80年代のポルシェを知る人にとってはあまりにも有名な初代CTR。930ターボをベースにルーフ社が極限までチューニングを施し、市販車最速のマシンとして注目を集めたクルマだ。新車価格が5600万円というのもスーパーなのだが、ポルシェをベースに高性能を追求したルーフ社の技術力の高さも見逃せない。
PORCHE RUF CTR
ルーフ シーティアール
伝説のきっかけとなったのは
市販車最速を決める雑誌企画
その圧倒的な速さと意外なまでのエンジンの扱いやすさ、数々の伝説、そしてオーラ漂うたたずまい。初代CTRというクルマは、未だにフリークの心を惹き付けて止まない、数少ないクルマと言える。トーションバースプリング独特の跳ねるような乗り味や、斜めに伸びるシフトレバーなど930シャシー特有の感触も含めて、すべてがCTRの個性として許せてしまうような魅力があるのだ。
CTRが現在も語り継がれる伝説となったきっかけがある。87年4月12日のことだ。米ロード&トラック誌が市販車最速を決める企画の中で、CTRが339㎞/hという最高記録を叩き出したのだ。フェラーリ288GTO、AMGメルセデスSEC6・0 4V、ランボルギーニ・カウンタック、ポルシェ959などそうそうたるスーパーカーがライバルにいながらのことだから、当時のインパクトは強烈だった。
CTRとは、カレラ・ターボ・ルーフの略。リアウイングを持ち上げて驚くのは、エンジンルームのスッキリした様だ。911ターボと言えば、エンジンの上に巨大なインタークーラーが覆い被さっているのがお約束だが、CTRはツインターボというだけでなく、インタークーラーもセパレート式となり、リアフェンダー左右の内側にそれぞれ組み込まれている。したがってターボウイングではなく、カレラウイングを備えているのも、CTRの特徴だ。
エンジンルームは完全に作り替えられ、空気の流れを見事にコントロール。これらはチーフエンジニアであるジョセフ・フーバーのアイデアだと言われている。
高出力でありながら低回転からブーストが立ち上がるパワーユニットは、2速でも4速でもまったく変わらないのではないかと思うほどの加速力。469psという数字を鵜呑みにしてはいけない。ルーフが公表する数値は最悪の条件下でも維持できるものであり、実際のCTRは510ps以上のパワーを誇るのだ。
排気系は当時ポルシェ962などのレーシングカーに使われていた、ニッケル系の超耐熱合金インコネルによって作られている。加工性が極端に悪い特殊な素材を使ったのは、この高性能を日常的に安定して使い続けることができるためである。
パッケージングの成功により
圧倒的なスピードを実現
後期モデルではトランスミッションが5速から6速になり、さらに高速巡航性が高まり、最高速度は342㎞/hに達した。CTRの高速性能は、エンジンチューニングを限界まで追求した結果ではなく、軽量で小柄な911のボディと高トルクで柔軟性の高いパワーユニットを組み合わせたパッケージングの成功によるものだと言える。
今やクルマの最高速度競争は300㎞/h台を一気に飛び越え、400㎞/h台に突入している。それらは呆れるほどのパワーによるもの。それはそれで凄いとは思うが……。CTRについても、その後993ベースのCTR2、そしてミッドシップのCTR3が登場し、高性能化、豪華さは高まるばかりだ。
それでも初代CTRの輝きは微塵も変わっていない。ドイツだけではなく、自動車史に残るスーパースポーツマシンとして、これからも伝説は語り継がれるだろう。
Mechanism Topic
特別な空力パーツを装着していないCTRだが、細部を見ると空力に対するこだわりが見られる。例えば、911シリーズの特徴でもある左右のフェンダーを立ち上げるきっかけとなっているヘッドライト。これは高速走行時に舵の役割をしてクルマを安定させているのだが、CTRは少しでも空気抵抗を低減させるために薄いヘッドライトレンズを使って傾斜を強めているのだ。サイドミラーについても、極限までの空力を考えた結果デザインされたものである。
●主要諸元 RUF CTR
全長 : 4150 mm
全幅 : 1690 mm
全高 : 1310 mm
ホイールベース : 2272 mm
トレッド 前/後 : 1395/1456 mm
車両重量 : 1200 kg
エンジン方式 : 水平対向6SOHC+T
総排気量 : 3366 cc
ボア×ストローク : 98.0×74.4 mm
最高出力 : 469/5950(ps/rpm)
最大トルク : 57.0/5100(kg-m/rpm)
タイヤサイズ : 215/45VR17 (前)
: 255/40VR17 (後)
新車時価格 : 5600 万円