Mercedes-Benz 300SL ROADSTER
ボディ剛性やデザイン性を損なわずに
合理的な手法で生まれ変わった
ガルウイングドアを持つクーペは、メルセデスらしい合理性に基づいて完成させたもの。軽量で本格的なスポーツカーとして高性能を誇った。そのクーペと入れ替わる形で57年3月に登場したのが、オープントップを持つロードスターである。
ガルウイングドアが廃止されてロードスターに変わったことは一目瞭然だが、それ以外にも細かな違いがある。まずはボディパネル。クーペでは軽量化を重視していたこともありアルミ製となっていたが、ロードスターではスチール製に変更されている。そのため車重においてはクーペよりも35㎏重い。
フロントマスクを見ると、ヘッドライトが丸型からタテ型に変更。左右にあるフェンダーの盛り上がりがクーペよりも大きくなっているためか、よりエレガントな雰囲気を醸し出している。ホイールベースはクーペと同じ2400㎜だが、全長は50㎜延長されている。これはソフトトップの格納スペースを確保するために、リアオーバーハングが延ばされているということだ。デザイン的にもテールのボリューム感が増しているのがよく分かる。また、ボディを延長したことでトランクスペースを確保できたことも大きな変更点だ。
モノコックボディが登場する前であったため、ボディの構造はクーペ同様にチューブ状のフレームを組み合わせたもの。大きな違いでもあるドア回りは、サイドシル部分を貫通していたメンバーに補強を加えることによって剛性を保ったまま低い位置へと変更され、開口部が広い一般的なドアに生まれ変わった。
サスペンション形式はフロントがWウィッシュボーン、リアがスウィングアクスルで、これはクーペと同じだがリアのスウィングアクスルは分割して左右のタイヤが独立して動くように改良、デフの後ろにはコーナーでアクスルの動きを抑えるためのスプリングも設置され、コーナリング性能を高めている。4輪ドラム式だったブレーキは、61年にディスクタイプに強化されている。
インテリアは分厚いパッドで覆われたダッシュボード、ホーンリング付きのステアリング、大きな2眼タイプのメーターなどクラシカルな雰囲気がたっぷり。切り立ったフロントウインドーはキャビンを囲むように装着され、まさに往年のロードスターといった印象だ。
気になるエンジンに変更はない。40度以上傾斜して搭載されているSOHCの直6ユニットは、エンジンの潤滑にドライサンプ式を採用するといったようにスペックもクーペと同じで、4速タイプのマニュアルミッションとの組み合わせ。ただし、最高速度は225㎞/hと、クーペよりも抑えられている。
本格派スポーツカーとしての性格が強かったクーペに対して、ロードスターは快適性を重視した仕上がりとなっている。
単純にガルウイングドアを廃止しただけではなく、一般の人でも快適に乗れる実用性を合理的な手法によって、ボディ剛性やデザイン性を大きく損なうことなく進化させたのが300SLロードスターというクルマだ。
Mechanism Topic
ガルウイングドアを廃止して実用性の高い一般的なドアに変更
●生産台数:1858台
HISTORY
1957年 クーペの300SLと入れ替わる形で、オープントップを持つ300SLロードスターが登場。ガルウイングドアは廃止されて通常のドアに変更されている。
1958年 アルミ製のハードトップがオプション設定される。
1961年 4輪ドラム式だったブレーキが、ディスクブレーキに変更される。
1963年 300SLロードスターは2月まで生産が行なわれる。総生産台数は1858台だった。
Specifications・・・メルセデス・ベンツ 300SLロードスター
全長・・・4570mm
全幅・・・1790mm
全高・・・1300mm
ホイールベース・・・2400mm
トレッド・・・前/1398mm 後/1448mm
車両重量・・・1330kg
エンジン方式・・・直6SOHC
総排気量・・・2996cc
ボア×ストローク・・・85.0×88.0mm
最高出力・・・215ps/5800rpm
最大トルク・・・28.0kg-m/4600rpm
サスペンション・・・前/Wウイッシュボーン 後/スウィングアクスル