。
インテリアは、ダッシュボードが階段状の二段構造になっていて、空調の吹き出し口が奥の方にあるのが特徴的。でも基本的にはこの時代のBMWに共通のテイストでまとめられていて、奇抜さはない。パワーシートがやたら細かく調整できたり、後期モデルではリアシート専用のエアコンシステムが搭載される(クーペなのに!?)など、装飾より実用的な装備を重視しているのがドイツ車らしいところ。左ハンドルのみで大きなドアを持つクーペは、実際に使ってみると乗り降りにも不便なことが多いけれど、クルマから離れる時に思わず振り返って見とれてしまう。デビューから46年が経っても変わらないカッコ良さは、本物だと思う。
事実、今でも多くのファンがE24に惚れこんでおり、ノーマルのみならず、希少なアルピナやM6の愛好家も数多い。今では絶対に作られることがないラインで形成された奇跡のデザイン、GTカーにBMWの味付けがされたフィーリングなど、熱狂的なユーザーを夢中にさせるだけの魅力に溢れているのである。
取材した635CSiは、本誌の編集中に売約済みとなった。つたえファクトリーの宍戸支配人によると「程度の良いE24を探している人は多いんですよね。良い物件を見つけたら早めに相談してほしいです」とのこと。E24のような希少価値が高まっているネオクラシックは、やはり早い者勝ちなのだろう。
維持は大変なの?
1988y BMW 635CSi
NAかつアナログな作りが特徴となっているE24の直6SOHCユニット。全体的にはオイル漏れを一掃して、水回りのメンテナンスを進めるようにしたい。
純正品にこだわり
すぎない柔軟性も必要
言わずと知れた「世界一美しいクーペ」と言われる初代型6シリーズ。カルマン車がコーチビルドしたボディを被せたクーペモデルであることは、前コーナーで解説した通り。
E24に搭載されるエンジンは名機M30系のビッグシックスと、M6に搭載されたM88系。当時の新車価格は1000万円以上であり、当時から高級車として君臨していたモデルだ。
それゆえ、3シリーズや5シリーズに比べると販売台数はそれほど多くはない。また、当時は消耗部品が高かったこともあり「維持するのが大変なクルマ」というイメージが付いてしまったモデルである。
ところが、現在では純正品以外のOEMパーツが流通しており、これらを使えば昔ほど高い維持費はかからない。さらにE24は欧州のみならず、アメリカでも好調なセールスを記録していたクルマなので、リーズナブルなUS製リプロパーツも存在する。ただし、その中にはクオリティが低いものもあるので、個人輸入などをする際は注意が必要だ。プロのアドバイスを聞いてみるのがベストな選択といえるだろう。
エンジンやミッションなどのメンテナンスは、同年代のBMWとほぼ同じような感じで、定期的な消耗品の交換が必須となる。機関部分に関しては、それほど心配せずとも、壊れることは少ない。問題は内外装のパーツだ。古いクルマの宿命だが、純正パーツにこだわると時間も費用も膨大なものになりかねない。事故などで欠損した場合は、中古パーツや現代のリペア技術で直せるものは直すというスタンスがいいだろう。
E24は自動車遺産的な名車である。これをやっておけば大丈夫というわけではなく、E24をよく知るショップや修理工場で、確実な整備を施してもらうことが何より重要になる。例えば、ブレーキサーボがエンジンの負圧でははなくアキュームレータに溜めたガス圧で作動するなど、凝ったメカニズムも採用されている。こうした構造や部品に詳しいプロにクルマ全体を点検してもらうことが第一歩。オイル漏れや水回りも合わせてリフレッシュしておきたい。
メカニズムトピック
往年のBMWらしい作りの良さを
感じるポイントとは?
後席用のエアコンを
搭載している
初代型6シリーズを見て、まず感じるのは、昭和時代の名機と言われる直6エンジン、通称ビッグシックスだが、細かな部分を見ていくと、高級クーペらしい作りの良さが感じられる。例えば、リアシートは左右セパレートタイプで、ふかふかなクッション、乗り心地は絶品だ。飛行機のファーストクラスに乗っているような……そんな気分にさせてくれる。センターには、クーペボディであるにもかかわらず、後席用のエアコンが装備されているのも豪華なポイント。ある意味、当時の7シリーズにも匹敵する内容が、E24型6シリーズに投入されていたのである。ウッドパネルなどで装飾して豪華さをアピールするのではなく、実用性にこだわっていたのは、いかにも往年のドイツ車らしい部分である。
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